第155話 弟子の末路
前回のあらすじ
皇子復活!
「? 人がいるぞ?」
「民間人ですか? 旧道は封鎖中のはずですが」
「いや、あの身なりは魔法使いだが軍人じゃない」
キャフが率いる大隊が旧道を北上する最中、馬に乗って先頭に立つキャフとマドレーが人を見つけた。よろよろと、覚束ない足取りだ。1人だけである。近づくと、それはキャフが見覚えのある人物だと判明する。
「ぐ、グタフ?」
「誰ですか? それ?」
「オレの弟子だった奴だ」
「ああ。クムールに行った時に会った敵か」
大柄なその男は、紛れもなくグタフであった。
キャフの馬に一緒に乗る皇子も、同意する。
クムール帝国にいるはずなのに、モンスター生息域を何日も彷徨ったのか服はあちこち擦り切れて穴が開き、痩せ細っていた。
その服は、クムールの帝民服ではなくキャフ邸で見慣れた魔導服姿だ。立って歩くのすら覚束ず、魔法杖を杖代わりにしている。三十代のはずなのに、もう七十代の爺さんみたいに老け込んでいる。クムールで会った時から何があったのかと不思議に思うキャフだった。
「き、キャフ先生……」
「どうした? 本当にグタフなのか?」
キャフは馬を止めて皇子を残して下り、グタフの元に駆け寄った。
「お前、あの学校はどうしたんだ?」
「そ、それが急に用無しだと言われ、逃げて来たんです……」
グタフは大柄な男に似つかわしく無い、大粒の涙をボロボロこぼした。軍隊が停止したので何事かと、フィカやミリナ、ラドルやケニダら中隊長達が後方からやって来た。
「あ、グタフ先輩だニャ」
「おい、こいつどうしたんだ?」
「クムールからお払い箱になったらしい」
以前戦闘を繰り広げた経緯があるので緊張気味な3人を前に、グタフは肩をすぼめて恐縮している。一度裏切ったとはいえ、キャフは色々と彼に世話になっている。まだ警戒心のある3人に対して、少し気の毒に思うキャフであった。
「とりあえず、何か食うか?」
「あ、ありがとうございます……」
キャフは馬に乗せていた荷袋から、軍用食を出してグタフに渡す。すると彼は一気にムシャムシャと貪った。やはりかなりの空腹だったようだ。頬がこけ、つぶらな目が大きく見える。あっという間に食べ尽くした。
「モンスター生息域を、抜けて来たのか?」
「は、はい…… 用無しで済むなら良かったのですが、地下ダンジョンで奴隷として働かされそうになり、隙を見て逃げて来たんです。もう、こりごりです」
「そうか、大変だったな」
皆がグタフに同情を寄せつつある中、1人だけが冷静だった。
「全く、三文芝居だね。くだらない」
皇子はグタフに同情など全くせず、厳しい視線を向ける。
その様子に、キャフはすこしたじろいだ。
「マドレーくんも、気付かないの?」
「……多少は。でも自分は魔素がそれ程ないので」
「ったく、キャフくん、もっとしっかりしてよ」
そう言うと、皇子は右手をグタフにかざし衝撃波を撃つ。だがグタフは、瞬間移動でそれを避ける。衝撃で転んだ後に立ち上がると、グタフはさっきまでの同情を引こうとした顔から憎悪と敵意に充ち満ちた表情に変貌していた。
「やっぱり、騙せねえか。仕方ねえ、死ねぇえ!!」
グタフの全身が邪悪な光に包まれる。そして光はグタフと共にどんどん大きくなり、人間とは思えないような巨大なモンスターへと変化した。融合モンスターだ。
「ぐ、グタフ……」
「見たか! これが今の姿よ! あんたのせいでこんな風になっちまったんだ!」
そう言うと、グタフは口から火を吐いた。
炎はキャフ達に襲い掛かったが、防御魔法でかろうじて防ぐ。
やはりモンスター化したせいで魔法の威力が何倍にもなっている。
「そうだ、こいつが居なければお前らなんか! 皇帝様への貢物だ、これで元に戻れるんだ!」
グタフが魔法をかけると、キャフ達は異空間に飛ばされた。
* * *
「また、こん中に来たのかニャ? クズフの精神世界の中なんて嫌だニャ〜」
「オレ達、4人だけか。皇子は?」
「いないですね……」
「はっはっは、強がりを言ってられるのも今のうちだ。ラドル、お前の影口なんて先刻承知よ。でも顔とスタイルが良いからな、奴隷愛人にして存分に可愛がってやる」
化け物の姿のまま、グタフが現れた。キャフ達より巨大だ。
「ひえ〜 クズ、いやグタフ先輩、許してニャ〜」
「お前の体をたっぷり味わってからな!!」
むっつりした嫌らしい顔で、グタフは攻撃魔法をかけた。七色の光の刃が4人に襲いかかる。キャフが防御魔法で防ぐものの、魔素の消費は現実空間よりも激しいようだ。一回の魔法発動でかなり疲労する。
「くそ、これじゃ魔法を発動し過ぎるとヤバいな……」
『大丈夫かい、キャフくん?』
突然、皇子の声が空間に響いた。
「皇子!」
「助けてニャ〜」
『残念ながらそれは無理みたいだ。彼の閉鎖空間は強力で、長○有希みたいに干渉するのはどうも不可能だよ。かろうじてこうして声を送れるくらいだ』
「マジかよ!」
『悪いけど、キャフくん達で何とかしてくれ。きっと出来るよ』
それだけ言い残すと、皇子の声は聞こえなくなった。
「何か、放り出した感じだな」
「皇子がなんでも出来ちゃう展開に、作者が飽きたんじゃないですか?」
「私たちどうなるかニャ?」
「くっそ〜 まじでヤバいな」
作者の意図は知らないが、絶対絶命のピンチに陥ったキャフ達であった。




