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第142話 隠密行動

前回のあらすじ


マドレー、本当は女装したかった。

「いや〜、やっぱり高速道路は快適ですね〜 戦争なんかどこかへ行ったようだ。あ、桜のトンネル! 話には聞いてましたが予想以上に綺麗ですね〜」


 その美しさにマドレーは感嘆した。天気も良く、絶好の旅日和だ。


 マドレー達の乗る軍事馬車は、イデュワからモドナへ通じる高速道路にある名所でアルジェオン百景の一つ、通称『桜トンネル』を駆け抜けていた。桜は八分咲きで、歩道をゆっくり歩く観光客も多い。


「そりゃ、こっちは戦争と全く関係ないからな」


 浮かれたマドレーとは対極的に、フィカの返事は冷静だ。

 2人は交代で馬を操っており、今はフィカの番である。


 マドレーの意向で国の中央を走る高速道路を使い、サローヌ地方から侵入することにした。現状ではサローヌ地方が、アルジェオン領土内からモンスター生息域に行ける唯一の場所だ。他はクムール軍に見つかる恐れが高い。それに、ギムの援助を受けられる利点もある。


 行動を極力漏らさないように、見かけは普通のバス馬車にしている。

 だが内部には、多数の武器と道具を積み込んでいた。

 この荷台を拠点として、一ヶ月ぐらい定住できる備蓄もある。


 アルジェオンの高速道路は旧道より石が水平に隈なく敷き詰められ、馬車の速度が二回りは早い。そのおかげで、夜明けに出発すると夜にはサローヌ城に着く予定だ。現代日本の高速道路とは違い、両端には飛脚なども通れる歩道がある。


 行き交う馬車や旅人達も多く、春の長閑な風景だ。平地が少なく山の中を切り開かれて作られたので、山沿いに作られた段々畑が見える。農民は種蒔きなどで忙しくしている。斜面で牛や馬の放飼もされていた。この国が戦争状態である事実を忘れさせてくれる、牧歌的な景色であった。


 馬車の中にいるのは、総勢10人。マドレー隊長、ラドルにミリナ、フィカ。それにケニダとキアナに加えて、重装兵のメケロ、狐獣兵のリホ、工作兵のソムラ、諜報兵のカンシートがメンバーだ。6人は第七師団所属の兵士なので、気心はしれている。

 メケロは筋骨隆々の体格で身長も高い。この戦争で幾つもの会戦に参加した猛者で、歪んだ盾は歴戦の証だ。ソムラは中肉中背で、土木技術などに長けている専門家だ。カンシートはやや小柄で、役割のせいか本来の性質なのか隅で静かにしていた。


「あ、あの向こうは、私の村ですよ」


 桜トンネルを抜けた後、ミリナが言った。

 確かに角度は違うが、フミ村に行った時に見えた山がある。


「帰りたいか?」


 タバコをふかしながら、キアナが聞く。

 

「いえ、ここから行く道は非常に険しいし、今は大丈夫です」

「お前の家族の方こそ、大丈夫なのか?」


 フィカが、キアナに質問した。

 軍人一家なので、前線に向かった親族もいるだろう。


「連絡なんか、してねえよ」


 タバコを気にして荷台の先頭にいるキアナは、ぶっきらぼうに言う。

 本当に興味がなさそうだ。


「しっかし、ここまで負けるとはな。第七師団だからって馬鹿にされてたけど、他の師団も大概だったな。これからどうすんだろ?」

「知らん。とにかく、やれる事をやるだけだ」


 キアナが呟いた言葉に、フィカは素っ気なく返す。

 馬車は快走し、何の問題もなく予定通りサローヌ城に到着する。


 ギムに謁見をお願いすると、快く通してくれた。

 話によると、二週間ほど前に前線から戻ってきたそうだ。


「おお、キャフの部下達か。頼もしいな。そう言えばあいつは大丈夫か?」


 キャフが爆弾テロの犠牲になった事は、既に通魔石電話を介して伝えている。


「はい、ギム様。回復魔法で少しずつですが元に戻りつつあります」

「そうかそうか。それは良かった。今日はゆっくり休んで行ってくれ」


「前線の様子は、どうですか?」

「膠着状態だな。君が導入したレーダーのおかげで敵の侵入が簡単に分かるから、モンスターの対処はしやすい。ありがとう」

「どういたしまして」


 マドレーはギムの言葉に喜ぶ。ダナンも同じように感じていれば、今みたいな状況に陥ることは無かった。返す返すも残念だ。


「ただモンスター達が減る気配がないので、結局は現状維持だな。すまん。君たちがモンスター生息域で何とかしてくれるなら、かなり助かるだろう」

「できる限りの事はします」


 夜、会議室をかりて、マドレー隊が集合する。


「お疲れ様です。明日からいよいよモンスター生息域に行くこととなります。くれぐれも気を付けてください。クムール軍に気付かれないためにも目立たないところに荷台を置いて、軽装で行きます。食糧も生息域内で採って食べましょう。幸い、カンシート曹長はサバイバルのプロです。斥候としての訓練を受け、無人島でのサバイバル術も身につけています。彼のアドバイスを心して聞いてください」


 カンシートが皆に一礼する。軍人の常で寡黙な印象の男だ。


「まだミリナさんの魔素も回復途上だから、生息域に進入当初は極力剣で対応してください。フィカさんとケニダさんでお願いします。ラドルさんは気にせず魔法で攻撃してください。リホさんやキアナさんは、後方支援の形で協力お願いします。工兵のソムラさんも後方支援で。どちらかと言うと、戦闘より別の仕事を頼むかもしれません」

「分かりました」


「当座の目標は、オークの村です。ただ、それが最終目標ではありません。話を聞く限り、鍵になるのはダンジョンなど他のクムール軍関連施設です。その中に、あの寄生兵器の秘密があるんじゃないかと思ってます」


「別行動もあり得るのか?」

「はい、もちろん。そのために、通魔石(コミュ・ストーン)を各自一つずつ携帯して下さい。一番魔素の高い、ミリナさんが中心になります。なので、ミリナさんはできるだけ僕と一緒に行動して下さい」

「はい、分かりました」


「とにかく行ってみないと分かりません。予測しても無駄でしょう。明日の朝六時に出発します。以上」


 その言葉で解散となり、各自明日の準備に努めた。

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