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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第九章 魔導師キャフ、第七師団の中隊長になる
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第125話 難民達

前回のあらすじ


兵士達も集まり、やっと出発。

 キャフ率いる第五中隊はエミュゼ通りを進み、旧道方面の東側へ向かう。

 各自が重い荷物を背負っての徒歩移動だ。イデュワを出るにも時間がかかる。


 戦争とは無縁の道ゆく人々は、季節外れのハロウィンパレードを見ているような顔をして見送っていた。遭遇した子供達が喜んで歓声をあげるぐらいだ。少し前にあった最初の出征時に散々応援したから、もう興味が薄れたのかも知れない。隕石攻撃からの復興で手一杯であり、それどころじゃない人達も多い。


 キャフとマドレーは先頭で馬に乗っているので、声をかけられる度に隊を代表して挨拶する。やがて途中にある分かれ道から、旧道を離れて北に続く道へと向かった。


 キャフとマドレーに続く隊列は魔法部隊で、次が歩兵部隊だ。

 最後に備蓄品などを詰め込んだフィカが操る貨物馬車を、弓兵部隊が取り囲む形で行軍している。


 小隊長は、魔法部隊はミリナ、歩兵部隊がケニダで弓兵部隊がフィカに決めた。

 昨日の実技で思い知ったせいか、誰も異論はなかった。ケニダも人望があるらしい。


「キャフ師の家ともしばらくお別れですね」

「いつ迄かニャ?」

「三ヶ月か半年ですかね?」


 疲労をため込まないためにも、ゆっくり一定の速度で進んでいく。


「あ、そうだ。マドレー、これ付けておいてくれ」


 キャフは、通魔石(コミュ・ストーン)のブレスレットをマドレーに投げ渡した。

 マドレーは受け取ると不思議そうに見る。


「何ですか? これ?」

通魔石(コミュ・ストーン)と言って、ミリナの村で採れた石を使った通信装置だ。身につけると、お互いの魔素を介して会話が出来る。腕にでも付けておいてくれ」


 キャフの指示通りに付けると、『どうですか?』とミリナの声が聞こえた。


『わ、本当だ! 面白いですね』

『これがあれば、戦闘時にも遠隔で会話できるんだ』

『便利ですね。これ、もっとあるんですか?』

『兵隊さん全員には渡せないけど、予備はありますよ』

『ちょっと実験したいから、分けて下さい』

『はい』


 とても興味を惹いたらしく、マドレーは時折腕につけた通魔石を見ている。


 やがて道は山道となった。整備されているので馬車も問題なく通れる。森を通った時ガサガサと音がするから緊張したが、ウサギや狐の家族達だった。


「何でこの辺は普通の動物なのに、モンスターになると凶暴化するんですかね?」


 誰に言うともなく、マドレーが呟いた。


「魔法石が入ってるからだろ」

「そもそも魔法石って、何ですかね?」

「さあな」


 キャフも、マドレーの問いには答えられない。

 冒険慣れしているので、その疑問を持った時期もある。

 グラファや冒険者仲間に問いただした事もあった。

 だが誰の答えも、「知らない」である。


 生命の営みを完全に解明できないように、世の中に存在するものを理解し尽くすのは難しいのだと、年をとってキャフは割り切るようにした。


「着いたな。今日はここに泊まる」


 日も沈みかけたころ、予定通りの駐屯地に到着し宿泊する。


「今日は風呂もあるけど明日からは野宿だからな。存分に入っとけ」


 キャフの解散の命で、それぞれ部屋に行く。五人一部屋なので布団を敷いた後、風呂へ行ったり、食堂で夕食をとったりする。娯楽設備もあり、ダーツで遊ぶもの、魔法ゲームをするもの、酒を飲むものと様々だ。部屋はできるだけ知り合いを減らし、コミュニケーションを深めるようにさせた。


 キャフは、駐屯地代表のグート大佐の部屋に挨拶に赴く。

 ノックすると「入れ」との声がしたので、入室した。


「キャフ大尉です。本日はありがとうございます」

「ああ」 


 顔を合わせようもせず書類仕事をするグート大佐は、素っ気無い態度だ。

 キャフの噂を聞いて、面白く思ってないのかも知れない。


「戦線の状況はいかがでしょうか」

「昨日今日では何も変わらん。お前は命令通り明日の朝出発すれば良い」

「は、ありがとうございます」


 あまり話をしたくなさそうなので、直ぐに部屋を出た。


 隊長は個室をあてがわれたので、1人でのんびりする。

 個室に風呂もあるし食事も持って来てくれるなど、至れり尽くせりだ。


 夜もまだ早い。魔法杖の術式をバージョンアップしていたら、通魔石電話から声がした。


『キャフ殿、今良いですか?』


 ルーラ女王だ。


『おお、女王陛下。大丈夫です』

『ルーラで結構ですよ』


 笑っているような口調だ。


『じゃあ、オレもキャフ殿じゃなくて、キャフで良い』

『そうですね。じゃあ、キャフ、さん、そちらの様子はどうですか?』

『万事予定通りだ。もっとも、後二日はかかりそうだがな』

『それは良かったです。レスタノイア城も人が減って寂しくなりました』


 さっきとは変わって、少し静かな口調になる。

 またお茶会に誘いたそうな口ぶりだが、さすがにそれは我慢しているようだ。


『仕方ないだろうな』

『いつ頃、帰れますか?』

『任務としては三ヶ月とか言ってたが、どうなるかな』

『長いですね…… とにかく無事で帰って来て下さい』

『分かったよ』


 しばらく雑談をしたのち、通魔石電話は切れた。



 特に問題なく一晩を過ごし、夜明けと共に行軍を開始する。


 しばらく行くと、ボロきれ同然の服を纏った農民達が向こうからやって来た。家族連れで、年寄りも杖をつきながら同伴している。赤ん坊を含め子供も5人いた。


「難民ですね」


 マドレー中尉が言う。


「どうやらそのようだな」


 キャフは一時停止を命令し、馬から下りてその農民に話しかけた。


「どうした? モジャナから来たのか?」

「ああ、そんだ」

「向こうの様子は、どうだ?」

「どうも何も、無茶苦茶だ。城壁の周りにはでっかいモンスターが沢山来て、中の人は逃げられねえんだ。俺っちは町外れの山ん中だから、それを見て慌てて逃げて来たところよ」


 訛りがひどくて所々聞きづらかったが、やはりモジャナの状況は厳しいようだ。


「そうか。食糧や金は持って来たか?」

「いや、なんせ急なことで、丸一日ろくなもん食べてねえ」

「じゃあ、これ持ってけ。イデュワでの足しにしろ」


 そう言うと、キャフは農民に食糧と金貨二ガルデと銀貨五百シルボを渡した。

 一ガルデが千シルボで、日本円なら大体五百シルボが五千円、つまり二万五千円に相当する。


「ありがとよ」


 その農民家族は何度も礼を言い、イデュワへと向かって行った。


「こりゃ、大変だな」


「バカ……ではないですね。普通の軍ならやりませんけど」

「オレの幼馴染でも農民はいたし、状況次第ではオレがああなってもおかしくない。同じ国民だ。できるだけ今後の暮らしもうまくいって欲しい」

「分かりました。命令に従います」


 キャフの予想通り、向こうから来る難民は増え続けた。重傷者もいる。逃げられただけ幸運かもしれない。キャフは難民を極力助けるように指示し、ミリナ達の回復魔法も使わせ、食糧と多少の賃金を与えた。



「じゃあ、今日はここに宿泊する」


 難民の手当てにかなり時間を割かれたが、予定通りの野営地に到着する。

 ここも既に前の部隊が立ち寄った所で、開かれた場所だ。テントを作り夕飯を作る。敵に備え弓兵、歩兵、魔法使いが三人で一チームとなり、夜を徹して交替で警備に努めた。


『ああ、ルーラか? 今大丈夫か?』

『はい、良いですよ、キャフさん 何かあったのですか?』


 キャフの方から連絡をしたので、ルーラ女王は嬉しそうな口調だ。


『いやオレ達に問題はないのだが、難民が出ている。あてもなくイデュワの方へ向かっている』

『それは…… 至急、避難所を作らせます』


 即断だ。話が早くて助かる。


『ありがとう、頼むよ』

『いいえ。私にできることなら何でも言ってください』


 その後は眠りにつき、何事もなく夜が明ける。


 三日目。いよいよ戦場へと近づく。兵士達も緊張し始めてきたようだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] キャフ、さん。(……!) パカ……ではないですね。(……!!) こういう、言葉の揺れに表れるその人特有の心の揺れ、好きです。いいですね。 コミュストーンのおかげで遠距離気分も味わえ(違…
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