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第143話 マドレー隊出発

前回のあらすじ


サローヌ地方に到着。いよいよモンスター生息域へ!!

 日の出と共にギムの城を後にして、一行は旧道へ向かった。


 サローヌの街もまだ起きたばかりだ。

 行商のおばあさんがいるぐらいで静かである。


 ミリナやラドル達が以前利用した道の駅に到着する。今はサローヌ自治軍の駐屯地となっていた。戦争となったこの時世では、冒険者ギルドは閉鎖となって当然だ。


 マドレーが挨拶に出向くと、隊長の部屋へ通してもらう。そこにはマドレーより少し年上の、二十代後半と思われる青年がいた。やはり緊急時で慌ただしいのか、部屋の中は書類が溜まっており乱雑だ。


「マドレー大尉です」

「ドミトル・サローヌ中佐だ。この度はご苦労」


 自治軍は国軍と違い、階級に自治名を付ける決まりになっている。

 だからサローヌ中佐は肩書きで名前はドミトルだ。


「モンスター生息域はどうですか?」

「それなりに大変だ。Aランクとはいかないが、この辺には以前いなかった筈のCからDレベルのモンスターが普通にいる。我々も手こずっているよ」


 そうは言うものの、憔悴した様子は伺えない。

 日頃の鍛錬で、自治軍の実力に自信があるのだろう。


「過去に遭遇したモンスター達とは違いますか?」

「そうだな。初見のモンスターも多い。以前のマッピングは役に立たなくなったな」

「昔のでも良いから、地図をもらえませんか?」

「ああ、持っていってくれたまえ。無いよりはましだろう」

「ありがとうございます」


 地図を受け取り退室する。旧道を超えた先は、いよいよモンスター生息域(ハビタブル・ゾーン)だ。道無き道を進むので、常に馬車は激しく揺れて難儀した。張なのか、メンバーも緊会話が少なくなる。やがてある程度進んだ場所で、マドレーは馬車を止めた。


「まずは、何かあった時のための拠点を作りましょう」


 マドレーの意見に従い、馬車を止められそうな場所を探す。

 うまい具合に森の中に小さな川が見つかった。

 低い崖の下には、荷台と同じ高さぐらいの窪みがある。


「カンシート曹長、この辺りはどうだい? モンスターが来た形跡あるかい?」

「いえ、大丈夫です。ここ最近の足跡は見られません」


 カンシートの保証も付いたので、荷台を下ろして窪みにはめ込む。ここに来るまでについた車輪の跡は草で覆うなどして隠し、動物系モンスター達の苦手な匂いを周辺にまいた。幸い植物が眠りから覚め成長するこの季節は、荷台のカモフラージュにちょうど良い。川沿いにも黄色や白の沢山の花が咲き誇っている。


 濾過された飲料水を確保するために穴を掘って草や湿気のある物を入れ、真ん中にコップを置き、逆円錐形の薄い鍋で蓋をする。拠点がばれた時のためにもう一つ近場に穴を堀り、備蓄の食糧を確保した。木を切って道具にする。こうして着々と拠点作りが進んだ。


「これぐらいで良いでしょう。もし隊からはぐれた時はここに戻って下さい」


 次は周辺環境の確認も含め、山菜などを採りに行く。

 モンスターの足跡は薄く、最近は来てなさそうだ。

 サローヌ自治軍が撃退し続けたからここは手薄なのかも知れない。

 カンシートやミリナの指示で、薬草や食糧になりそうな物を採取した。


 こうして気がつけば一日が終わる。

 

 初日は警戒も込めて、夕食は火を使わず保存食にした。

 周辺を確認したが、人工の光は見えない。

 クムール軍はいないようだ。

 1人ずつ交代しながら寝ずの番をして、夜を過ごした。

 何事も用心に越したことはない。


 次の日も周辺の探索に出る。

 森林地帯を抜けると、草原が広がっていた。


「この辺は見覚えがあるな」

「ダンジョン、まだあるかニャ?」

「あまり思い出したく無い場所ですね」


 三者三様の思いがあるようだ。彼女達の案内で以前ダンジョンがあった場所にも来たが、今は陥没した穴があるだけで有益な情報や物は見当たらなかった。低位のモンスターに遭遇するものの、マドレー達を攻撃する意思は見せないので相手する必要もない。


「じゃあ、オークの村まで行けますか?」


 マドレーは、フィカとラドルの2人に聞いた。


「あの時は気付いたら辿り着いたからな。地図を見て行くしか無いだろう。どこかの森から入って行くはずだ。その地図に何か書いてあるか?」

「この森の中ですかね? それっぽい村の印がありますが」


 マドレーは、地図のバツ印を2人に見せる。


「そうかもな。今からでも往復できる距離だな。じゃあ行ってみるか」


 フィカとラドルが先頭に立ち、森の中へと入って行った。2人とも方向感覚に優れているようで大体同じ道を覚えており、それほど迷わずに進む。


 だがその終着点は予想と異なる結末が待っていた。


「もう廃村になったのか……」

「みんな何処かへ行っちゃったのかニャ?」


 オークの村の門は壊され、中に入ると家には誰もいない。2人の記憶通りに辿るが、村長の家もお世話になったモナメやシューミの家も、無人となって暫く経つようである。部屋の中の物品は殆どない。もぬけの空だ。


「遺体はどこにも無い。埋葬されているなら別だが、そうするとオーク以外の誰かがやった事になる。多少家の中は荒らされているが破壊行為も少ない。移住したと考えるのが自然でしょう」

「そうだと良いですニャ……」


「こういう可能性も考えていましたが、いざとなると厄介ですね…… じゃあ今日はここまでにして、一旦戻りますか」


 マドレーの命令に従い村を出ようとした矢先に、少し離れた家で物音がした。ミリナが目ざとく気づく。


「誰かいますよ?」


 メンバー全員物陰に隠れ、静かに戦闘態勢に入った。

 ゴソゴソと、確かに動く音がする。散開しながら目標へ近づく。


『私と兄者が最初に行く』


 通魔石でフィカが全員に伝え承諾をもらうと、サッと相手の前に出た。


「動くな!! え? お前は……」

「あ、フィカさんじゃん!! ひっさしぶり〜」


 それはギムの息子、シドムであった。

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