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第151話 スカイカフェにて

前回のあらすじ


魔導師キャフ、復活!

 魔導師キャフの復活から数日経った、ある日のこと。


「やあ、マドレー君。今回はご苦労だった。予想以上の成果で推薦した私もほっとしたよ。おかげでアルジェオンも、反撃の糸口が掴めそうだな」


 タージェ評議員長は嬉しそうに言った。


 ここはレスタノイア城の上部にある、スカイカフェ。

 一部の人達だけが会員として利用できる。


 あの隕石雨(メテオシャワー)騒ぎで多大な被害を受けて修復中だったが、最近やっと再オープンした。全てゆったりした個室なので気軽な話もしやすい。


 議会の昼休み、タージェ評議員長に誘われるままにここへ来た。


 偉くなって一見さんお断りの会員制バーなど今まで入れなかった場所に来たら、普通は喜び特権を享受するのかも知れない。しかしマドレーは逆に、心が重かった。タージェ評議員長は、軍よりもルーラ女王達に近い考えの持ち主だ。だから尚更、無下には出来ない。


 だがこんな場所に呼ばれてする話は、きな臭い内容が多い。

 出世とか追い落としの話だと、受けたくは無かった。

 どの話でも対応できるよう、マドレーは自然と身構えている。


「ありがとうございます。でも僕1人の成果じゃ無いです」


 謙遜であるが、本心でもある。マドレーの能力は言ってみれば知力だけだ。

 魔素が多くても魔法に興味なく武力は弱いので、兵力としては役に立たない。

 つまり単なるまとめ役であり、この成果は現実に戦った彼らのおかげだ。

 あ、女装も能力だと言えばそうかも知れない。


「まあ、そうだがな。でもあの演説で彼らを納得したおかげで実行できたんだ。言葉の力は大切だ。毒にも薬にもなる。やはり君のおかげだよ」

「そうですかね……」


 マドレーは納得しない顔で、お茶を飲み始めた。女王の部屋で飲むのと同じぐらい、高価な銘柄のお茶だ。でも何故かあまり美味しくない。


 少し間をとるために、窓から外の景色を眺める。


 ここからはイデュワを一望でき、普段であれば気分も晴れるだろう。ようやく以前の白い都の街並みを取り戻しつつあるようだ。だが《三羽の白鳥》の一つマジックタワー上階は、隕石の直撃で未だ一部崩れ落ちたままである。


「マジックタワーの再建は何時になりますかね」


 マドレーは、少し話題を変えてみた。


「ああ、これはリル皇子も御英断だった」


 タージェ評議員長が言うように、魔法協会会長のリル皇子も同意の下、戦争中はマジックタワー再建を中止することになった。今のアルジェオンの予算規模を考えると妥当である。


「実際、アルジェオンの国力は戦争に耐えられるのですか?」


 マドレーは、ずっと気になっている質問をした。

 相手の意図が分からないなら、質問攻めにして主導権を握れば良い。

 丁度、込み入った話ができる良い機会だ。


 会議でも各種の統計値は出てくるものの、上にあがって来る数値だけでは見えない事象も多い。長年領地経営しているタージェ評議員長なら裏事情を知っている筈だ。


 マドレーの質問に、タージェ評議員長は嫌な顔一つせず返事をした。


「そこだな。既に夏も近い。モジャン地方の農地は荒れているから、秋の収穫は期待できない。あの地域で国全体の二割を賄っていた。モドナの海産物もしかり。私の領地は安泰だから今は耐えられるとしても、年を経るごとに厳しくなるだろう」

「国の収入はどうですか?」


「モドナの封鎖で貿易関連が壊滅的、かなり悪いと言う話だ。税収が二割減との予測もある」

「そりゃ、ひどい」


 思った以上の値にマドレーは驚く。このままでは国が二年ともたない。幾ら勝てそうな材料があっても、国が傾いたら意味がない。一度勝っただけで終わるかどうかすら怪しい。


「だがな、クムールも同じ状況の筈だ。あいつらの方こそ国力が我々より低い筈なんだ」

「でも、講和の使節や話し合いの雰囲気は全く出て来ないですね」


 マドレーは気になっていた。モンスター生息域内にある南北の道路を分断した現在、クムールの戦局は不利な筈だ。なのに何も言ってこない。


 ただ封鎖も完全では無いから、何かあるのかも知れない。

 今は虎視淡々と、反撃の機会を伺っている可能性もある。


 いずれにせよ話し合いが無いと言うことは、やるつもりなのだろう。


「そうなんだ。だから我々も次に打つ手を困っておる。君ならどうする?」


(ははあ、そう言うことか……)


 マドレーは、タージェ評議員長が言わんとする事を理解した。つまりこの前と同様、戦局に関する自分の見通しを聞きたいのだろう。


 それなら言いたいことを言えば良いと、気が楽になる。

 マドレーは饒舌に話し始めた。


「そうですね。今の時点で講和する気が無いならば二、三年以上戦争する気でしょう。最低でも皇帝が承認していると思われます。ただ予算の裏付けは分かりませんね。クムール帝国の産業が、うまくいっているという話は聞きません」

「まあ、そうだろうな」

「ただ動く石像(ゴーレム)やモンスター操り装置(マリオネット)を見ると、新大陸の色があります。おそらく背後には彼らが控えているのでしょう。資金提供の可能性もあります」

「モンスター操り装置(マリオネット)?」

「私の命名です。新大陸に住む寄生動物を元にして作られた、モンスターの脳を乗っ取って操る装置ですよ」

「そうか、やはり新大陸が噛んでるか……」


 タージェ評議員長も薄々は感づいていたようだ。マドレーの目論見が正しいとすると、俄然国力の差が逆転する。アルジェオンも油断できない。


「ちなみにアトンの方はどうですか? モンスターや動く石像(ゴーレム)の質に関しては?」

「膠着状態だな。ただ攻撃の回数が減ってきている。君のレーダーシステムのおかげだ。モンスターも無限に湧いてはこないから、アルジェオン兵が確実に仕留めてくれているよ」

「それは良かった」


「全く、ダナンがあれを破棄しなければもう少しましにはなっていたものを。あいつらは自分の出世ばかりしか考えておらん」


 タージェ評議員長は忌々しそうに言った。


「お言葉ですがタージェ評議員長、それはあなたがあの領地を持っているから言える言葉です。資産を持たない私達は、学歴や組織での出世が全てなのですよ。私はダナンやカジャーリー総司令官達をバカだとは思いますけど、全てを否定する気にはなれません」


 マドレーに諭され、ハッとしたように気づいたタージェであった。


「……そうだな、失言だった。しかし君は率直に物を言うな」


 苦笑いしながら言うタージェ評議員長は、跳ねっ返りの孫に温かく接する祖父のようであった。マドレーに対し悪意はなく、反論をむしろ喜んでいる風でもある。マドレーもリラックスして言いたいことを言う。


「深く率直に議論をしないと、勝てるものも勝てませんからね。相手を貶めようとか自分の身を守ろうとか、そう言う意図もありません」

「そうだな。やはり見込んだ通りだ」


「ありがとうございます。それで、一つお願いなのですが、各自治州からも輸送の援助をお願い出来ますか? ご存知の通り物流は軍関連組織が握ってますが、非効率過ぎます」

「良いのか? あれは軍の聖域の一つだぞ? 物流を抑えて儲けているのだから。反対勢力が黙っていないんじゃないのか?」


 タージェは、意外そうにマドレーの顔を見た。マドレーにはやましさが無い。利益誘導とは無縁な生活なので、最善の道を見つけているだけなのだろう。


「もちろん知ってます。ですが緊急時です。そんなことは言ってられない。それにサービスを選ぶのは国民です。自治州の方式がうまくいくなら、そのまま続ければ良いでしょう。あとは広報関連ですね。あれも軍の息がかかっているから、都合の良いニュースだけ出しています。もっと公平性が必要でしょう。これも新組織を作りたいのですが、如何ですか?」

「それができれば、どんなに良いことか。ただやり方を考えないと潰されるな」


 この世界で長く生きているタージェは、それがどれだけ困難であるか理解している。ただ国難である今なら、変革のチャンスかもしれない。


「そうですね。今はここだけの話に止めてください。あ、そろそろ時間のようです。行きましょう。今日はありがとうございました」

「ああ、また宜しく頼むよ」


      *    *    *


「あ、マドレーさん、チーッス」

「ああ、シドム君、どうも」


 会議が終わってマドレーがキャフ邸に立ち寄ると、シドムが大学仲間と遊びに来ていた。広いリビングで、ミリナやラドル、フィカが、ソファに座りお茶を飲みながら相手をしている。


 話ぶりから大学の友人なのだろう。

 戦争で大学も殆ど休講らしく、最近は入り浸っているようだ。


 マドレーは彼らの側を通り過ぎ、二階へ上がってキャフの部屋をノックした。「どうぞ」と返事があったので、中に入る。キャフは机に向かい術式の研究をしていた。


「ああ、マドレー君。どうした?」

「会議が終わったところです。キャフ中佐、魔法の方はいかがですか?」


 マドレーが気になっていたのは、この点であった。キャフの魔素も以前と同レベルで回復していなければ、クムールとの戦いが不利になる。ミリナの話では大丈夫との事だが、実際は分からない。とにかくこの戦争、キャフの魔法が鍵の一つになるのは間違いない。


「ああ、大丈夫だ。むしろ前よりも魔素が強くなったような気がするよ」


 そう言うキャフの顔は、自信に満ち溢れていた。


「そうですか、なら良かった。これから反撃です。あなたの力が必要なのです」

「ああ、分かっている。最善を尽くそう」

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