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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第九章 魔導師キャフ、第七師団の中隊長になる
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第124話 モジャナへ出発

前回のあらすじ


異世界も、闇は深いらしい。

 翌朝、キャフ率いる第七師団付第五大隊所属第五中隊の面々が昨日と同じ練兵場に集合した。ここは、《三羽の白鳥》南側のエミュゼ通り沿いに位置する。


 既に戦争状態なので、多くの隊は既に戦地へ赴いている。ダナン総司令官が主催だった派手な出陣式は既に終え、キャフ達のは簡素だ。


 支給品の軍服も足りず自前の格好で来た兵士達も多く、統一性がない。

 でも非常事態であり、贅沢は言えない。


「フィカさんの甲冑、今までと違いますね」

「馬を使えないからな。防御力よりも軽くて着やすいのにした」

「すまんな。最後尾で貨物馬車を担当してもらえるか?」

「ああ、分かった。お前の使っていた弓も持って来たけど使っていいか?」

「もちろんだ」


「フィカ!」

「兄者!」


 フィカは兄ケニダの声で直ぐに振り返り、キャフ達を離れて駆け寄って行った。

 相変わらず仲睦まじい。話は尽きないようだ。


 キャフは寮に空き部屋もあるし兄を呼んで一緒に住めばと提案したが、断られた。兄の軍での立場を考えて、けじめはつけたいらしい。フィカ自身の入隊も踏ん切りがつかないと言う。


「よお、ミリナ、この前はよくもおっさんにタバコをばらそうとしたな?」


 キアナがやって来て、ヤンキーみたいに怖い顔でミリナに喧嘩を売りに来る。

 だがミリナは全く動じていない。代わりに魔導服からタバコを取り出した。


「良いじゃないですか。ちゃんと持って来ましたよ」

「お、気が効くなあ。しかも好み分かってんな。助かったぜ!」


 すぐに買収されてご機嫌のキアナである。ラドルも加わり、楽しそうに話をし始めた。周りの兵士達もまだ出陣式前だから騒がしい。これから死地に向かおうと言うのにこの緊張感のなさは、まるで旅行に行くようだ。


「それで、道筋と目的地の指令は受けたんですか?」


 マドレーがキャフに聞く。マドレーは自前の軍服を着ているが、ピンクや黄色を基調とした遠くからでも目立つ派手な柄で、真っ先に敵の標的になりそうだ。鎧は重いから着たくないらしい。


「ああ、さっきナゴタ少将から聞いた。やっぱりモジャナだ。しかも山道を通って行けだとよ」

「地図を見せてください」


 マドレーに言われ、キャフは魔導服の中から地図を取り出して広げた。

 幾つか書き込みがしてある。


「このスミノ丘が目的地ですか。小さいですね。占領しろって訳ですか?」

「既に前任の隊が占拠済みで、交替でオレ達が引き受けるらしい」


「確かにここを抑えれば、遠隔攻撃が楽です。この道を通るから徒歩三日ですかね。食糧の確保は?」

「もちろん、三週間分ある。ナゴタ少将に頼み込んで多めに貰ったよ」

「補給地も少ないし、目的地に暫く滞在ですからね。当然でしょう。戦線の状況は?」


「主要部隊は、もっと先にいるらしい。期待されてないんだろうな。山道から最短は、数キロ離れた場所のこの赤線部分だ。予定通りなら戦火を交えず行ける」

「今の状態なら、ですね。この情報自体、何日前のか分からないじゃないですか。それに、あと三日で幾らでも変わりますよ」


「そうだな。こんなの予定通りになる訳がない。あ、忘れてた、お前これつけろって言われたんだ」

「? 中尉のバッジですか?」

「昇進らしい。副隊長として地位が釣り合わんからだと」

「ふーん」


 受け取って付けたが、マドレーは興味なさそうだ。



「そろそろ時間です。ナゴタ少将が来られます」


 係の言葉に、キャフ達は整列を始めた。


 ケニダとキアナは歩兵部隊、フィカは弓兵部隊、ラドルとミリナが魔法部隊の列にいる。彼らと向かい合って、朝礼台と三本ある旗ポールのそばに厳かな顔をしてキャフとマドレーが立つ。やがてナゴタ少将がやって来た。普段とは違い厳粛な面持ちだ。


 華々しくファンファーレが吹かれ、楽隊による威勢のいい音楽が流れた。

 これを聞くと、誰もが勇士になれそうな高揚した気分になる。


 続いてアルジェオン国歌が流れ、皆が斉唱する。

 旗ポールにはアルジェオン国旗とアルジェオン軍旗、第七師団旗がゆっくりと掲げられた。


「それでは、ナゴタ第七師団長からのお言葉です」


 司会の言葉に続き、ナゴタ少将が壇上に上がった。

 兵士達も、先ほどよりは姿勢を正す。


「諸君! いまアルジェオンは、独立以来最大の危機の中におる」


 ナゴタ少将の言葉に、兵士達も身が引き締まった。


「ワシがもっと若かったら、最前線に立ちモンスターやクムール共をブチ破ってみせるのだが、如何せんもう歳だ。申し訳ない。代わりにお前達に国の命運を預けるが、宜しく頼む。くれぐれも無駄死にはするな」


「続いて、キャフ隊長から」


「よく来た。これから君達は、第七師団第五大隊第五中隊所属になる。オレは中隊長のキャフ大尉だ。こちらは副隊長のマドレー中尉。本日、昇進した」

「こんにちは。大体の人は昨日会ったと思うけど、宜しく」


 2人がお辞儀をすると、兵士達も思い思いに軽く礼をする。


「とうとう戦争が始まった。オレもナゴタ少将もヤバイぞと上申したが全く聞き入れられず、このザマだ。行く前に悪いが、もっと上がしっかりしていたら、お前らが戦地に駆り出されることも無かった。オレも気楽な生活を送れたんだ。恨むなら上を恨んでくれ」


 一同は動揺したのか、ザワザワとあちこちで何事か話をしている。

 キャフは構わず話を続けた。


「本当はオレもやりたくない。だが、やるからには誰かがやらねばならん。オレは、他人に自分の人生を預けるのが嫌いだ。今やらなきゃもっと酷くなる。だから済まないが、お前達も協力してくれ。集まって直ぐの出発だが、それなりの経験値があると踏んでオレ達が選んだ。自信を持って闘ってくれ」


 ウォー!!


 兵士達が、キャフの言葉に応えるように雄叫びをあげた。

 ここを志望した兵士達は、キャフの存在を知って入隊している。

 だから忠誠心は高い。


「ありがとう。後もう一つ。オレは冒険者として沢山のモンスターを倒して来た。最近の冒険でも訳あって人を殺さざるを得なかった。正直、気分が良いもんじゃない。相手も自分と同じで生きているからな」


 兵隊達は、静かになった。

 彼らの大部分は、まだその経験がない。


「体験すれば分かるが、割り切らないとやってられない。とにかくオレ達が生き残らないと、アルジェオンに未来は無い。大切な人達のためにも生き延びろ。本当にヤバかったら逃げても良い。オレが何とかする。とにかく命を粗末にするな」


 ウォー!!


 再び、雄叫びがあがる。

 内容はともかく、場を盛り上げたい兵士達がやってるようだ。


「では、出発!」


 あまり威勢がいいとは言えないキャフの声で出陣式は終わり、隊は出発した。

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