第015話 終結と旅立ち
前回までのあらすじ
無事ゴブリンとゴーレム撃退!
ただし主人公は活躍せず
戦いの興奮が未だ冷めやらぬまま、オーク達は壁の補修や家の修理、負傷者の手当で忙しかった。マダラ村長は戦闘でかいた汗を拭き終え,部下達に指令をしている。
フィカとラドルは簡単な止血をして負傷したキャフを担ぎ、モナメを探した。野戦病院と化したモナメ宅の前では、多数のオーク兵が横たわっている。苦しいのかうめき声を上げる者もいた。
「どうしました。あ、キャフさん!」
そこにはシューミがいた。事情を察したシューミはモナメを呼びに、家の中へと入って行った。
左腕から大量の血を流すキャフはやっと意識を取り戻し、苦しそうに呻いている。待っていると「ブヒヒ!」とモナメが家から出て来て、救急箱から包帯を取り出し止血作業をした。
「すまなかった」
フィカが、申し訳無さそうに言う。
「……気にすんな。そ、それよりラドル、貸せ」
苦悩の表情を浮かべながらも、ラドルから魔法杖を借りるとキャフは畜魔石を外し、右手に持った。すると、畜魔石は白く輝き始める。キャフは苦しそうだが、充石しているようだ。やがて魔素が充填された畜魔石を、ラドルに渡す。
「これを、モナメの魔法杖に入れろ」
「はいニャ」
指示を受けラドルが交換する。その魔法杖でモナメが治癒魔法をキャフにかけると、一瞬にして負傷した左腕が治った。腕を振って、大丈夫なことを確認する。
「師匠、良かったニャ〜」
ラドルが抱きついて来た。
「ああ。だが治ってない負傷兵も未だいるし、あまり喜ぶな」
「あ、すいませんニャ」
キャフに指摘され、小声になる。
「ちょっと、また動く石像のところに戻っても良いか? 調べたいことがあるんだ」
「ああ、分かった」
3人は元の道をたどり、動く石像が倒れている場所まで来た。
怖いのか不気味なのか、オーク兵達は近づこうともしない。
「見ろ」
キャフが動く石像の背中を指差した。その先にはひび割れた魔法石があった。魔法杖に普段使われる魔法石よりも数倍大きい。だがその輝きは既に失われている。
「これが動力源さ」
「どういう事だ?」
「恐らく、オレの畜魔石と同じ原理だろう。この魔法石に蓄えられた魔素と、恐らく中に埋め込まれた術式で動いてたって訳だ」
「そんなこと、出来るニャんか?」
「現に、ここにあるだろ? あるんだったら出来たわけで、どっかの優秀な魔導師さんがご丁寧に創ってくれたんだろうな」
「ゴブリン達?」
「いや、違うだろう。あいつらにそんな知能があったら、この村は一発で占領される」
現実に、このレベルの畜魔石を製作出来るならば、かなりの技術と魔素が必要だ。魔法を操るモンスターも存在するし、人間でも不可能ではない。ただ、これが敵になると厄介だ。
キャフは手を伸ばして畜魔石に埋め込まれている魔法石を外し、内部を探った。
「本当なら、ここを開けて術式を調べたいんだがな。やはり何も手がかりはないか」
「偽装か?」
「さあ、そこまでは知らんよ。とりあえず、今はここの村人達を手伝おう」
「そうだな」
「分かったニャ」
* * *
3人達は言葉が分からないなりにも、後片付けの手伝いをした。
オークの村人達も最初は戸惑ったが、次第に打ち解け親身にしてくれる。今晩は、シューミの家で泊めてもらう事になった。幸い彼の家は戦火を免れている。住んでいるのはシューミの両親と弟妹の5人だ。
「今日は、ありがとう」
父親も、アルジェ語を話せるようだ。
「いえ、こちらこそ泊めてくれて助かった。礼を言う」
「お二人とも、人間の言葉がお上手ですね。どこで学んだのですか」
フィカが聞く。
「わたしが貿易関係の仕事をしているからね、独学だよ。シューミもわたしから学んだのさ」
「そうなんですか」
「はい、どうぞ」
シューミのお母さんが、夕食を持って来てくれた。
「簡単な畑もあるから、トリュフ入りの野菜のスープよ。ポルチーニも召し上がれ」
沢山の野菜が入ったスープと、更にはステーキのようなキノコが置かれていた。これがポルチーニか。食器は木製で、丁寧に作られている。質素ながらも暮らしぶりは悪くないようだ。
「美味しいニャ〜」
腹が減っていたラドルは、直ぐがっつき始める。3人とも食が進んだ。
家族も楽しそうで、弟妹もラドルと直ぐ仲良くなった。
あっという間に、夜はふける。
「じゃあ、この部屋とこの部屋を使ってね。では明日」
「ああ」
「ありがとニャ」
キャフと女性2人は別々の部屋をあてがわれた。久々のベッドの感触をかみしめながら、深い眠りにつく。翌朝、起きて朝食をいただく。こんな穏やかな一日の始まりは久々だなと、キャフは思った。
爽やかに起きると、朝食が用意されていた。
みんなで食べた後、キャフがシューミに尋ねる。
「最後に、村長に挨拶したいのだが、行っても良いか」
別れの挨拶もしたいし、マダラ村長に聞きたいこともある。
「いいでしょう。わたしが案内します」
シューミに連れられ、マダラ村長の家へと行く。
まだオーク達が慌ただしく作業をしており、忙しいようだ。
「ブッヒー!!」
マダラ村長は3人を見ると、感激したのか強く抱きしめて来た。
フィカは驚いて、苦笑いしている。
「『ありがとう、お前たちのおかげだ』と言ってます」
「いや、大した事はしていない」
「『だが、あの動く石像を倒したのはこの二人のおかげだ。何でも欲しい物をやろう』と言ってます」
「じゃあ、旅の食糧とか調達してもらえるか」
「『ああ、好きなだけ持って行け』と、言ってます」
「助かる。ちなみに、アルジェオンの領地まで、ここからどれくらいだ?」
「『オレたちはあまり行かないが、モンスターの出現域を迂回するなら半日で辿り着く』そうです」
予想以上に深い場所まで来ているのかと、3人は思った。
「じゃあ、お願いしようか。あと一つ聞きたいのだが、クムール帝国とはどんな関係なんだ?」
シューミが言いづらそうに通訳すると、村長の顔はやや困った顔になる。やがてぼそぼそと、シューミに何かを伝えた。
「『悪いが客人のあなたに、それは言えない』と、言ってます」
「そうか……無駄な事を聞いて済まなかった。ありがとう」
「『幸運を祈る』とのことです」
それから3人は十分な食糧や道具をもらい、旅立つ用意が整った。
「やっと海に行けるニャ〜」
ラドルはすこぶる機嫌がいい。
「モナメさんの所に、挨拶に行こうか」
フィカが言う。
「そうだな」
モナメの家では、まだ負傷兵の治療が続いていた。魔法杖の威力もやや下がっている。だが3人の姿を見ると、モナメは外に出て来た。
「ブーヒー」
「『ありがとうございました。これ、返します』だそうです」
そう言ってモナメは、昨日借りた畜魔石をキャフの返そうとした。キャフは受け取ると、代わりの畜魔石を袋から取り出した。
「代わりに、これを使うと良い。満タンだし、君の魔素も充填できる」
言葉が分からずキョトンとしているモナメにシューミが説明すると、モナメは感激の顔をして、何度も何度も丁寧にお辞儀をした。
「『ありがとうございます!皆の治療に役立てます!』だそうです」
「ああ、頑張れよ」
そう言って3人はモナメと握手して、家を後にした。
シューミは、村の入口まで送りにきた。警備兵は、昨日のようなぞんざいな態度からすっかり変わり、丁寧な態度で3人をもてなした。
「ここの道を行って分かれ道を左に行けば、アルジェオン王国領地に辿り着く筈です。ただモンスターが出るかもしれないので十分気をつけて下さい」
シューミの言う道は、道と言ってもけもの道で、人間が普通につかうようなものではない。気をつけないと、また道からはぐれそうだ。
「ああ、分かった」
「ありがとう」
「ありがとニャ」
こうして3人は、オークの村を離れた。