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第149話 潮目

前回のあらすじ


コボルト達も仲間になった!

 戦争は、潮目を読まねば勝てない。


 最終的に勝利したどの国も初めから終わりまで連戦連勝なんかしていないことは、歴史が証明している。タイミングを見計らい、しかるべき処置をすることが勝利への足がかりだ。


 外交上の成果や内政の変化、戦争での勝利、新兵器開発、相手国の失策…… 様々な要因が絡み合った結果、勝利が紡がれていく。


 マドレー達によるモンスター生息域遠征の成果は予想以上であった。


 オーク・コボルト達との共同戦線は、新たな風をアルジェオンにもたらした。


 モジャン地方とモドナの軍用路を分断されたクムール軍は、以前ほどの勢いが無くなる。兵站が滞ると兵士達の士気も落ち始め、食糧難でアルジェオン兵に投降するクムール兵も現れてきた。更にクムールから手を引きアルジェオンに協力するモンスターの数も、着実に増え始める。


 モジャン地方へ戦線を伸ばし過ぎたのが仇となり、アルジェオン軍の反抗に耐えきれなくなった結果、アルジェオン軍は三度モジャール城の奪還に成功する。


 まだ旧道域の全奪還はならずとも、レーダーシステムの活用で敵を効率よく倒してアルジェオン軍は堅実に領土を奪回していった。ここまで迅速に動けたのはカジャーリー司令官のおかげと言うより、ダナン司令官がいなくなったおかげでもある。現場で実績を積んできたマドレー達の意見に耳を傾ける兵士たちも増え、かなりやりやすくなっている。


 そして夏の訪れも近づく今日は、記念すべき日であった。


 ざわざわ……


 朝からサローヌの街はどよめいていた。一部の民は恐れおののき、家の窓という窓にしっかり鍵をかける。その姿を見て泣き叫ぶ子もいれば、興奮して一緒に付いて行きたがる子供もいた。どっちにしても親は忙しい。


 ただ予め通達していたおかげで、予想以上の混乱はない。


『やっぱり、俺達が珍しいんだな』

『そりゃ、そうでしょう。私達だってこんな素晴らしい街に来たことないですよ』

『今日は来てくださって、本当にありがとうございます』


 馬車には、マドレー、ギャード、シューミ達が乗り込んで、道ゆく人々に手を振り挨拶をしていた。今からサローヌ城に登城し、ギムと接見するところだ。


 その前にゆっくりと市街地を回ろうと言う話になり、今がその巡回の真っ最中であった。兵士2人に先導され、屋根の無い馬車に乗り込んでいる。一回りも二回りも大きな体格と異形の姿に、市民は驚く。


 だが攻撃はしてこないと分かり、遠くから珍しそうに眺めていた。本人達はにこやかに笑っているつもりだが、やはり人間が表情を読み取るのは難しいらしい。怯える市民も一定数は存在する。


 モンスターは、モンスター生息域にしかいない。そのため一般民が直接目にする機会は非常に稀である。今こうしてオークやコボルトが人間の街に公式に来訪したことは、大きな意味を持っていた。


『しかしこの服、着なれないな。直ぐに破れそうだ』


 サローヌの仕立て屋によるタキシードは、ギャードには窮屈みたいだ。


 モンスター生息域で初めてコボルトやオークと会った仕立て屋は目を丸くして驚いていたが、直ぐに寸法を測り始めると、「こんな大きな服を作るのは、私も初めてです。一世一代の大仕事としてやらせてもらいます!」と張り切って作りあげられた服である。かなりの布地を使用している。縫製も細かく丁寧になされ、簡単には破れない。若いシューミは少し笑うだけで、何も言わなかった。



「やあ、良く来て下さった」


 ギムはわざわざ玄関まで出迎えに来ていた。


『この度はお招き頂き、ありがとうございます』

「おおシューミか。話は聞いているぞ。美しいアルジェオン語だな。ギャード隊長も遠路遥々ご苦労でした。さあ、簡単なものですがおもてなしの用意をしております」


 そのまま夕食会となる。話題は多岐にわたった。ギムは冒険者として過去のモンスター事情に精通しているから、会話の話題には事欠かない。モンスター達の寿命は長いため、ギムの遭遇したコボルトやオークにも知己がいたようだ。もちろん当時は戦闘していたから単純な感情では無いけれど、大義にためにお互いの傷には触れないでおく。


 気づけば夜遅くまで話し込んだ。


「今日はありがとう。これからも宜しく頼む」

「ええ、こちらこそ」

「お互い頑張ろう」


「ぜひ今度、イデュワに来てルーラ女王とも会ってください」

「ああ、もちろん」


 マドレーも含め4人は固い握手を交わし、会合を終えた。


      *    *    *


「思った通りにはいかないようだね、イシュト君、ジクリード君」


 帝都シュトロバル宮殿において、皇帝ラインリッヒ三世は魔導将軍イシュトと鬼武将軍ジクリードの2人と話をしていた。他の者は席を外している。イシュトも含め3人とも背が高く攻撃力もずば抜けている。クムール軍は実質この3人で保っていた。


「申し訳ございません」

「仕方ないよ。それより、例の『(いかずち)方舟(はこぶね)』はどうだい?」

「残念ながら、モドナを隈なく探索しているのですが、手がかりすら掴めません……」


「やはり、単なる伝説だったのかな。今の状況ではモンスター生息域の征服すら危ういね。アレを早く見つけないと負けてしまうよ?」

「は、分かっております……」


 皇帝の口ぶりから、言うほどには困ってなさそうだ。しかし鬼武将軍ジクリードは、3人の中で一番大きな図体にも関わらず縮こまっていた。


「キャフとやらがいなくても、なかなかやるね」

「そのようです。大規模魔法は使えずとも侮れませんな」

「君もそろそろ回復したでしょ? モドナはジクリード君に任せるから、また行ってきてよ」

「は、承知しました」


 イシュトは、皇帝ラインリッヒ三世の言葉に従った。

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