第129話 モジャール城
前回のあらすじ
いやあ、やっぱり想い出の人とそっくりな人に頼まれると、嫌とは言えないよな…… へへ。
「ここが、そのモジャール城か」
キャフが地図を手にしながら、ジョセフィンに聞いた。
「そうです」
ジョセフィンはうなずく。
彼女の案内で連れてこられたのは、草原の中に建てられた城壁で囲まれた城であった。レンガで隙間なく積まれた壁は高さも十メートル以上、霧のせいもあって端が見えないほど長い。塔みたいな壁より高い建物は見えず、内部の様子は窺い知れない。
ここまでの道中は相変わらずの霧で、ジョセフィンだけが頼りだ。
元の村に戻れと言われても、キャフ達は無理だろう。
だが幸運なことに、モンスターには遭遇せずに済んでいる。
このモジャール城が、モジャナ一帯をまとめる一番大きい城郭都市だ。キャフがもらった軍の地図には『第七師団モジャナ司令部が常駐』と書き込まれている。
本来ならここで現在の状況を聞き、指令を仰ぐべき場所である。だが既にモンスターに占領されたとなると、事態は相当逼迫していると見てよい。
城門に近づくと、見張りのゴブリン兵がすやすやと寝ていた。無用心であるが城門は閉ざされており、これでも大丈夫なようだ。
「油断しているんですよ。鍵を取ってください」
ジョセフィンに促され、キャフが寝ているゴブリン兵の腰にかけられた鍵をそっと外す。閉ざされた城門の鍵穴に入れると、ギイィイーーっと軋んだ音を立てながら門が開く。ゴブリン兵が起きやしないかと冷や冷やしたが、大丈夫であった。
足音を立てないように慎重に進む。ここはメインの大通りではないらしく、道幅は狭い路地が続いていた。裏口なのだろう。城の中も霧に包まれており、視界が悪く先が見えない。
「あ、出た!」
ミリナの小さな叫び声に反応し一同がその先を見ると、確かにゴブリンがいた。だが何か様子がおかしい。
……zz
「立ったまま寝てる?」
「どうもそのようだ。戦闘しなくて済むのは助かるな。起こさないように通れ」
「分かったニャ」
理由は不明であるものの、他のモンスターも同様であった。トロールや灰色狼、その他城内にいるありとあらゆるモンスター達が、皆寝たようにボーッとしていた。多少の音にも気付かないようだ。
「催眠術か?」
「そうかも知れませんね」
事情は不明ながらもジョセフィンに従い、彼女の夫の居場所を探した。内部は行き止まりも多く予想以上に迷宮となっており、何度も引き返す。ジョセフィンも訪れた回数は少なく、正確には知らないらしい。
袋小路で行き止まったり、ごく細い道が隠されていたり。
キャフ達が予測していたよりも、かなりの時間がかかった。
* * *
「もしかして、ここ?」
かなり奥まで彷徨って行くと、沢山の鳥居が乱雑に立つ一角があった。その中に人間が縛られて横倒しになって、呻いている。
「あなた!」
ジョセフィンは鳥居を避けながらその人物に駆け寄り、縄を解いた。
「ジョセフィン!」
「良かった〜」
2人は感極まって抱き合い、再会を喜びあう。
キャフ達も、彼女達の側にやってきた。
これからどうするか、聞く必要がある。
その時だった。
「誰だ!」
一匹のゴブリンが声を荒らげながら、こちらに近づいてきた。
「まずい!」
キャフがそう思った時、マドレーが剣を抜き、構えて剣を振りかざした。
ギャァアア!!
「え?」
「おい?」
だがマドレーが切りつけた相手は、ゴブリンではなくジョセフィンであった。服が血の色で染まった彼女は、その場に膝を折って倒れ込む。




