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第138話 気を取り直して

前回のあらすじ


色々ヤバいだろ、これ!

「ぼ、僕はバカだ……」


 女王の部屋へ戻り意識が戻ったマドレーは激しく後悔し、廃人のように部屋の隅っこで凹んでいた。漫画だったら、顔から棒線が何本も出たり髪が真っ白になるほどに燃え尽きて暗くなっている。死相が出ていると言われてもおかしくない。

 

 事情を聞いた女王も3人も、声をかけづらかった。


「す、すいません…… 私が頼んだばっかりに……」


 ベットで休むルーラ女王が申し訳なさそうに言う。


「い、良いんです。女王陛下の辛さを共有できましたから……」

「やっぱり、そう思いましたか? それは少し嬉しいです」

「事態が好転する訳じゃ無いですけどね……」

「そうですよね……」


 今度は2人とも落ち込んでしまう。マドレーも理解はした。今アルジェオンが危機にあるのは、クムール帝国からの侵略だけでは無いことに。


 毒を食らわば皿までも。


 翌日も、マドレーは女王の姿となって会議に出席する。

 今度はマドレーも進んで着替えと化粧をした。


「もしかしてマドレーさん、女装が好きってことは無いですよね?」

「え、そ、そんなこと無いですよ! 嫌だなあ、ははは……」


 ミリナに鋭い指摘を受け、ぎくりとするマドレーであった。


 それはともかく、会議では私情を捨ててひたすら押印ロボットと化す。何なら印鑑押し専用カラクリ人形を作っても良いくらいだが、一応国家としての体面があるらしい。何を言われても気にせず御璽を押しまくった。


 ただ、悪いことばかりでは無い。

 会議の不毛な内容はともかく、発言の中身で人間関係が窺えた。


 それで分かったことは、タージェ評議員長の孤立無援な状態であった。とにかく、ダナン軍総司令官の意見が通りやすい。魔法協会理事もイエスマンだ。大方、学校関係か何かで繋がっているのだろう。


 そしてダナン司令官は、軍の利権にしか興味がない。どれもこれも、全ての利益が軍関係の組織に回るように書類を作ってくる。戦争が始まったことで軍への予算も拡大されたが、その内訳は不透明であった。


 良くまあここまで露骨なもんだと、マドレーは内心呆れ返る。ただマドレーも軍人でその利益に預かっているから、あまり強くは言えない身分だ。


 タージェ評議員長はダナンの悪行を認識しているらしく、何度か激しくやりあう。だが正論で反論しても、結局は折れてしまう。やはり抗えない力関係があるらしい。多数決で採決されると、結局ダナンの勝ちだ。数の力は暴力的であった。


(これでは、先行き暗いですね……)



 数日後のこと。


「そろそろ私が会議に出ます。マドレーさん、今までご苦労様でした。ばれずに良かったです。本当にありがとうございました」


 ルーラ女王は、やっと普通に起き上がれるようになった。


 ちなみにキャフは、相変わらず隣の部屋で回復魔法をかけてもらっている。ミリナに頼んで4人は部屋の中を覗かせてもらったが、そこには光に包まれた物体があるだけでまだ体全体も出来上がって無い様子であった。


「キャフさん、すいません……」


 ルーラ女王が、涙ぐむ。


「師匠、こんな姿に…… 大丈夫かニャ?」

「一応術式は正常作動していますが、まだ時間がかかりそうです」

「これは、仕方ないな」

「とにかく、待ちましょう」


「それで明日からですが、僕が女王様の補佐官になっても良いでしょうか?」


 マドレーが提案した。ここ数日で自分に何か出来ないかと熟考した結論である。アルジェオンではあまり聞かない役職だが、場所が場所であればiPS細胞事業を簡単に潰せるくらいの権力があるらしい。

 

 勿論マドレーは、そんなバカなことをする為になる訳じゃ無い。女王を補佐して組織を強固なものにし、アルジェオンを勝利に導く為だ。


「そうですね。分かりました。大丈夫にしましょう」


 翌日からは車椅子のルーラ女王とメイドに加え、正装のマドレーが男として会議場に向かう。一応、昨日までの包帯姿が不自然では無いようにする為、ルーラ女王の顔の一部はまだ包帯で隠されている。


「ご心配をおかけして、申し訳ありません。ようやく声も出せるようになりました。これからも宜しくお願いします」


 ルーラ女王の挨拶に皆が一礼し、会議が通常どおりに進行する。今日はあくまで、聞き役に徹するマドレーであった。女王の背後から眺めるだけでも役立つ情報は多い。


 会議終了後、マドレーは女王へ書類を渡した書記官に話を聞いた。


「この書類、うまく書いてますがいつ頃書いたのですか?」

「ああ、この原案は既に昨日中に各部署から回ってくるんだ。会議の内容も大体決まってるんだよ。ダナンがちょっかい出してきて、面倒な時もあるけどな」

「へえ、そうなんですか。各部署ではどなたが書かれているのでしょうか?」

「知らんな、聞いてくれ」


 公務員だけあって、自分の仕事以外は興味がないらしい。

 だが確認のために聞いたマドレーにとっては、有益な情報であった。


 試しに軍の事務局に出向いて尋ねると、「司令官達の会議の内容を踏まえて」とか「大将から書けと丸投げされて」とか、様々な理由があがる。


 つまり書いた本人は、誰かの命令で書いただけだった。全く責任が無い。そのため文書自体が非常に煩雑で分かりにくく、どうとでも取れる内容が多い。文責はその部門の長で例えば第一師団長だったりするが、これも本人が書いた訳じゃ無いのは明白だ。


(この仕組みを何とかしないと、いけませんね……)


「自分でやらないと、愚か者に支配される」


 古代哲学者の言葉を、マドレーは思い出していた。



 そして数日後、ダナン司令官率いる第一師団の精鋭が旧道の前線へと出発した。

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