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第139話 ダナン出撃

前回のあらすじ


ダナン司令官、前線を視察。フラグ立った?

「はっはっは、ワシが来れば、もうこの戦争も終わりよ!!」

「そうですね、ダナン司令官!!」


 ダナン率いる精鋭部隊は旧道に入った後、モジャナ地域に向けて北上した。ダナン自身は沢山のメイドや部下達と一緒に豪華な専用馬車に乗り込み、宴会が始まっている。昼間っから豪勢なものである。


「どうやって終結させるのですか?」

「ここで暫くモンスター達をやっつければ、あっちは戦意喪失よ。モドナなんて和平交渉の過程で解決すりゃ良い。港湾の使用を認めてモンスター生息域の一部を渡せば、喜んで講和するだろうよ」


「伝手はあるんですか?」

「内々にだがな。言えないけれど、何もない訳じゃない」

「それはそれは、さすがダナン司令官」


 取り巻きの部下達が喜びの声を上げ、杯を飲み干す。


 エリート達は金儲けが主目的なので戦争を好む武人は少ない。ただ危機が無いと予算が減らされるため、時には危機を煽るさじ加減が求められる。


 平和憲法に縛られ外国を攻撃できないアルジェオン軍にとって、クムール軍が攻めてきた今回の一件は千載一遇のチャンスとも言えた。


「まあな、戦後の復興需要も沢山あるぞ。いつもの通り軍関連業者に回してじゃんじゃん稼ぐか! そうだ、お前、戦争孤児の女どもを集めて風俗経営しろよ。儲かるぞ〜」

「良いんですか? でも自分はマッサージ得意なので自分がデリヘルとして働きたいです」

「ああ、そうか。やってみろ、やってみろ」


 どこの国にも副業規定に違反する軍人はいるらしい。このようにどんちゃん騒ぎをしながら派手な行列を率いて、ダナン一行は無事モジャンの前線に到着する。


 旧道沿いには以前より沢山の砦が作られ、防御網が構築されていた。


 沢山の見張り兵が常時付近を警備し、弓兵も常に待機している。ダナンがレーダーを廃止したせいで兵士達の仕事は増え、誰もが疲弊していた。だがダナンは全く気付いていない。


「お〜、よーやってるな。ご苦労、ご苦労」


 ダナンは大勢の取り巻きに囲まれながら、砦の一つを視察した。

 皆がかしこまり、一礼する。


「良くやってるかな」

「はい! 完璧であります!」

「ご苦労。それでは、モジャール城へ行くぞ」


 視察を終え、一行は宿営地のモジャール城へと向かう。キャフ達のおかげで今はすっかり修繕されており、城は快適に使えるようになっていた。到着した頃は日の入りで、宴会の準備が始まる。


 満月が綺麗な夜だった。


 周りの村々から食糧が強制徴収され、最前線にも関わらずお酒や肉をふんだんに使った豪華な食事が振る舞われた。兵士達はお酒も入り、乱痴気騒ぎがあちこちで起きている。


 めぼしい村娘たちが連れてこられてベタベタ触る軍人相手にイヤイヤお酌させられるのは、古今東西良くある光景だ。女性の扱いに慣れない無骨な兵士達がここぞとばかりに迫る姿は醜悪である。


 そんな狂乱の宴の最中であった。まず前線に異常が起こる。


 ドドドドドドッ!!!!


 モンスター旧道に向けて、大地を揺るがす轟音が響く。一週間前から、ダナン司令官の視察準備をしていた兵士達は疲労困憊で、見張りも疎かになっていた。


「な、なんだ?」

「敵襲だ!!!」

 

 月夜の中、最大限の魔力を得た凶悪熊(グリズリー)灰色狼(シルバーウルフ)狂牛(マッド・ブル)達の群れに続き、ゴブリン達がやってくる。


 砦まで乗り込んだゴブリン達はアルジェオン兵達を棍棒で殴りつける。戦闘準備が不十分だった兵士達は、瞬く間に死体の山へと変わっていった。


 次々と、砦が陥落していく。

 当然、モジャール城まで敵の魔の手は迫る。


「ダナン司令官、敵襲です!!」

「はあ? そんなの、お前達に任せる。オレは寝るぞ」


 そう言ってすっかり酔っぱらったダナンは、気に入った村娘を抱き抱えながら、キャフ達が復興させた司令官室へとフラフラ千鳥足で歩いて行く。


 そんな時、怪鳥(ロック)達が月夜に照らされ、モジャール城上空まで現れた。背にはクムール兵が乗り、一匹十発ほどの爆弾が巻かれている。兵士達が爆弾を巻く紐を切ると、モジャール城目掛けて、雨のように沢山の爆弾が降り注いでいった。つまりは空襲だ。


 ヒューーーーン ドドーーーッンンン!!!


 うわーーー!!!


 火力も十分で次々に火の手が上がる。酔っ払ってる兵士達は何が起きたのかよく分からないまま逃げ惑った。統率が全く取れず、自滅している兵士達も多数存在する。



 翌朝真っ黒焦げになったモジャール城司令官室にて、ダナン司令官の遺体が回収される。モジャール城は再び陥落し、モンスター達の住処となった。



「あ〜、バカやってますね」


 女王と一緒に会議室でダナン司令官の死亡報告を受けたとき、マドレーは思わず本音が出た。幸い誰も聞いていないようだ。


「これから、どうするか……」

「代理のあなたが司令官ではないですか? カジャーリー殿」

「そ、そうなるのかの……」


 タージェ評議員長に指名されたカジャーリー中将は、不安そうな顔で汗をかいていた。彼もダナンと同じ王立軍学校卒業生で、ダナンの二つ下にあたる。敵を作らない戦略でここまで出世してきたが、何か能力があるわけではない。特にこんな非常時での決断は、答えのない入試問題を解くのと同じくらい不得意であった。


「とりあえず、前線に部隊を出さねばならぬのでは?」


 タージェ評議員長の提案に「そ、そうですね」と相槌を打つ。

 甚だ心許ないが、その場で増援部隊の派遣が決まる。


「これは、益々混乱しますね……」


 マドレーは複雑そうな顔で、女王に言った。


      *    *    *


「なんだ、呆気ないな。わざわざモドナを離れて俺が来ることもなかったか」


 クムール軍陣営の司令部テントでは、鬼武将軍ジクリードが拍子抜けした顔で報告を聞いていた。自身が全く活躍せずに戦闘が終わり不満のようだ。


 鬼武将軍の名の通り皇帝並に背も高くて隆起した筋肉で覆われる鋼の体は、武人の最高傑作である。頑強な甲冑を纏う姿は、人間と言うよりモンスターにも見える。彼のために作られた巨大な《(ドラゴン)(アックス)》を操り戦場を駆る姿はまさに鬼神であり、彼が率いる精鋭部隊は常に先陣を切り全てをなぎ倒す。まさにクムール軍の要であった。


「夜襲が効いたからね。それにあのダナンだし」

 

 シェスカは笑って答える。


「それより、モドナにあると言う《(いかずち)方舟(はこぶね)》は見つからないのかい?」

「ああ。最優先に調査させているが手がかりなしだ」


 シェスカの問いには、鬼武将軍も歯切れが悪かった。

 痛いところを突かれたらしい。


「鬼武将軍ともあろうお方が」

「何せ三千年以上前とも言われている古代の遺物だ。おいそれと見つかる訳がないだろう。大体、あんたの言う古文書に数文載っているだけだろ? 本当に実在したのか?」

「私を信じないのかい? しっかりしておくれよ。戦争を終わらせるために必要なんだから」


 苦虫を噛み潰したような顔をするジクリードを尻目に、シェスカは笑いながらテントを出て行った。

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