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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第九章 魔導師キャフ、第七師団の中隊長になる
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第135話 凱旋式

前回のあらすじ


そんなに怒ってないようで、良かった良かった。

「キ、キャフ大尉。モジャナ奪回における、き、貴君の功績と栄誉を称え、に、二階級昇進とする。お、おめでとぅ……」


 明らかに嫌な顔をしつつ、ダナン司令官がキャフに勲章を渡す。衆人が見守る中なので、向こうも変なことはしない。エリートほど外面が良いから、型どおりに握手は求めてくる。


 嫌な奴は嫌で済ますのがキャフの性格であるが、こちらも大人になって握手を返す。「ありがとうございます」と適当に返事をし、そそくさと壇上の席に戻った。



 今日は花祭りの日。アルジェオン伝統行事で春の訪れを祝う日だ。今年は凱旋式も兼ねており、戦時下にも関わらず華やかな一日になった。天気も良く通りは大勢の人で賑わう。花祭りの慣習で、どの人も頭や服に何かしらの花を着飾っている。


 先ほどまでは軍のパレードがエミュゼ通りで行われていた。今はレスタノイア城前の広場で、表彰式の最中だ。この日の為に大きな仮設舞台が建設されて、周りには反響板も備え付けられた。

 

 あちこちに告知の貼り紙がされていたので、沢山の人が参加している。ルーラ女王の出席も告知されているから、見に来たが多いのかもしれない。この世界では写真がない。コピー機も存在せず王族の肖像画は城にしか無いので、実物のルーラ女王を知る人は少なかった。


 ダナンは苦虫を潰したような顔をしているが、キャフの功績ならば当然だろう。これでキャフは中佐となり、大隊長も務めることが出来る。


 ちなみにキャフの部隊も、多くが一階級昇進した。輝く勲章を授与後、キャフだけはダナンと同じ壇上の貴賓席にとどまり、マドレー以下の隊員は勲章を受け取った後は再び下りて、下にある席へと戻って行く。


 ルーラ女王は少し離れた奥の仕切りの中にいて、姿はよく見えない。他の参加者と違い隠されているのは、やはり王家である。


「師匠、なんか居心地悪そうですニャ」

「キャフ師なんだから仕方ないですね」


 マドレー達軍人が並ぶ席の後方には、大勢の民衆が立ち見でごった返していた。お祭りなので皆楽しそうにしている。表彰される一人一人に盛大な拍手がなされた。



「それでは、ルーラ女王から一言お願いします」


 係の言葉で仕切りの扉が開かれ、ルーラ女王が舞台に出た。


「おおぉお!」

「きれい!」

「すてき!」


 後方の民衆まで含め、女王の出現にどよめきが起こる。それは花祭りにふさわしい華のある出で立ちであった。ドレスもこの日のために新調され、鮮彩(あざやか)な花々があちこちに添えられている。キャフなんかもったいないくらい綺麗である。


 彼女が舞台の前方に立つと、従者が棒切れに芋の塊みたいなのをつけた物を持ってきた。コードが伸びていて、マドレーの発明したスピーカーに繋がっている。ダナン司令官はじめ壇上の貴賓席に座る方々は、不思議そうに眺めていた。


 この時代、演説はオペラ歌手のように自分の声だけでする。

 声の大きい人間ほど意見が通りやすいのは、いつの世も同じだ。


 マドレーのアイディアは、このマイクとスピーカー装置をルーラ女王の演説に使うことだった。声の振動がスピーカーに伝わり、魔法石を介して増幅される仕組みである。現代の物と仕組みが違うと言われても、異世界なのだから勘弁してほしい。


「アルジェオン王国民の皆さん! 女王ルーラです!!」


 遠く先まで行き渡るほど大きく澄んだ第一声に、観衆達のざわめきはピタッと止んだ。こんなに大きくしかも美しい声を聞くのは、初めての体験だ。何が起きているのか分からず、誰もが鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。1人マドレーだけはほくそ笑んでいた。


「うまくいったようですね」

「私もあれ使って、歌いたいニャ♪」

「それは、絶対やめろ」


 ルーラ女王の演説が始まる。


「今日は花祭りですね。存分に楽しんでください。私も皆様のお姿を見られて、とても嬉しいです!」


 女王様〜!!

 きれい〜!!


 あちこちで、ルーラ女王を称える声が響く。演説は続いた。


「ただ、私は皆様に謝らねばなりません。公式発表をしていませんでしたが、現在アルジェオンは隣国のクムール帝国から侵略を受け、戦争状態になっています」


 少々のざわめきが起こった。大部分の人達が、何となく気づいていたので、それほどに動揺はないようだ。ただ正式な発表がないと、不安にかられるのも事実であった。ダナン司令官達もしぶしぶ同意の上での、演説である。


「残念な事に、モドナは未だクムール軍の支配下です。事実を言いますと、先日の隕石落下も敵の魔法攻撃でした。ここにいる魔導師キャフ殿が敵の魔法使いを撃退してくださったのです」


 ルーラ女王に促され、キャフは立ち上がって軽く会釈した。

 パチパチパチと、拍手が湧き起こる。


「事情も色々とありまして、今まではっきりと皆様に伝えずに申し訳ありません。皆様にはこれから多大な苦労をかける事になりますが、私達は、クムールの野望には屈しません。私も含め、命を落とすことがあるかも知れません。現に、勇敢なアルジェオン軍や一般市民に犠牲者も出ています。敵は凶暴ですが、アルジェオンの自由を守るために共に戦いましょう!」


 うわぁあーーー

 女王陛下、バンザーイ!!


 ルーラ女王に呼応し、一段と大きな歓声が沸き起こる。

 初めてする演説の反応に、ルーラは感動を覚えていた。


「ありがとうございます、ありがとうございます。まだ女王として至らぬ点もありますが、これからもどうか宜しくお願いします。感謝の印にアルジェオン国歌を歌います。皆様も、ご一緒にどうぞ!!」


 そう言うと、ルーラ女王は大きく息を吸い、歌を歌い始めた。



♪アール神の名の下に 立ち上がりしは 我が祖先


♪幾多に及ぶ 争いの後 赤き大地も 豊かに実る


♪幼き国も 大人になりぬ 仲間を守り 自由を尊ぶ


♪永遠の楽園 護るため 自由の道を さあゆかん


♪ああアルジェオン 我が祖国

 


 透き通る麗しい声は、広場の隅々まで響き渡り、出席者の心を鷲掴みにした。


「ああぁあ、アルジェオン〜 我がそぉ〜こぉ〜く〜!!」


 民衆達は、何度もリピートし、終わると拍手喝采で盛り上がる。



「私より、ちょっと上手いですニャ」


 ラドルのボケに、誰も反応しない。


(なかなか、上手な演出だな……)


 通魔石電話でのヒステリックな声を忘れ、キャフも感動していた。




 観衆の興奮も最高潮の、その時だった。

 ボロを纏ったせむし男がルーラ女王の側にやって来る。


(なんだ?)


 余興だと思ったのか、誰も気に留めない。

 だがボロ切れの中にある物を見て、キャフは戦慄した。


「爆弾だ! 危ない!!」


 ドドーーンッ!!!!!


 駆け寄るキャフも巻き込み、爆弾は盛大に爆発し、煙が朦々と立ち上った。


       *    *    *


 急転直下、さっきまでの幸せな時間が悲劇の刻へと変わる。群衆達は逃げ惑い、舞台上では素早く駆け上がったマドレー達がキャフとルーラ女王の処置をした。


 銃弾一つで歴史が変わるように、この爆発はアルジェオンの運命を大きく変える可能性を秘めている。だがこれから何が起こるのかは誰にも分からなかった。


「綺麗な花火が上がったね。さよなら、女王陛下」


 誰に言うでもなく、群衆に紛れ込むシェスカは何処かへと去っていった。

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