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第144話 遭遇

前回のあらすじ


? 何か、見たことある奴がいるぞ?

「あれ? 知り合いですか?」

「あ、ああ」


 マドレーは驚いてフィカに尋ねたが、フィカは複雑な顔で返す。どうもそう(知り合い)らしい。ただ旧友に再会と言った親しげな様子では無い。あっちは気楽に喜んでいるものの、フィカはむしろ警戒を更に強めた印象だ。


 目の前にいるのは現代の若者といった風貌で冒険者の装備を着けているが、モンスター生息域にいるタイプではない。ただその顔は自信に満ちており、立派に冒険者として自立しているようにも見えた。


「ダチっすよ、ダチ。あ、ミリナもいる! 痩せた? 可愛くなったじゃん、元気?」

「え、ええ。あの2人は?」


 戸惑いながらミリナも返事をした。


「ああ、ちょっとあってね。今は1人なんだ。そうそう、イデュワ大学受かったよ! あれで推薦取れたから、ミリナのおかげだよ!」

「どなたですか?」


 改めて、マドレーはミリナにも聞く。


「え、ええ。私の高校の同級生でシドムと言います。お父さんは、昨日お会いしたギム様です」

「はじめまして! 三人とはこの前一緒に冒険した仲っす」

「へえ、そうなんですか」


 領主ギムの息子と聞き、更に驚く。体格は良いがあまり似ていない。


「それより、お前は何をしてるんだ?」


 フィカとケニダが、剣を構え警戒体勢をとったまま聞く。

 このモンスター生息域(ハビタブル・ゾーン)は何でもありだ。


 モンスターがシドムに擬態している可能性も否定できない。

 十分に注意を払いながらシドムに尋ねた。


「え? そうっすね。卒業旅行って感じ? もう一度、自分を見つめ直したくてさぁ。何というか、ここ、甘やかされて育ったサローヌと違って素の自分を受け入れてくれるんだよね。何もしなかったら死んじゃうし。イデュワで大学生になるからには1人でやれなきゃダメだしな。そう思って、ちょっと冒険してみてんだ。オヤジには色々言われてっけど、俺も結構考えてんのよ」


(何やってんだ、こんなとこで……)


 つまりは卒業前の思い出作りか。国難だと言う時に物見遊山でここに来ていることに、マドレーは少々呆れていた。


「それで1人なのか?」

「そおっすよ。あ、そう言えば、あのおっさんは? これ、あん時ゲットした剣すよ! 切れ味最高!」


 シドムはキャフの不在に気付いたようだ。こう見ると、やはり擬態ではなく本人らしい。ラドルがキャフの現状を説明をすると、シドムは気の毒そうな顔をした。


「そうだったんだ…… あのおっさん私服でここに来てたから変な奴と思ってたけど、かなり良い人だったんだな。オヤジもイデュワで世話になれと、言ってたけど。でも独り暮らしじゃないと女の子連れ込めねえから断ったんだ」

「それよりここにいたモンスター達を、知らないか? オークの村だったらしいが」


 シドムの自分話に付き合うともっと長くなりそうなので、フィカが話題を変えた。


「全然っす。来た時はもう誰もいなかったから使い放題っすよ。時々来るモンスターも低級だし。ちょっとこの辺で魔法石を集めがてら、暫く住もうかなと思ってたところっす」


 嘘はついてないようだ。


「で、これからどうするんだ?」

「そうっすね…… まだこの辺に居ようかと思ってるんすけど、一緒に付いてっても良いっすか?」

「なぜ?」

「いや…… まあなんとなく」


 屈託なく笑うが視線は女性陣に向いてるから、欲望に忠実とも言える。


「どうします?」

「こいつは、馬鹿じゃ無いからな。何かの役には立つだろう。どうだ? マドレー大尉」


 女性に手を出そうとしても、こいつは勝てないだろうとフィカは判断した。ミリナもラドルも、あの頃より遥かにパワーアップしている。それよりも、この地域に精通する人間が一人でも欲しかった。


「フィカさんが言うなら良いでしょう」

「ありがとー!」


 その後も拠点を中心にして、探索が続けられる。


 確かに、時折Cランクのモンスターも出没する。だがクムール軍の一員としてではなく、単発で行動しているモンスター達のようだ。襲ってこない限り、こちらからは攻撃しないようにした。


 時間をかけたが、何の手がかりも得られなかった。


「行動範囲をもう少し広げますかね?」


 マドレーが思案していた、ある日のことだった。通魔石を介して全メンバーとコンタクトできるので、最近は、単独行動も多くなっている。


『マドレー隊長、カンシートだ』

『どうしました?』

『オークらしき足跡を発見した。あの村からおよそ二キロ北東の、森の中だ』

『本当ですか?』

『ああ。数人、こっちに寄越してくれ』

『分かりました。これを聞いてる人で誰か行けますか?』

『ラドル、近いニャ』

『キアナも行けます』

『シドムも、大丈夫っす』

『僕も三十分ぐらいで行けますから、五人で行きましょうか』


『分かった。あの村から北東の位置に大きな岩がある。それを目印に来てくれ』

『了解です。後の人達はオークの村か拠点で待機してください。戦闘になる可能性もありますので』

『分かった』


 その後指定された集合地点を見つけ、カンシートと合流する。


「これだ」


 カンシートが指差した地面には、確かにオーク達の足跡がある。森の奥までずっと続いているようだ。


「数日前のようだ。足跡を辿ってみるか?」

「ええ、良いでしょう」


 辺りに十分注意しながら森の中を歩く。幸いオークらしき影はない。

 薄暗い木陰の近くに、ラドルが何かを見つけた。


「と、トリュフですニャ!」

「彼らが採集してるのかな?」


 よだれを垂らして食べようとするラドルを静止し、先を急ぐ。足跡はずっと続き、森を抜けた先までありそうだ。注意しながら進んで行くと草原にでた。オークやモンスターが住む形跡は、どこにも見られない。


「村は無いですニャ」

「まだ先なのかも知れない。あ、これ見ろ、向こうも足跡を消しているようだ。何か事情があるな」

「そうですか。じゃあ、しばらく偵察を続けますか」


 その日からトリュフの自生地が、偵察箇所の一つに加えられる。


 そして、数日後。


『あ、あいつら来たぜ!』


 担当だったキアナが、メンバーに呼び掛けた。近くにいたシドムとマドレー、フィカとミリナが向かう。草むらに隠れて観察すると、確かにオーク達がトリュフを採りに来ている。鼻が効くらしく正確に土を掘り起こし、沢山採っていた。そして一通り集め終えると帰り支度をし始める。


『後を追いかけましょう』


 幸い、オーク達はそれほど警戒している様子はなかった。だが草原を抜けて岩山が立ち並ぶ地域に来ると、彼らの足取りを見失った。


「ここじゃ、足跡も付かないな……」


 チグリット河の支流なのだろう、川のせせらぎが聞こえる。位置関係からして拠点の上流のようだ。だがゴツゴツした岩を調べても、さっきのオーク達は見当たらない。


 その時だ。


「誰だ!」


 アルジェオン語で呼びかける声がする。

 振り返ると、以前通訳をしてくれたイケメン豚のシューミがいた。

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