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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第一章 魔導師キャフ、追放されて旅立つ
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第013話 最近のモンスター生息域事情

前回のあらすじ


オークの魔法使いは、ワンオペで大変。

 キッチンには、かまどや鉄製の鍋もある。二匹は話好きで、人間相手にも警戒心なく気さくに喋ってくれた。


 まず話に上がったのは、二十年ほど前のアースドラゴン征伐だった。あのせいでモンスター同士のパワーバランスが大変動したそうだ。絶滅種も出ており、モンスター達は種の存続に必死らしい。


 ゲホッ!


 その話題が出た時、丁度お茶を飲んでいたキャフがむせ返った。

 だが二匹は気にも留めなかった。


「師匠のせいニャよ……」

「こいつらは儲かってんだから、良いだろ」


 その通りで、アースドラゴン消滅以来オーク達は機に乗じて勢力拡大したそうだ。だから勝ち組と言える。逆にアースドラゴンの下僕であったゴブリン達は没落し、今では強盗などを生業とするまで堕ちたらしい。


「ゴブリン達は知能も低いしね。僕達はあの後に産まれたから良く分からないけど、大人達はいつも言ってるよ。アースドラゴンは人間にとって脅威だけど、モンスターにとっては守護神だったって」


「他の大陸から、ドラゴンが来たりしないのか?」

「そういう話は聞かないですね。ドラゴンは転生すると言いますから、どこかに居るかも知れません」


「そうか。見た所この村は豊かそうだが、これもアースドラゴンが消えたおかげか?」

「はい。お父さん達が小さかった頃は、貧しくて大変だったそうです。縄張り争いも激しくて。でもアースドラゴンの消滅と入れ替わりに人間達がやって来ました。そして彼らと交流し始めると訪れる人が段々増えて、家の建て方を教えてくれたり、道具も売ってくれたそうです。人間との交流はマダラ村長の英断だったのですが、仲良くしてみると良いもんだと皆からは好評です」


「なぜこの場所に?」

「やはりトリュフが多く採れるからですね。あれで手に入る物が格段に増えましたから」


「それは良かった。他には?」

「ダンジョン問題ですかね」

「ダンジョン問題?」


 要約すると、地殻変動が激しくなったのか最近この辺りでダンジョンが増えたらしい。ある日突然、ぽっかりと黒い穴が開くそうだ。入口から中の様子は見えない。何匹か入ってみると内部は不思議な石が多く、川や池があるダンジョンも確認されている、とシューミは言った。


「人間の冒険者達が、宝物があるって入って行くらしいの」

「宝物? どんなものだ?」

「色々。古代の剣だったり、魔力が封じ込められた魔道具だったり、貴重な魔法石だったり」


「フィカは、そのへんの事情を知ってるのか?」

「捜索隊は民間人だけが対象だ。冒険者達は自己責任の活動だから詳しくは知らないな」

「そうだな、オレもあの頃はそうだった」


「そろそろ時間ですね」

「ああ。マダラ村長の所に報告しに行くか。やっと帰れるな」

「海に行くんだニャ!」

「あら、そうなの? 良いなあ。わたし、本でしか見たことないの」

「仕方ないよ、僕達はここでしか生きられないから。では行きましょう」


 その時だった。

 ブーー ブゥウウーー!!! とけたたましい音が、村中に鳴り響いた。


「なんだ、あれは?」

「まずいです! 早く行かないと!」


 シューミが一転して慌て始めた。


「だからなんだ、あれは?」

「警戒警報です。モンスターが襲って来ました!」


 それを聞いて、3人も慌てて支度する。

 モナメも食器の片付けを手早くすると準備し始めた。


「すいません、私は負傷兵の介護があるから先に行きます」

「分かったよ、モナメ。ではキャフさん達は、村長の家に行きましょう。僕も戦闘服に着替えねばならない」

「分かった、行こう」


 モナメも支度を終え、5人は家の外に出た。


「さようなら」

「ええ」


 キャフ一行はモナメと別れ、シューミの案内で村長の家へと急いだ。


      *    *    *


 村長の屋敷に戻ると、戦闘服を着たオーク達がガシャガシャとせわしなく動き回っている。中央の部屋では、相変わらず村長がソファーにふんぞりかえって武人のオーク達に指示をしていた。顔に焦りはないが、既に豪華な甲冑に着替えている。防御力は万全のようだ。


「ブブヒ?」


 キャフ達が来たので、マダラ村長はシューミに話しかけた。


「『魔法の調整は上手くいったのか?』と聞いています」


「ああ」

「ブーブーヒ ブブ ブーブーブー」

「『では今からその成果を見せてもらおう。戦闘が始まるから、モナメに回復系の魔法を使わせる』と仰っています」


「ああ、大丈夫だろう。既に彼女は前線に行った。オレたちも助太刀するか?」

「ブーブブー」

「『じゃあ、頼む』だそうです」


「分かった」

「私も着替えてくるので、お待ちください」


 そう言ってシューミが戦闘服に着替えに行った間、ラドルも魔導服に着替えた。魔導服の布地は少し防御力を上げる。シューミと3人は他の兵士達と一緒に、急いで現場に向かう。襲撃されているのは西側のようで、煙が上がっていた。防壁の上から矢を射るオークが数人いる。未だ内部には侵入されていないようだ。


「ブフブヒ?」

「ブーフフ! ブヒフ」

「『相手はゴブリン、十匹ほど』だそうです」


 シューミが兵士と話をして、通訳してくれる。


「あとすいませんが、ここからはわたしも戦闘に参加せねばなりません。状況に応じて対処願います」

「分かった」「そうだな」


 シューミはそう言い残すと、壁の方へと向かった。


「ラドル、これ。最大充石しているから、存分にやれ」


 キャフは畜魔石(チャージ・ストーン)を、ラドルのステッキにはめ込んだ。


「ありがとニャ」

「じゃあラドル、行くぞ」


 そう言い残し、フィカとラドルも前線へと向かった。フィカは他のオーク達と一緒に壁の外に出るようだ。ラドルは飛び道具だから後方支援らしく、壁に登っている。キャフは戦闘に参加できないので、迷惑にならない箇所で待機した。


 ゴブリン達は小柄だから、体格の良いオーク達の方が有利だ。

 一対一であれ、オークの方が勝つだろう。


(何で、襲いかかって来たんだろう……)


 キャフは疑問に思った。それだけゴブリンの生活が厳しいのかもしれない。だがモンスター同士の争いなんて、昔は無かった。時代の変遷を感じるキャフであった。


 そんなときだ。


 メリメリメリ! ドシーン!


 森の木々が打ち倒される音と、何かが機械的に歩く音が響く。

 音の具合から、かなり重い物体のようである。聞いたことのない音だ。


(何だ?)


 ブヒ? ブヒヒ??


 オーク達も不思議そうに、顔を見合わせている。

 そしてその音が段々と近づくにつれ、正体が判明した。


(あれは!)


 そこに現れたのは、異形の巨大な動く石像(ゴーレム)であった。

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