第014話 激闘
前回のあらすじ
ゴブリンなんて、楽勝楽勝。
げ、ゴーレムがきた!
その動く石像はオーク達にとって初めて遭遇する脅威らしく、恐怖に腰を抜かす兵士もいる。外見はゴブリンよりも人間に似た容姿で、何かの神様のようだ。
ブヒー!! ブブヒーーー!!
矢も剣も効かず木々を次々となぎ倒し、動く石像は二足歩行でひたすら直進してくる。壁よりも高いその不気味な顔が村を覗き込んだ時、周辺の家に住むオーク達は悲鳴をあげ、家を出て着の身着のままで逃げ惑っていた。
そしてとうとう動く石像の手が壁に触れ、バキバキっと壊れる音がし始める。武器は所持してないが、オークの兵士達は身の危険を感じ後ずさりしていく。
「ふニャ〜!!」
幸いラドルやオーク達は、壁が破壊される前に飛び降りて事なきを得た。だが最悪の状況だ。動く石像が破壊した壁の隙間から、ゴブリン達が次から次へと村の中へなだれ込んでくる。その数は瞬く間に数十人まで膨れ上がった。
ゴブゴブ!
ブッヒヒーー!!
壮絶な争いが始まった。オーク達は必死にゴブリンを仕留めるが、ゴブリンも負けじと反撃する。動く石像も含め双方入り乱れ、西の一帯は多数の家屋が被害を受けた。
(あれ、どうやって動いてんだ?)
戦闘の最中、キャフは疑問に思った。
この世界にも動く石像は存在するし、キャフも見たことはある。だが、かなりの魔素と高度な術式が必須だ。賢者の魔素を最大限に集めなければ動きようがない。
それほど高名なゴブリンの魔術師なんて、聞いたことがなかった。しかしこの動く石像を動かすには、賢者二人分の魔素は必要だ。それに術式も熟練した魔導師の術式コードが必須である。
キャフの知識の限り、動く石像の遠隔操作なんて不可能だ。魔法杖を媒介するにしても、魔素を送り込むために魔法使い自身が動く石像の近くにいないと作動できない。少なくともキャフが今まで見てきた動く石像は、そうだった。
キャフは逃げながら辺りを見回したが、それらしき人物はどこにも見えない。フィカの剣も動く石像には通じないようだ。何度も打ち込むが、傷一つ付いていない。不可解な点が多過ぎる。
ブヒー!!
傷ついたオークの兵士達が、横たわっている。心配だがキャフには何もできない。そう思って見ていると、モナメが走り寄って魔法杖を使っていた。するとさっきまで負傷して動けなかった兵士が、再び立上がりゴブリン達へ向かって行く。回復魔法の効果だ。
(うまくやっているな……)
モナメの姿を見て、安心したキャフであった。
だが事態は改善の兆しが見えない。このままでは困難に直面する。
すると、ブブッヒーー!! と雄叫びが聞こえてきた。見ると、巨大な槍をたずさえマダラ村長がやってきた。デカいと思ったが、やはり立上がると動く石像より少し低いぐらいある。その槍も人間一人じゃ持てないほどに、大きくて重そうだ。
ブヒー!!!
マダラ村長が槍で一突きする。だが動く石像はそれを避けた。予想外に俊敏な動きを見せるが少し擦ったらしく、動く石像の肩の一部が壊れる。マダラ村長渾身の二突き目は動く石像の腹を狙い、見事に突き刺さった。
(やったか?)
だが簡単には終わらない。ブヒーとマダラ村長は力を振り絞って動く石像から槍を抜こうとしたが、腹にめりこんで抜けなくなる。腕に血管が浮き出ているが駄目だ。するとボキ!!っと大きな音を立て、槍が真っ二つに割れた。
ブブヒヒーーー!!
マダラ村長は槍を捨て、突進する。まさに猪突猛進だ。
だがそんなマダラ村長を動く石像は受けて立ち、がっしりと受け止める。裾払いを狙って動く石像を倒そうとするが、受け流される。それならと腹や胸目がけパンチを繰り出すものの、びくともしない。汗が流れ、疲労の色が濃くなってゆく。
そこに動く石像の背後から、フィカが膝関節に剣を突き刺す。と同時に、ラドルもファイアボールを投げつけた。2人の攻撃に、動く石像もたまらずバランスを崩す。
ドシーーン!!
「やったか!」
もう、動く気配はない。キャフは動く石像の仕組みを調べたく思い、側に近づいた。動く石像は倒れた衝撃のせいか、ピクリとも動かない。フィカも慎重に動く石像の様子を観察している。
その時だ。
「危ない!」
フィカの背後からゴブリンが一匹、彼女を狙い襲いかかって来た。気付いたのはキャフだけだ。間に合わない。咄嗟にキャフが間に入り、フィカをかばう。
「ぐお!」
ゴブリンの剣が、キャフの左腕に突き刺さる。
気付いたフィカが、ゴブリンを一撃で真っ二つにした。
「師匠!」
ラドルが駆け寄って来た。
「すまん。大丈夫か?」
フィカも心配そうな目でキャフを見た。
「痛えな……」
うずくまるキャフは辛そうで、やがて気を失ってしまった。
動く石像が破壊された事で形勢は一気に逆転する。マダラ村長もダメージは少ないようだ。やがてゴブリン達は勝てないと悟ったのか、逃げて行った。
こうしてオーク達の勝利で、闘いは終わった。