第153話 異形のモンスター
前回のあらすじ
今回は準備万端! 楽勝かな〜
「おかげさまで壁の増強は捗っております。これも、資材を調達して下さったおかげです。ありがとうございました、キャフ大佐」
「いや、オレじゃ無い。タージェ評議員長のお力添えだ。この資材は彼の領地にある材木や石材なんだ」
「そうだったんですか。それはありがたい事です」
アトンに駐留する責任者モノレグ少佐は、キャフに感謝し現状を丁寧に説明した。空堀も深く掘られ、砦同士を防御壁で繋げている。モンスターと言えども簡単に近づけない造りだ。
まだこの先にも点在する村があるが、残念ながら今すぐに取り返すのは難しい。まずモジャン地方やこのアトン周辺からクムール軍を追い出すことが先決だ。一歩一歩、確実に進めねばならない。
キャフやマドレーがモノレグ少佐から説明を聞いている最中、フィカやラドル、ミリナの3人は、久しぶりにアトンの街を散策していた。
未だ戦闘は無く工作兵の活動が主なので、彼女達をはじめ兵士達には時間の余裕があった。ちょうど良いからと、3人が住んでいたアパートを見に行ってみると、既に別のアパートに建て替えられていた。思い出が無くなるのは寂しいが、このご時世だから仕方がない。
「皇子どうしてますかね〜 通魔石、使ってみますか?」
「使ってみるニャ」
「ああ、やってみろ」
ミリナの発案で、ムナ皇子にむけて通魔石を使い念じる。ここから見える、あのペリスカ山の麓にいるはずだ。
「…… 駄目みたいです」
「未だ寝てるんだな」
「仕方ないですニャ」
残念ながら、応答しなかった。
3人は気を取り直し、街中で見つけたオープンカフェでお茶にする。
軍服姿だからか、ウェイトレスのサービスも良かった。
戦争前は軍人を守銭奴扱いして忌み嫌っていた人達も今ではすっかり見直して、頼りにしているようである。
日差しが強いが、風も程よく快適な日だ。
少し離れた先にある、キャフ達のいる防御壁が頼もしく見える。
「はあ、この調子で三週間以上かかるのか。大変ですね。わたし中隊長なんて柄じゃ無いから、疲れちゃいました。気を遣っちゃいます……」
晴れた空と裏腹に、ミリナは大きくため息をついた。
ミリナの隊は、主に魔法使いの部隊だ。当然ミリナの魔法が一番強いから兵士達は言うことを聞く。だが人をまとめるのは別問題で、もともと内気な性格のミリナは何かと大変であった。殆どがミリナより年上なのも、心情的に複雑にしている。愚痴はしばらく続いた。
「私んとこは気が楽ニャ。犬兵さんとも、こういう時は仲良しニャ」
ラドルが率いる隊は獣人部隊だ。意外と言っては失礼だが、上手くいっているらしい。ラドルの気楽なノリが、良い方向に作用しているようだ。元々獣人は少数派である。そのため団結力があるのかも知れない。
「私は多少経験あるからな。まあ男は最初に急所をやっとくと、あとは素直になるぞ」
フィカのアドバイスは、正しいのかどうか不明である。
ただむさ苦しい兵士達も、色んな意味でフィカに従っているのは確かだろう。
三者三様の悩みと話題が尽きない、そんな時であった。
ジャーン、ジャーン、ジャーン!!
防御壁の方で、銅鑼が三回鳴らされた。
その音は、アトン中に響き渡る。
「え、三回鳴った?」
「そのようだな」
「つまり、敵来襲ってことですニャ。行こうニャ!」
ラドルの言うように、銅鑼が三回鳴らされるのは、緊急事態の知らせであった。兵士達は急ぎ、防御壁に集まる。当然キャフとマドレーも、前方で敵を待ち構えていた。
「あ、あれは?」
「あんなの、見たこと無いですニャ!!」
「ああ、陸ダコかと思ったが、あんな変なモンスター、オレも初めて見るぞ」
キャフすら知らないモンスターは、正に異形の生物であった。
タコのように八本足と頭があるが、その上に何人もの人間やゴブリン、動く石像達が乗っている。いや乗っているのではなく、タコと融合したようだ。壁よりも大きなその姿は、アルジェオン兵達に恐怖を植え付けた。
そしてタコの大きな口から、大砲のような石が吹き出される。
ヒュー〜ーン、、ドカァアアン!!!!
その化け物が放った石は、砦の壁に直撃した。
一発で終わらず、何発も打ち出される。
壁が次々と破壊された。
ドカァアン、ドッカァアアンン!!!
「うわぁあーー!!!」
突然の壁の崩壊に、兵士達はうろたえる。不幸にも落ちた兵士は、タコの足に絡めとられ吸盤に吸い付かれ、体内に取り込まれて行った。化け物が食料としているようだ。
「助けてくれぇえええ!!!!」
「まだ死にたくねえぇえ!!」
取り込まれた兵士達が悲鳴を上げるものの、打つ手がない。怒りより恐怖が勝り、兵士達にも動揺が走る。このままでは犠牲者が増えるだけと判断したキャフはミリナとラドルを残し、他の兵士はフィカやマドレーに任せ後方に退避させた。
「こりゃ、ヤバいぞ。本当の化け物だ」
キャフは術式を作動させ、魔法発動の準備をする。
「電撃砲!!!」
キャフが放つ光の砲弾が、化物に直撃する。だが化け物から青白い光が出てきて、キャフの魔法は打ち消された。ダメージはないらしく、再び化け物が防御壁へと迫ってくる。
「何?」
「キャフ師、よく見てください。反魔法の術式が組み込まれています」
「うわ、あの時と一緒か」
ミリナの指摘通り、モジャン攻防戦で動く石像達にかけられていた、反魔法の術式らしい。あの融合した動く石像にでも組み込まれているようだ。
「本体を攻撃しなきゃ良いんですよ。大地の怒りを思い知れ!!「地震」!!」
ミリナが、化け物の足下に地震を起こさせる。防御壁の砦も揺れ再び幾箇所か崩れるものの、化け物の足元には落とし穴のように大きな窪みができた。だが化け物がはまり込むほどには大きく出来なかった。化け物は長い足をゆるゆると動かし、再び迫ってくる。
「ごめん、無理でした……」
「ファイアビーム!! やっぱり効かないニャ……」
キャフ達の奮闘も虚しく、その化物は直進して続ける。
そして遂に、直接足が壁に届くところまで来て破壊し始めた。
(やべえな、これ)
剣で応戦しても、犠牲者が増えるだけだ。
キャフでさえ何も対処できない、その時だった。
キラッ!
「え、何か光った?」
右手の方にあるペリスカ山で、何かが光った。




