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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第九章 魔導師キャフ、第七師団の中隊長になる
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第131話 モジャナ会戦

前回のあらすじ


勝てたのは、リホちゃんのおかげ。

『おいケニダ曹長、聞こえるか?』

『……は、はい! キャフ大尉! やっと聞こえるようになりました!』

『霧も晴れてモンスターも退治した。お前らも、モジャール城まで来てくれ』

『了解です!!』



「さて、と。おい、一番偉いやつはどこにいる?」


 キャフは、身近にいる兵士達に聞いた。

 まずは状況を把握し、モジャール城を建て直して戦力を整えるのが先決だ。

 

「は? なんだお前?」


 だがキャフを見て胡散臭そうに感じた兵士達は、素っ気ない態度を取る。

 見慣れぬ魔法使いだし、彼らも城の後片付けで忙しいから仕方ない。


「おい、中隊長キャフ大尉だぞ!」 


 マドレーが軍人らしく、キャフの階級を強調して叱責した。

 途端に兵士達の態度が豹変する。


「は、はっ すいませんでした! 将軍のいる奥の建物まで案内いたします!」


 自分より身分が上と知り、兵士は我に返ったようだ。

 軍人だけありその辺は教育されている。


 だが彼等が案内した将軍がいたはずの建物は、既に真っ黒焦げで焼け落ちていた。

 瓦礫の中を捜索していた兵士達が死体の検分中だ。


「すいません、既に将軍はお亡くなりのようです」

「じゃあ次に偉いのは誰だ?」

「中隊長以上のお方達は全てここに避難していました。なので、キャフ大尉が一番上になります」


「……え、オレ?」


 突然の事態に驚く。中隊長になって未だ日が浅いのに、まさか城の責任者にさせられるとは思わなかった。


(マジかよ……)


一瞬躊躇する。しかしモジャナ奪回において重要な役目だ。伝令は送るとしても、今から援軍を待つ余裕はない。面倒だが今の状況では受けるしかなかった。


「キャフ大尉、サポートしますから」


 マドレーが、助け舟を出す。


「分かった。じゃあまず城内の兵士数、武器、食糧の状況を調べてくれ」

「はい!」


 キャフの指令に、兵士達が散らばって行く。

 彼等には、司令官の変更を伝令する役割もお願いした。



「キャフ大尉、到着しました」


 しばらく経って、ケニダ達が城内にやってきた。

 無傷な部隊は彼等だけなので、かなり助かる。


「おお、来たか。モンスターには会わなかったか?」

「はい、遭遇しておりません」


 思ったよりもクムール軍は侵攻していないらしい。

 そうなると、準備次第早々に旧道まで奪還できるかも知れない。


「そう言えば、リホとか言う狐少女はいるか?」

「は、はい」


 隊の中から狐少女が出てきた。側にいたラドルも来る。


「リホちゃんありがとニャ! あのお守り役に立ったニャ!」

「そうなの、良かった」

「ああ、君のおかげで九尾狐を倒せた。帰還した際は褒賞届を出しておく」

「ありがとうございます!!」

「じゃあ、各自城内の後片付け、及び負傷兵の看護などに務めてくれ」

「はい!!」



 兵士達が一所懸命に復興に取り組む中、キャフは一人で見張り台に向かった。壁の上には兵士が数人常駐している。遠くまで見渡せるが、目立ったモンスターはいない。


「クムール兵はどうだ?」

「確認できません」

「そうか。くれぐれも頼むぞ」

「はい!」


 他も含めてキャフは広いモジャール城内を一通り歩き、兵士達を鼓舞して行く。

 皆怠けることなく復興に努力しており、頼もしい限りだ。


 ケニダ達は自発的に手助けが必要な箇所を見つけ、精力的に手伝っている。

 ミリナ達の魔法部隊は、回復魔法を使って負傷兵の治療に務めていた。


 先ほどの将軍達のいた建物近くに戻ってくると、マドレー達が待っていた。


「お疲れ様です。兵数ですがおよそ三千人。突撃槍兵と歩兵が八百ずつ、弓兵が六百、騎兵と魔法部隊が三百ずつ、その他衛生兵などが二百です。食糧備蓄はこの人数分として一週間ほどになります」


「ありがとう。少ないな。オレが連れてきた部隊を全員参加させるとしても、ここの防備も必要だし、戦闘に使えるのは千五、六百ぐらいか。それで、前線はここからどれくらい先にあるんだ?」

「歩いて半日ほどの場所に、砦が旧道の南北に沿って三つほどあるそうです。モンスターが来ないのはそこで止めているのかも知れません。前線は恐らくその近辺かと」

「そうだと良いが……」


 正確な情報ではないから、不安を感じるキャフであった。

 とにかく、やらかしが多いこの軍だから、信用はできない。


 やがて日も落ち作業も夕食の時間となる。

 給食班がある限りの食材を使い御馳走を作ってくれた。


「みんな良くやってくれた。未だ城も落ち着かないが、クムール兵の気配はない。今日は存分に食ってくれ」


 歓声が上がり、皆思い思いに食べ始める。

 お酒を飲む輩もいて、歌を歌い始めたりと、直ぐに騒々しくなった。

 今後を思えばこれくらいの気晴らしは良いだろう。


 キャフはうるさいのが苦手なので端の方に行き、静かにしていた。

 するとマドレーもやってくる。彼も騒ぐのは苦手なようだ。


「お疲れ様です。上々の出来ですね」

「そうか。これで良いのかオレには分からん」


 やはり軍は人数が多く、冒険者とは勝手が違う。規律を守るのが苦手なキャフは命令を下すのも苦手だ。とにかく誠意を尽くしてはいるが、これで皆が満足しているかどうかはキャフのあずかり知らぬところであった。


「で、今後どうするんですか?」

「食糧を考えると早く出撃した方が良いな。砦の兵力は?」

「それぞれ五百人程度とのことです。籠城用の弓兵が殆どらしいですが」

「持ち堪えているのか?」

「既に伝令を出しました。明日様子が分かるでしょう」


 さすが手際が良い。彼を採用して良かったと、キャフは思った。



 翌日、伝令がやってくる。やはりモンスターの攻撃を受け各砦とも二百人程度に減ったらしい。砦自体は防御機能をまだ備えているようだが、時間の問題だ。


 モンスターとクムール帝国軍は、旧道を西に十キロ入った領地内にいると連絡を受ける。砦からは弓矢が届くかどうかぐらいの至近距離である。


 地図で確認すると、三つの砦は草原の中にあって見晴らしも良い。

 会戦する場所にぴったりだ。


「敵の兵力は?」

「はい、恐らくモンスター軍が五百、クムール軍が二千ほどのようです。情報の限りモンスターのランクはDかC程度です」

「キャフくんが随分やっつけたからね」

「まだあっちが有利だな。援軍が来る前に叩いた方が良いだろう。予定通り明日出撃する」


 城内に知らせ、各部隊から併せて千五百の兵を選ばせた。大部分が志願だ。


 翌日早朝、馬に乗ったキャフとマドレーが先頭に立って出発する。モンスターを警戒しながら進むが、問題なく砦のある場所まで到着した。先にはクムール軍の旗が多数並んでいた。敵の陣営だ。キャフは中央の砦に行って、隊長と会った。


「任務ご苦労。モジャール城の攻防で将軍以下中隊長まで死亡したため、代理司令官を務めるキャフ大尉だ」

「ご苦労様であります! サネス少尉です! 状況は変わっておりません。ここから見る限り、モンスターは霧が出る前よりも減ったようです」

「そうか。では一時間後に作戦を開始する。君たちは後方支援として準備してくれ」

「了解です!」


「作戦、どうするんですか?」 


 会見が終わって砦から出た時、マドレーがキャフに聞いた。


「どうすっかな。苦手なんだわ、そう言うの」

「まさか自分が先頭に立って、全て焼き尽くすつもりとか?」

「それも良いけど、流石に魔素の回復が遅れてるんだよな……」


 事実、魔法術式の解禁以降、キャフはかなりの大型魔法を操ってきた。

 どうもそのツケが来たらしい。

 若くもないから、魔素の回復度合いがやはり遅い。


「まだ敵はいるんですから、ちょっと休んでおいてくださいよ」

「そっかな……」


「今回は私が頑張るニャ!」


 ラドルが、先陣を直訴してきた。


「大丈夫かな……」


 ランクも上がったとは言え、甚だ心許ない。


「任せてニャ!」


 自信満々にドンと胸を張る、ラドルである。

 成長させるにも、こういった場は必要だろう。


「分かった、じゃあ、やるか」


 こうして一時間後、モジャナ 奪回を目指した戦いが始まる。


「行くニャ! 私に付いてくるニャァア!!」

「ウォオオオ!!!!」


 威勢よく、ラドルが先陣切って走って行った。

 三つの砦からは、沢山の矢がクムール陣営目がけて放たれた。

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