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第147話 コボルト達の苦悩

前回のあらすじ


コボルトさんとも交流できた!

『私はアルジェオンの民です。コボルトの皆さん達は、進んでクムール軍に協力しているのですか?』

『そんな事ねえよ。あんないばり腐っていけすかねえ奴ら、好きで協力してる訳じゃねえよ!』

『そうだよ、嫌々やってんだよ!』


 コボルト達は、ウォーンウォンと、口々に悲痛な叫びをあげた。通魔石を介した会話だから中にいるクムール人には理解できないし、その様子から嘘をついているようには見えない。それに、コボルト族はモンスターでも正直な部類で有名だ。この思いは本音だろう。だがその彼らがクムール軍に協力する事実は解せなかった。


『それなら何故?』

『あいつら、”逆らったらこうなるぞ”、て俺たちの仲間に変なもの食わせて、操り人形にしちまったんだ。あいつらが何かしたら暴れ始めて、最後は死んじまった…… それに加えて家族を人質に取られてるんだ。俺たちが何かしたら子供や嫁が殺される。だから仕方ねえんだよ!』

『やはり卑劣ですね…… この建物の中には何があるのですか?』


 事情を理解し、何とかしてあげたいと思うミリナである。


『良く分からんが、その操り人形の元を作る工場らしい。俺たちの仲間もここに閉じ込められているんだ』

『どうやれば中に入れるのですか?』

『難しいぞ。俺たちも近くの村に住んでいるだけで中には入れない。仲間がどうなってるか、俺たちも詳しくは知らないんだ』


 苦悩するその表情は、いかに深刻な問題であるかを物語っていた。


『そうですか…… 私のリーダーと一緒に話をしてもらえませんか? 危害を加えないのは保証します。武器は持たせませんし、何ならリーダーと私だけでも構いません』

『お嬢さん、大丈夫だ。あなたが嘘を言っているようには見えない。私が一人で出向こう。隊長のギャードだ』

『ありがとうございます』


 隊長コボルトは紳士であった。ミリナの誠意が伝わり、ギャードもミリナを信用する気になった。コボルトにとっても、人間の手助けがあれば現状打破になるかも知れない。


『ただ、あの建物から誰が見ているか分からない。夜に向かおう。あなたは何食わぬ顔で戻ってくれ。あとは俺たちがごまかしておく』

『お気遣い感謝します。私たちはあの草むらの影にいるので、夜になったら来て下さい』


 隊長コボルトの指示で、ミリナは迷ってきた冒険者という風に草叢へと戻って行った。そして夜、ギャードがマドレー達のところへやって来る。


 マドレー達は、全員武器を解除して待っていた。ギャードはオークを見ると一瞬身構えたものの、仲間であると知り自らも武装を解く。


『オークも一緒なのか』

『はい。彼らも村を追われて大変なのです』

『はじめまして。アルジェオン第七師団付第五大隊所属第五中隊のマドレー大尉です。先ほどの会話も聞かせて頂きました。一緒に仲間を救いましょう』

『言うのは簡単だが、どうするつもりなんだ?』


 ミリナを信用したとはいえ、ギャードはまだ人間達に全幅の信頼はしていないようだ。今までモンスター生息域で冒険者達と戦ってきたのだから、直ぐには難しいだろう。


『ギャードさん、まずは持っている情報を教えてください。何ができるか考えましょう』

『分かった』


 それからギャードはマドレー達に、あの建物に関する情報を話し始めた。それによれば、壁や入り口は厳重でアリの入る隙間も無いらしい。コボルトは常日頃から壁周辺を警備しているので確かなのだろう。


『空はどうでしょう?』

『いや、この前鳥が真上を飛んだ事があったのだが、魔法かなんかで撃ち落としされていた。恐らく無理だろう』

『魔法が使えるんですか?』

『ああ』


『クムール軍が出入りする時はないのかニャ?』

『確かに、トラック馬車で運び出すことはあるが……』

『それを襲うのはどうだ?』

『一つの案ですね。何時ごろ出発するのですか?』

『不定期だ。ただ一時間ほど前から積み込む音が聞こえ始める。この通魔石とやらが届く範囲にいるなら、俺から連絡しよう』

『ありがとうございます。協力がバレると迷惑がかかるので、くれぐれも慎重にしてください』

『ああ、分かった』



 その日以来、この建物が偵察対象となる。


 コボルト達が護衛をする中、マドレー達も周辺を調査した。建物から続く道を辿ると、南北に連なる大きな道に合流する。モドナとモジャン方向、どちらへも行けるようだ。


 その道はアルジェオンの旧道よりも粗末なものであったが、時折クムール軍やモンスター達が通る姿が見受けられた。


「戦争の準備のために、かなり切り開いたようですね。アルジェオン軍は全然気づいていないから負ける訳です」

「すいません、第七師団もこんな奥地までは調査しないもので……」

「ケニダさんが謝ることではありませんよ。本当は冒険者活動を、以前のように活発化させるべきだったのです。国ができない個人の柔軟な発想や行動力を形にする上でも、こう言ったモンスター生息域(ハビタブル・ゾーン)での活動は大事なんです」


 だが現状は非常に危険だ。何としてもあの建物に侵入し、モンスターを操る装置を破壊せねばならない。この作戦を遂行するにあたり、マドレーは隊を二分する事にした。


「なんでですニャ?」

「今の実情や経緯を、サローヌやルーラ女王に連絡する係が確実に必要です。全滅したら元も子もない。今から始まる戦闘で生き残った人は事実を伝えるために、速やかにサローヌへ逃げてください。ただ戦力として申し訳ないが、ミリナさん、ラドルさんはどちらにも属して欲しい。そのレベルで魔法を使えるのは2人しかいないので。もちろん私もです」

「分かったニャ」

「はい」


 全員がその意見に賛同した。フィカとケニダ、シドムにソムラがAチーム、キアナ、リホ、カンシートとメケロがBチームとなる。


 更に偵察を続けたある日、ギャードから連絡が入る。


『積み込む音が聞こえる。入り口が開くぞ!』

『連絡ありがとうございます。ではAチームの皆さん、よろしくお願いします』

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