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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第九章 魔導師キャフ、第七師団の中隊長になる
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第133話 凱旋

前回のあらすじ


ギムのおかげで奪還!!

 翌日、開けた草原でマドレーの実験は行われた。


 二メートルほどの高い棒が二つ立てられる。それぞれの上部には人の頭ぐらいの大きさの装置が取り付けられていた。そこに通魔石(コミュ・ストーン)畜魔石(チャージ・ストーン)が組み込まれているようだ。


 そしてマドレーは、離れた場所で通魔石(コミュ・ストーン)の入った別の装置を持ち待機していた。キャフやギム達も、マドレーを取り囲んで様子を見ている。


「じゃあ、ミリナさん、その間を歩いてみてください」

「はい」


 言われた通り、棒の間を歩く。するとマドレーの持つ装置の通魔石(コミュ・ストーン)が赤く反応した。


「ほお」


 側にいたキャフとギムが感嘆する。


「個人の魔素に反応してるんです。通魔石(コミュ・ストーン)の性質が、そう言うものですからね。後は畜魔石(チャージ・ストーン)と僕の作った術式で、感知したらこっちに信号を送るように作りました。キャフ隊長でも良いんですが、次に魔素が多いミリナさんにお願いしました」


「じゃあ、次は私やるニャ!」


 ラドルが勢い込んで、棒の間を歩いた。

 さっきよりは弱く、ほんのり赤くなる。


「やっぱり誰でも、てわけじゃ無いんだな」

「じゃあラドルさん、この石を持ってください」

「はニャ? これはモンスターの魔法石では?」

「そうです」


 言われるまま、魔法石を持って棒の間を再び歩く。

 すると今度は、ミリナの時よりも強力に赤く輝いた。


「ご覧の通り、モンスターに埋め込まれている魔法石に強く共鳴するようです。クムール兵はともかく、これならモンスターが来たことが一早く分かります。今までの戦闘で分かったように、クムール兵は貧弱でアルジェオン兵が勝てますから、壁を作らなくても当座はこれで凌げるでしょう」

「そうだな。早速これを旧道沿いに立てよう」


 クムール兵達はモンスター生息域まで退却したようだ。サローヌ自治軍と第七師団の工兵が協力して、マドレーの発明したレーダーや簡単な砦を作り始めた。


 軍の仕事は戦闘だけでは無い。モジャン城や村の修復、拠点作りなど、素早いインフラ設備の建設も求められる。その後は時折小競り合いがありながらも、二度と攻め込まれないようにモジャン地方と旧道を強化していった。


「じゃあ、俺は帰るぞ。あとの処理は頼んである。兵士共を使ってやってくれ。あとシドムの件も頼む。どうやら反抗期で、最近は俺の言う事も聞かないんだが」

「ああ、分かった」


 数日後、そう言い残してギム達はサローヌへと帰って行った。


 残ったサローヌ自治軍は非常に優秀だった。各種部隊が役割分担して着々と整備していく。とにかく今は、旧道までの防衛線を確実にしなければならない。


 気づくと、もう小春日和の温かい日々が続いていた。

 草木も芽吹き、春の訪れを実感する。


 モジャンの領地でも、種まきが始まった。戦争の当初は農民達も驚いて逃走し、難民と化した。だが安定してきたとの噂を聞きつけ、戻って来たようだ。焼かれた村も多かったものの兵士達が再建してくれたおかげで、今年の収穫も何とかなりそうである。



 そんなある日の夜だった。昼は温かいもののまだ夜は寒さが残る。



 偶々モジャン城に作ってもらったキャフの部屋でキャフが一人暖炉の前で落ち着いているとき、通魔石電話が応答した。誰だろうと思いながら、キャフは何気なく手に取った。


『キャフさんですか?』


 ルーラ女王だ。懐かしい声にキャフも嬉しく思う。


『あ、はい。お久しぶりです』

『お久しぶりじゃないわよ! 何回もこの電話使ったのに、なんで出ないの!!』


 予想外にも、ルーラ女王はご立腹であった。

 聞いたことのない怒ったルーラ女王の声に、キャフは驚き戸惑う。

 声だけだが、本気で怒っている顔が想像できるほどだ。


『いや、色々忙しくて気づかなかったんです』


 キャフは怖くて、妙に丁寧語になった。


『そんな言い訳、通用すると思ってるの? 男なんてみんなそう! 仕事だ仕事だ忙しい。その割に裏で不倫してたりキャバクラ行ったり風俗行ってるんでしょ! 分かってんのよ!!』

『い、いやそんな暇も場所も無いんだけど……』


 何だか余分な知識が含まれているが、キャフは突っ込むのを止めた。

 だが、この言い訳は更に火を付ける愚策であった。


『いーや。怪しい。大体こんなずっと離れていて、私に電話の一つもよこさないなんてありえない! 信じられない!! 私のこと愛してないの?』

『す、すいません……』


 こんなとき、キャフはどう対応して良いか分からない。

 そもそも、身の回りでこんな女性はいなかった。


『いつ帰ってくるの?』

『え、軍の命令次第なんですが……』

『だ か ら いつ帰ってくるの?』


 ルーラ女王は聞く耳を持たない。キャフは、平身低頭に謝るしかない。


『すいませんが、自分の一存では決められないもので……』

『分かった。じゃあダナンに言っておくから。早く帰って来てね♡』


 キャフの返事も待たず、一方的に切れた。


 夜、鬼の角が生えたルーラに追いかけ回された夢を見た。

 目覚めると汗をびっしょりかいていて、夢見が悪い。


 数日後、本当に帰還命令が下される。

 女王陛下の勅令ならすぐ通ったのだろう。

 モジャン地方も落ち着いたし、そろそろ戻っても良い頃合いだった。


「予定よりちょっと遅れたくらいで、良かったニャ」

「モジャナも、過ごしやすくて良かったです」

「ミリナ、フミ村には、行かなくて良いのか?」

「ええ。やる事も沢山あるのですから、大丈夫ですよ」


 すでにアルジェオン兵が防御は盤石だ。マドレーの作った装置のおかげもあり、帰り道は襲撃心配もない。3人達も、いつものように話をして楽しんでいた。キアナやケニダら他の兵達も、同様にリラックスしている。


 1人キャフだけが、モヤモヤしたものを抱えていた。

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