第150話 復活 ※
前回のあらすじ
皇帝まだ余裕あり。無○様のように逃げない事を望む。
「やっとですか、長かったですね。ミリナさん、お疲れ様です」
「遠征で留守にした分、回復の度合いが遅くなったのは仕方ないですね」
マドレーの労いを受けてミリナは少し息をつき、自分の肩こりをほぐす。やはり、かなりの重労働であったようだ。寝不足なのか目の下にくまも出来ている。
「師匠、良く眠ってるニャ〜 イケメンになったかニャ?」
「それ私も考えたんですけど、術式をこれ以上組み換えるとバグが起きそうで止めました」
それを聞いて、ラドルは少しつまらなそうだ。
「良いじゃ無いですか、今までと同じで。髪も同じに再現できるんですね。でも無精髭はいらなかったですね」
「なくなる前の実体を完全にトレースしないと、うまくいかないんですよ、女王様」
「そうなんですか、すいません」
さりげない要望をミリナに窘められ、ルーラ女王は恐縮した。
「私達は、ここにいても良いのか?」
「ええ。もう感染症の恐れもありませんから。あとは最後の刺激を与えて起こすだけです」
「起きないなら、あそこでも蹴り倒すか?」
「それでも良いけど今回は私も自信ないんで、普通にいきましょう」
フィカの寝起きを起こすやり方は相変わらずである。銘々が勝手なことを喋り、普段はひっそりしていたこの部屋も賑わっていた。
ここはルーラ女王の間の隣にある部屋。
ベッドの上には、まだ眠るキャフが横たわっている。
爆発の巻き添えで無残になった姿から今では完全に回復し、安らかな寝顔だ。ただ心臓の拍動は非常にゆっくりで、仮死状態である。おそらく、側でこんな話をしているとは思いもよらないだろう。
「それよりルーラ女王、私達がいない間に、良からぬことはして無いでしょうニャ?」
女王はギクっとして、少々取り乱す。
「え、そんな事はしませんよ……」
「本当かニャ? 回復する時に記録が全開示されるの知ってますかニャ?」
「……ち、ちょっと部屋を覗いた事はありますけど……」
ルーラ女王は、恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「大丈夫ですよ、それくらいなら。ラドルちゃん、良い加減なこと言っちゃダメだよ」
「てへ、すいませんですニャ♡」
どうやら、ラドルの冗談だったらしい。
「それではいよいよ最後の術式を作動させます。皆様、少し後ろに下がってください」
ミリナに促され、他の4人は後ろに下がる。
「命の灯火を再び燃やせ! 《完全回復》!!」
キャフの体が柔らかい光に包まれ、ゆっくりと目が開く。
「う、うーん……」
キャフは最初自分がどこにいるのか、分からぬようである。
だが右を振り向いて、5人がいるのを認め貧弱な体を起こした。
「お、お前らどうしたんだ!」
「キャフさん! 良かった!!」
ルーラ女王が駆け寄って、キャフを抱きしめる。
やはりあの時の事を思い出し泣いていた。自分を責めているのだろう。
キャフは女王の行動に驚くだけで、キョトンとしていた。
「死にかけたのご存知ないんですか?」
「あ、そう言えば爆弾テロにあったんだな。咄嗟のことで何が何だか分からなかったけど。あの後どうなったんだ?」
「覚えてないんですか? あれでキャフ師の体は吹き飛んじゃったんですよ。だから私が回復魔法をかけていたのです。ここまでの回復は初めてだから、大変だったんですよ〜」
「そうだったのか、済まなかった。そういやあの戦争は今どうなってるんだ?」
「僕が首尾良くこなして、何とか反撃の糸口をつけました。ダナンは戦死し、モジャナはまだ一部占領状態ですが。僕達がモンスター生息域に出向いて、オークやコボルトと同盟を結ぶことに成功しています」
「オーク? あいつらか」
「そうですニャ」
「それは良かった」
それからも、マドレーを中心に現状の報告が続いた。急激な情報量で何が起きたのか直ぐに把握しきれなかったキャフだが、悪い状況ではないことは分かったようだ。
「オレがいなくて寂しかっただろう?」
「いえ、そんな事はありません」
「気晴らしがいなくなっただけだな」
「マドレーさんの方が、頼りになりますニャ」
「やっぱりタイトル変えますか?」
「お、おい、もう少し主人公には敬意を払え!」
彼らの言葉に焦るキャフであったが、皆は笑っていた。冗談にしても、こう主人公の座を脅かされる日々ではたまったもんじゃない。
「大丈夫ですよ、キャフさんの地位は万全です。それより、女王様と一緒に報告会をしますか? 彼らもイデュワに呼びたいですし」
「彼ら?」
「オークとコボルトですよ。オークは、シューミさんのお父さんが村長です」
「へえ、そうなんだ」
「そうですよ。どうせなら婚約発表もしちゃいますか?」
「ルーラさん、ちょっとそれは話し合いが必要ニャ」
「そうですよ、そこは女王様でも勝手にしないでくださいよ」
梅雨も明け雲も夏らしくなってきた某日、再びレスタノイア城で報告会が行われた。今回の功績でマドレーは少佐となる。元々軍人であったから同期も多いが、その中でも群を抜くスピード出世だ。キャフと共に壇上の席に座るのは、ルーラ女王に万が一のことを考えてである。
「これより上がると、やっかみが酷くなりますね。辞退しても良かったんですけど」
隣のキャフにしか聞こえない声で、マドレーが囁いた。
「そう言うもんか?」
「キャフ中佐も気をつけて下さい」
女王の演説が始まる。
「心配をおかけして、すみませんでした。おかげ様で今はもうすっかり元気です。ここにいる魔導師キャフ中佐やマドレー少佐を中心にした働きで、戦局は改善に向かっています……」
「オレ、何もしてないんじゃ?」
今度はキャフが呟いた。
「女王陛下を守ったじゃないですか。立派な働きですよ」
「まあ、そうか。だが他の兵士達も立派に戦っているはずだ」
「勿論そうですね。現場には別途労いましょう」
「……そして今日は、新たな仲間達がイデュワに来て下さいました。シューミ村長代理、ギャード隊長、壇上へどうぞ」
ルーラ女王の案内で2人が壇上へ上がった。
サローヌでも同じ反応であったが、本物のモンスター達に市民からは感嘆の声が聞こえた。2人は今日もタキシードを着ている。
「はじめまして、皆さん。私はオークのシューミ村長代理です。父に代わってやって来ました。アルジェオンのことは良く知らなかったのですが、キャフさん達素晴らしい仲間を見て、良い人達が多いと分かりました。クムール帝国打倒のために、力を合わせて頑張りましょう!」
『あ、コボルトのギャード隊長だ。シューミの翻訳で申し訳ないが、アルジェオンの言葉もこれから覚えたいと思う。俺達はそこにいるマドレー達のおかげで、クムールから女房や子供を取り返すことが出来た。あいつらは本当に卑怯な奴らだ。早くこの地から追い出そうぜ!!』
オォオオ!!!!
あちこちから歓声が響き渡り、誰からともなく国家が歌い始まった。
報告会は盛況のうちに終わる。夜はキャフ達や2人を交え、晩餐会が催された。国全体が一致団結し、勝利に向けて進もうとしていた。




