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第137話 代理

前回のあらすじ


マドレー、女王になります!

「ば、バカなんですか? 僕に女装させるなんて!! あ、でも、もしかして、女王陛下が使った下着をつけるの? イタッ!!」


 マドレーはフィカに頭を殴られ、たまらず床に倒れ込んだ。


「変態か? んな訳あるか。下着はそのまま、代わりに女王様専用の新品コルセットを着させてやる。ありがたく思え」

「え、ちょっとそれ、僕の体に合わないですよ!」

「マドレー様、観念するニャ。ひゃっひゃっヒャ。綺麗綺麗にしてあげるニャ〜」

「楽しみですね〜」


 半強制的に服を脱がされ、女王と同じ服に着替えさせられる。一度身につけたら1人では脱げないほど複雑な作りである。どうやって着られるのかマドレーですら謎だ。3人以外に、普段ルーラ女王の着替えをしているメイド達も律儀に手伝ってくれた。


 フィカの言う通りマドレーの体格は華奢で色白なので、女の子にしても遜色ない。会議が始まるまで、それほど時間はない。マドレーは観念して大人しくなり、されるがままにした。


 女性陣は着せ替え人形で遊ぶかのように、一生懸命仕立て上げる。後から包帯を巻くから全く意味がないのだが、ラドルの趣味で化粧も施された。赤い口紅が良く似合う。


 格闘の末、何とか格好はつく。胸と腰が体型に合わないのはやむを得ない。


「お、結構イケてるにゃ!!」

「こ、これが……僕?」


 鏡を見て美しくなった自分自身の姿に戸惑い、マドレーは顔を赤らめた。

 新たな趣味が、開花しそうである。

 これが好きな男性は、意外に多いかも知れない。

 だがそっちの趣味に走らせる為に、仮装させた訳じゃない。

 頭に包帯を巻き移動式ベットにくくりつけ、ようやく完了する。


「じゃあ、くれぐれも失敗しないように。普段の女王と同じ仕草で」


 フィカが有無を言わさぬ鋭い目付きで言うと、マドレーは「は、はい」としか返事ができない。女王の仕草と言われても、会って日が浅いのだから覚えられる訳が無い。だがこの状況ではやるしかない。もしバレたら死刑は免れないだろう。


 メイド2人に連れられて、ベッドに乗りながら会議室へと向かう。絨毯の上なので揺れは少なく、乗り心地は良かった。執事が側に付き添う。


(考えると会議の現場に行けるのだから、役得といえば役得だな……)



 そう思いながら会議場に入ると、そこにはダナン司令官、タージェ評議員長、リル皇子、魔法協会理事の賢者ファド、そして数人の男達や秘書、書記官達がいた。


 ベッドに寝ているルーラ女王を見て、リル皇子は舌打ちする。

 ダナンもやや意外そうな顔だった。


「先だっての爆発に巻き込まれ、このようなお姿になりました。医者の話では命に別状はないそうです。口は聞けないものの、ルーラ女王の固い意思で公務を執り行いたいとのことです」


 執事が、女王に代わって説明した。

 女王本人であることに意義を唱えるものはいない。

 変装は成功しているようだ。


「おお、ルーラ様…… おいたわしや……」


 場内は悲劇で包まれた。だが長居し過ぎたらバレるだろう。

 早く始めろと、マドレーは内心冷や冷やした。


「喋れないのかね? リル皇子に代行してもらった方が良いんではないかな?」


 ダナン司令官が、やや皮肉を込めて言う。


「いえ、女王陛下は公務を執り行います。そうですね?」


 メイドの呼びかけに、マドレーは頷いた。ベッドに寝ているから視界が悪く、マドレーから他の人間の表情は伺えない。リル皇子も何かモゴモゴ言ってたが、明確な反論はなかった。


「それでは会議を始めさせていただきます。ではダナン司令官から」


「うーん、戦況な。まあ、何とかなるじゃろ。それよりこの前の王立軍学校と魔法学校のOBでやったゴルフコンペだけど、ファド君なかなか上手いな? スコア85切るのか? 私も君ぐらい若い頃はそれくらいだったけどな」


 と、ダナンは、新しく魔法協会理事となったファドに話を振った。

 会長はリル皇子だが王族であるため、会議ではファドに全権を委ねるらしい。


「いや〜 そんなこと無いですよ。偶々です」


 と、謙遜しつつ、まんざらでも無いように言う。


「しかし、これで軍学校の56勝107敗か。悔しいな。現役は一矢報いたようだが……」


 と、会議の内容とは全く関係ない話が延々と続き始めた。

 早く終われと思うマドレーだが、会議の八割はこんなもんだ。

 とにかく無駄話が多い。



「ああ、そうだ、旧道の視察に行ったのだが、棒っきれを立てて守備を疎かにしてたんだ。何やら、『レーダー』とか言うのか? モンスターが来たら分かる装置とか言って、警護活動を5分の1まで減らせたんだと」


 やっと本題の一つに入った。ダナンの言葉に、マドレーは内心(お、僕を評価するんですかね? やはり腐っても司令官ですね)と思いながら、聞き耳を立てる。


「だからな、『機械に頼るなんて、何事じゃ! 貴様それでも名誉あるアルジェオン兵か!!』と、叱り飛ばしてやったわ。アルジェオン兵はな、飛び抜けて目の良い奴を見張り兵として採用しているんだ。案の定そいつらが役目を奪われたと腐っておってな。だからあんな棒っきれ、直ぐに捨てろと言っといた」


 ダナン司令官は、満足げに笑っていた。

 

「さすが、ダナン司令官。今時の若者は苦労をしないで変な道具に頼るからいけませんな。もっと精神を鍛えないと」


 ファドも追従する。


「そうよ! アルジェオン兵の精神力は世界一ィイ! モンスターなど恐るるに足らず! 一億火の玉となれば、クムールなんかイチコロよ!!」


 じーさん共が賛同して笑う中、マドレーだけは恐怖で汗をかいていた。

 ちなみにアルジェオン王国の人口は一億もいない。


「と言うわけで、旧道に派遣する前線部隊の再編成を願いたい。あんな腑抜けどもじゃ役に立たん。一度できた防御線だから維持なんて簡単だ。第一師団中心にする」


(こ、こんなにバカとは……)


 本当に無能な相手に対しては、非難したくても恐怖の方が勝る。何をするのか読めないからだ。彼らに国の舵取りをさせると忽ち瓦解するのは、歴史が証明している。だが現実のアルジェオンでは彼らが最高権力者であり、その職にないマドレー達は彼らに仕えるしかない。


 ルーラ女王も言っていた、良く分からない話は延々と続く。この意味のない会話は、マドレーの精神を病ませるのに十分であった。元々包帯で耳が塞がれ聞き取りにくいマドレーにとっては、彼らの会話が単なる音楽か変な調和の音の塊となって、不毛な時間が過ぎていく。まったくもって耐えがたい苦痛である。



「……じゃあ、これくらいで終わりますか。議事録は残さんでいい。では女王陛下、ここにいつもの宜しくお願い致します」


 そうしてこの会議の間に、書記に書かせた書類が女王の手元に渡された。御璽も直ぐそばにあり、この状況から押印を拒否するのは難しい。マドレーは昭○天皇の気持ちが良く分かった。


(こ、これに御璽を押すなんて……)


 マドレーは激しい葛藤に襲われる。これを押すと自分が精魂込めて作ったレーダーが破棄され、やっと構築した前線が破られるかも知れない。押したくないがそうしたら偽物とバレる。


「どうしました? さあ」


 ダナンが促す。これ以上、時間を潰すのは無理そうだ。


(く、くぅ……)


 御璽を押した瞬間、マドレーは気絶した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今のうちに休息を……! (※キャフさんへ) [一言] マドレーさんっ……! いつも楽しく拝読しています。 今日も、前回のあらすじから半ばまでえんえん笑わせていただきました。日々の癒しをあり…
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