第134話 久しぶりのお茶会
前回のあらすじ
ルーラ女王、通魔石電話の使い方が間違ってるかもしれない件について。
キャフ邸に帰ると、シーマから当然のようにルーラ女王からの言伝を伝えられる。夜のお茶会の案内だ。帰って来たばかりで体の疲れを取りたいが、あの通魔石電話の声を聞く限りそうも言ってられない。帰宅したその日の夜に、キャフ達は女王の部屋へとやってきた。
「帰ってきた!! お帰りなさい!!」
扉を開けると、待ち構えていた彼女は走り寄ってきて、強くキャフを抱きしめた。目も少し潤んでいる。その勢いでよろけそうになるキャフであったが、慌てて3人が背中をおさえてくれた。ルーラ女王の柔らかい肌の感触と甘い香りが、戦場から帰ってきたことを実感させてくれた。
「お久しぶりです!! お元気そうで何よりです!!」
「あ、ああ。連絡せず、すいませんでした」
「良いのです、さあどうぞ。皆さまも一緒に。あら、お1人多いのね」
キャフは先日の通魔石電話の件があるから、とにかく謝った。
だがルーラ女王の口ぶりでは、それほど気にしていないようだ。
呆気に取られる3人とマドレーを他所に、ルーラ女王はメイドに指示してお茶の用意をさせる。マドレーの分は用意されていなかったが直ぐに食器が出され、椅子も一脚追加された。
「突然のお邪魔を申し訳ございません、ルーラ女王陛下。第七師団でキャフ隊の副隊長を務めさせて頂いております、マドレー中尉です」
マドレーは礼儀正しく、ひざまづいて女王に挨拶をした。
「いえいえ。キャフ様をご支援頂きありがとうございます」
「ありがたきお言葉」
「じゃあ、お茶にしましょ」
急かすようにお茶会が始まる。気のせいかルーラ女王は以前より感情の起伏が大きいように見え、良く笑う。他の3人も何かを感じたのかお互い見遣り、アイコンタクトをしている。
「それで、戦争はいつ頃終わるのですか?」
ルーラ女王は、呑気なことを言った。
「いや、まだ旧道を一時的にせよ奪還しただけだ。あんたの方こそ情報が入ってるんじゃ無いのか? 終わらせるのは、あんたらの役目だと思うが?」
「それが…… 朝から晩まで会議、会議、会議。あのオジさん達はずーっと意味不明なことで喧嘩腰になって怒鳴り合い、最後はいつも『では女王陛下、ご判断を』と言うばかり。私はいつも、良く分からない書類に御璽を押すだけです」
喋りながら、女王は不機嫌な顔になって来た。
どうも、ストレスが溜まっているようだ。
「それ、ヤバいパターンにゃ。保証人とか、させられてないかニャ?」
「多分、そんな書類は無かったと思いますが……」
「やっぱりバカなんですね〜 ルーラ女王、どうにかならないんですか?」
「そうは言われても、私に出来る事は少なくて……」
先ほどとは打って変わり、悲しげな顔をして落ち込む。
やはりストレスがかなりかかっているようだ。
「そもそも他の地域はどうなってる? モドナは?」
「そうです、モドナが一番大変で、まだ包囲網が解かれておらず状況がわかりません。海路も封鎖されているそうです。何度も闘ったのですが防御が堅く、未だ吉報は届いていません」
「あと予算はどうなってるんですか? これも大事ですが」
「そうですね、実は私のところには細かい数字が上がってこないんです。いつも承認するだけで、詳しいことは教えてもらえません。会議の中身もその予算の事ばかりで、国民のことなど全然考えてないのです…… ほんと、聞いているだけで嫌になります」
「それは、別な意味で大変ですね……」
「まあ、女王の仕事ではあるけどな」
ミリナやフィカも、ルーラ女王に同情した。
「はい、もちろん私の責務であると理解しております。ですがこのような緊急事態でも、あの人達の心は民に向いていないと思うと、悲しくてならないのです」
「エリートっていうのは、そういうもんだ」
重苦しい空気が、皆を包む。しばらく無言になる。
「そう言えば、そろそろ『花祭り』だな」
フィカが話題を変えるように呟いた。花祭りとは、例年イデュワで行われる春の訪れを喜ぶお祭りである。エミュゼ通りをはじめとして、至る所でパレードや余興がなされ、ちょっとした無礼講になる。
「そうですね。今年は凱旋式も同時に行うそうです。皆様も出席してください。キャフさんにも招待状がいくはずです。功労者ですから勲章がもらえますよ」
「分かった」
興味はないが軍に所属する以上、出席が義務だろう。
「私もみんなの前で挨拶をします。考えてみれば、父の国葬以降初めてですね。まだ戴冠式も終わらぬうちから、戦争が始まってしまいましたから」
「そうなんですか?」
「はい…… 正直、みなさんが私をどう思っているのか不安です……」
「じゃあ、余興でちょっと面白いことをしましょうか?」
突然、マドレーが何か閃いた顔をした。
「何ですか?」
ルーラ女王は、不思議そうな顔をする。
「まだ準備が必要ですから、内密にしてください……」
夜も更ける中、6人は何事かを相談し始めた。




