第154話 光の美少年
前回のあらすじ
魔導師キャフ、ガチでヤバいw
こいついつもヤバいな
「あれ、何ですか?」
「鳥かニャ?」
「飛行機……は、この世界にねえな」
巨大化け物の攻撃をかわしながら、3人は光の正体が気になっていた。
ペリスカ山に浮かんだ光の塊は、だんだんと近づいてくる。
接近してもそれほど大きくはないが、実体が見えてきた。
「あれ、やっぱり人かニャ?」
「そのようだな」
「もしかして…… 皇子?」
3人が思ったように、飛んできたのはムナ皇子の姿をしたアースドラゴンであった。赤い光を纏いながら空を飛んできた姿は、以前にも増してパワーアップしたようだ。腕を振りかざすと、キャフの魔法よりも強力な衝撃波が化け物目がけ繰り出される。
ウギャァアア!!!!
化け物はたまらず悲鳴を上げた。化け物も魔法攻撃に対処するため反魔法の青白い光を出していた。だがムナ皇子の技はキャフの魔法と違うのか全く減弱せずに直撃し、足が二本ほど削り取る。切り取られた足は胴体から離れた後ものたうち回っていた。
「これはいけるか?」
「頑張れ皇子!!」
まるでウルトラマンの登場に安心した科特隊のようで、主人公としては少々情けない。だが邪魔する訳にもいかないから、キャフ達は一歩引いて皇子の戦いを見ていた。やはりアースドラゴン、このレベルの化け物ですら相手じゃないようだ。
どんどん体を削り取られ動きが鈍ってきた化け物に、最後の止めの一発を喰らわせる。すると哀れな化け物はドロドロと溶けていった。後には死体の骨すら残らない。
赤い光から白っぽい光に変わった皇子は、そのままキャフ達の元へ飛んできて降り立つ。ドラゴンに変わる前の姿は久々に見る。ラドルとミリナは目が輝いて、ヨダレが出かけていた。まるでアイドルを目の前にして興奮するファンのようだ。
「お久しぶりですね。元気でしたか?」
「皇子〜 会いたかったですぅう!!」
「もうドラゴンなんかにならないで、このままでいるニャ!!」
早速2人は昔のように、すりすりサワサワし始める。皇子は別にどうでも良いらしく、2人にされるがままだ。ただ懐かしいのか照れ臭いのか、以前よりは少し笑っていた。
「お前、ドラゴンからこの姿に変われたのか?」
「そうだね。未だ成長中だけど、どうも人間体への変換が己の意思で可能になったみたいなんだ。多分ドラゴンにも戻れるよ」
ドラゴンの体には、まだまだ謎が多い。
「戻っちゃ嫌ニャ!」
「お願いです♡」
「まあこの体も久しぶりだからね、少しは良いよ」
「わーい」
「やったニャ!」
その言葉に甘えて、2人は激しく皇子の髪をわしゃわしゃする。だがキャフは、邪魔だと言うように2人を皇子から引き離した。少しぶーたれ顔の2人であるが、キャフは構わず話を続ける。
「なんで起きたんだ?」
「も、もしかして私の通魔石が?」
「いや、気づかなかったよ。それより、”モンスターの哀しみ”が聞こえてきたんだ」
「”モンスターの哀しみ”?」
キャフは初めて聞く言葉に聞き返した。
「うん。別に何がと言う訳じゃないんだけど、心がつんざくような声がしてね。聞いてる自分も苦悶するような、それも複数からなる哀しい声だよ。その元を辿って、さっきの化け物の存在を知ったんだ」
「そうなのか……」
「あれはもう、殆ど死んでいた。それを繋ぎ合わせて最後の一花を咲かせるため、暴れるよう命じられていたんだ。あんな死ぬために生きるような化け物は、存在しちゃいけない」
モンスターを統べるドラゴンの立場として、皇子は黙っていられなかったようだ。ただ殺すことでしか報われなかったとしたら残酷である。
「あれは、一体なんなんだ?」
「『融合魔法』を使ったモンスターの融合体。はるか昔に禁忌とされ封印された最高位魔法の一つさ。継承する魔法使いなんてもういないと思ってたんだけどね」
皇子の説明に3人は驚いた。魔法使いであれば、古典の伝説は知っている。だが全ては神話の世界で、本当にこの魔法を目の当たりにするとは思っていなかった。恐らくだが、あの魔導将軍イシュトが行った技だろう。キャフの魔法でさえこのレベルにはなく、相手の強さを思い知らされる。
「あんなの、オレ達で勝てるのか?」
「どうだろう。融合モンスターは未だいるはずだ。色んな要素が混ざっているからね。それぞれの化け物ごとに、攻略法が違うかもしれない」
「お、皇子も一緒に来てほしいニャ〜」
ラドルはぶりっ子のフリをして、皇子を誘惑し始めた。そんな見えすいた技に引っかかる皇子ではなかったが、この状況は特別らしい。
「あれはモンスター界のバランスを著しく崩す存在だ。未だ複数の気を感じるよ。だから僕が介入しても、他の大陸にいるドラゴン達は文句を言わないかもね。でもそれも、モジャン地方までだよ。今のモドナに僕は行けないんだ」
「ありがとう。それだけでも助かる」
キャフは皇子を伴い、避難していたマドレー達の元に赴いた。
化け物の消滅を見て、既に工作兵達が防御壁の修理に取り掛かっている。
キャフが連れてきた金髪の美少年に、マドレーは不思議そうな顔をした。
「マドレー少佐、彼は元ムナ第四皇子で今はアースドラゴンの転生者だ。あの化け物もこいつが退治してくれた。ムナ皇子、彼はマドレー少佐。今はオレの隊の副隊長をしている」
「え、あなたがですか。初めまして。お話はキャフ中佐から伺っています」
紹介を聞き、少年がいる理由に納得したマドレーである。
「はじめまして。キャフくんは面白いでしょ?」
「ええ、そうですね」
2人の言葉を、不思議そうに聞くキャフであった。
夜はフィカやケニダ、他の小隊長と共に、今後の作戦を相談する。
「どうも今回みたいな融合したモンスターは複数いるらしい。流石にお前らの手に余るだろう。オレでも倒せるかどうか分からん。今度出てきたら迷わず逃げろ。オレ達4人で何とかする」
「分かりました」
「それで今後の展開だが、まずは、壁の補修を最優先だ。これが出来上がり次第、予定通り北上する。とにかく旧道全域の奪還を目指す」
「了解です」
「それまで兵士達を訓練して研鑽に努めてくれ。以上、解散」
それから暫くは、壁の補修とパトロールに費やされる。
フィカも加えた3人は皇子も交え、一緒に行動する時が多くなる。
兵士達も交代で息抜きをしているから、文句を言う訳にもいかない。
十日後、ようやく壁の補修に目処が立ってきた。
工作兵や防御のための兵を残して、キャフ達は旧道を北に進んだ。




