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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第九章 魔導師キャフ、第七師団の中隊長になる
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第123話 採用試験

前回のあらすじ


強引に、1人勧誘。

「バカなんですか? 公募で兵隊雇うなんて。こんなの普通しませんよ!」


 あれから二日後、キャフに呼び出されてキャフ邸宅まで来たマドレーは、呆れかえっていた。


「予備役の兵士や志願兵もいるからな。できるだけ納得できる人選をしたいんだ。ただオレにはどんな奴が良いのか今いち分かってない。明日中に編成を決めろと指令が来たから、手伝ってくれ」


 あの3人も一緒だ。履歴書が積まれた山をみんなで手分けして読んで、あーでもないこーでもないと話し合っている。


 見ていると、面接対象にしたい兵士の履歴書とそうじゃない方の履歴書を入れる箱を分けて入れている。だが一度誰かが決めて入れた履歴書を見直して、反対の箱に入れたりしている。これじゃ効率が悪すぎて、時間が幾らあっても足りない。マドレーは、今から始まる書類仕事にうんざりしそうになった。



 あの後珍しく熱心に勧誘するキャフに根負けして、マドレーは副隊長にさせられる。ナゴタ少将も同席しているし、なし崩しに決められたも同然だ。


 ナゴタ少将は「こいつは軍を知らないから、副隊長は大事な役目だ。お前にとっても丁度いいだろう」と豪快に笑い飛ばしていたが、兵士になるということは戦地に赴くわけで、そんなことは絶対したくないマドレーにとっては苦行でしかない。だが曲がりなりにも軍に所属している以上、上官からの命令は絶対だ。


 それは建前で、マドレーは今まで上官の命令を平気で拒否したこともある。だから今回も拒否をしようかと言いかけた。でもキャフとその3人に他の人間には無い何かを感じ、魅かれたのも事実であった。他人に興味を持つなんて、マドレーにとっては珍しい感情かも知れない。


 キャフ達が言うように、今は非常事態、国難である。のんびり世捨て人のような生活を続けられる保証もない。マドレーにも一端の愛国心はあった。アルジェオンを救うため、この見た目はパッとしない魔導師を助けることが最適だと感じたのだ。



「で、履歴書読んでんだけど、この【魔法使いになろうポイント】とか【剣士になろうポイント】、て何だ? 『1000pt超えました!』とか『支持者100人超えで、底辺脱出してます!』とか、やたらと強調してんだけど」


 履歴書をじっと見ながら、キャフがマドレーに聞いた。


「ああ、軍学校や王立魔法学校の身内でやってるコンテストですよ。魔術や剣術を披露して、対外的な評価をポイントとして数値化してるんです。良家の子女だったら初期値で数百ポイントもらえたり、友達と相互で支持しあったり、魔術で複数アカウント作ったりして簡単にポイント稼ぎできるから、色々問題あるんですけどね。ポイント上位の生徒は、配属が希望通りになりやすくなります」

「? お金で買えるのか? 友達の数で増やせる? そんなイカサマをやってどうすんだ?」


 エリート街道と無縁なキャフは、本当に知らなかった。

 彼自身は、山奥で大聖人グラファの薫陶を受けている。

 だからこのような行為を、見知る機会が無かったのだ。

 履歴書を凝視するキャフの姿は、混乱しているようである。


「バカなんですか? 就職に有利なんですよ。こうやって履歴書に書けるじゃないですか」

「でも本当の実力じゃないんだろ?」


 フィカが聞き返す。


「いえ、今言ったのは誇張で、上位の中には本当に実力のある人もいますよ。そもそも他人を評価するって、難しいじゃないですか? 数値化した方が選んだ時に責任を持たなくて済むから、安心できるんですよ。幾ら根拠が薄弱でも、数値化すれば分かった気になれますから」


「じゃあマドレーさんはどれくらいだったニャ?」

「僕は成績が全部満点だったので、やっても意味なかったです」

「どこにでも、イキりはいるんですね〜」


 ミリナの言葉をスルーして、マドレーも履歴書を一緒に読み始める。


「どんな構成を考えているんですか?」

「小隊三つで、魔法部隊と歩兵、弓兵部隊あたりを考えている」

「任務は?」

「まだ正式な赴任地は知らされてないんだ。おそらくモジャナと思うが」

「まあ、そうでしょうね」


「君は行ったことあるかい?」

「いえ、行ったことはないです。でも地図を見る限りあの辺は小さな川しかないし、砦や街も小規模ですね。地形としては平地が少なく、小高い丘が連なってます。遠隔攻撃には最適かも知れません」

「博識だな。それよりモンスター生息域での戦闘経験者、思ったより少ないな」

「最近はあまり行かないですね。わざわざ行かなくてもお金を稼げるようになりましたから」


 そこからも何時間もかけて選抜していく。

 かなり時間がかかったが、五百枚ほどの履歴書から半分ほどに絞り込んだ。


「じゃあ、明日の午前に面接するか」


 キャフはシーマを呼び出し、選抜者の名簿を軍に渡すようお願いした。



 翌日は軍の練兵場に向かい、面接をする。志望動機、入隊後どうしたいか、将来の夢。多くの兵士達が淀みなくはっきりとした口調で答える。椅子の座り方、言葉遣いも完璧だ。『アルジェオンのため』は当然として、予め質問を想定していたのか、どの兵士も素晴らしい充実した人生を送ってきたかのように聞こえる。兵士達は十代の若者もいれば五十代もいた。


「何だか、味気ない回答ばっかりだな」

「選ぶ側としては、もっとイキりが欲しいですよね。『俺が来たらもう安心! 総て任せろ!』みたいな」

「いや、それまずいだろ」


「じゃあ実技試験をさせたらどうですか?」


 マドレーが提案した。


 キャフも同意して、外に出て実技に移る。ミリナとラドルは魔法、フィカが剣技と弓術を担当する。キャフとマドレーは、それぞれの様子を別な視点から眺めていた。


「お前ら、相手が女だと思わず遠慮なくやってくれ」


 キャフが兵士達にそう言うものの、始め男性陣はやや気が引けつつ彼女達に向かって行った。だが想像を絶する修羅場をくぐり抜けて来た3人にとって、もう彼らは敵ですら無い。


 屈強な男達が次々と3人に倒されるうちに、兵士達も彼女達が本物であると気づいたらしい。男女問わず真剣な目つきで3人にそれぞれ挑んでいった。だが、かすり傷すら付けることができない。


「やっぱり、実戦向きじゃないな」

「バカなんですか? 本当の戦地に行ってないんだからこんなもんですよ。戦闘で人を殺してたら剣の重みが違います。それより、あの3人は何でこんなに出来るんですか?」

「あいつらとは、モンスター生息域に行って、Aランクのモンスターをあらかた倒して来たからな」

「本当ですか! それなら兵士達は敵いませんよ。第七師団の兵士だって、モンスターを倒す時はいつも5人でチームを組みますから」


「まあ、そうか。で、どうだい? 見込めそうなのはいるか?」

「何人かは。合格者はどの程度を考えているのですか?」

「第七師団から10人ずつ回してもらえるって話だから、20人前後かな」

「じゃあ、終わった後、5人で採点していきましょう。


 こうして実技も終わり5人で一時間ほど相談し、採用兵士が決まっていく。

 採用を決めた兵士には、明日の朝此処に集合と伝えて解散となる。



 夜も遅くなった頃、キャフの部屋はまだ明かりが点いていた。

 3人が気になって部屋に入ってくる。


「師匠、何やってるニャ?」

「ああ、不合格だった兵士達に、理由を添えて手紙を出そうと思ってな。『あなたの能力は悪くないけど、今回は相対評価で別の人を採用しました』みたいな言葉が嫌だから、それぞれどの点が改善できるか書いているんだ。彼らも別な部隊で活躍して欲しいからな」

「相変わらず律儀だニャ」

「まあ、性格だな」


 こうして夜中まで、キャフは手紙を書いていた。

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