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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第九章 魔導師キャフ、第七師団の中隊長になる
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第122話 マドレー少尉の研究

前回のあらすじ


キャフよりも、変わり者がいるらしい。

 4人は、部屋の中にある機械をあちこち見て回り始めた。

 マドレーも求めに応じて説明するために、彼らの後に続く。


「これは?」

「『冷蔵庫』です。魔法石を使って内部の熱を外部に逃すことで、氷が無くても低温に保てます」


 それは縦長の箱で、手前が開くようになっていた。周りは少し熱がある。ラドルが開けて中に手を入れてみると、直ぐに手を引っ込めた。


「すごいニャ! ほんとに冷たいニャ!」

「夏場なら、食糧を輸送するのに使えるな」

「そうなんです! 上司に掛け合っても、『食料は現地調達だから意味がない』と言われましたけどね。新鮮な魚とか、もっと食べられますよ!」


 マドレーは、我が意を得たりと言う顔をして喜ぶ。自分の意図を瞬時に理解してくれる人に初めて出会った。まだ発明品はある。自分を売り込む気はないが、作った作品の話はしたい。


「こっちは?」


 何か細い棒切れを見つけて、キャフは聞いた。


「そうですね。じゃあこれ持って、誰か歌ってみますか?」

「私やるニャ!」

「あ、よせ!」


 ナゴタとマドレー以外はそう思ったが、既に遅かった。


 ほんげぇえ〜〜〜〜!!


 耳をつんざく不快な撃音が部屋に充満し、モンスターのように皆に襲いかかった。マドレーも失神しそうになる。


「きゃーー!」

「うわぁ!」

「取り上げろ!」


 耳を塞ぎながら、ミリナが棒切れを奪った。一同怪音にやられ、頭痛や目まいが残る。


「な、なんだ、これは?」

「すいません。『スピーカー』と言って、声や音を魔法石で増幅させる装置です」

「へえ〜」

「けれど、ここまでの音を出したのは初めてですよ」

「いや〜 それほどでもないニャ。照れるニャ」

「おい、褒められてんじゃねえぞ。勘違いするな」

「はニャ?」


 今の用途は間違っていたが、面白い装置ではある。一同感心して順番に使ってみた。普段聞くよりも声の調子が微妙に変わり、新鮮だ。


「これなんか、どうですか?」


 次にマドレーが見せたのは、何の変哲もないメイド服を着た身長80センチほどの人形だった。少し離れたところに四角い箱があり、中に茶碗が置かれている。マドレーはボタンを一つ押すと、途端に人形が茶碗のある場所に向けて動き始めた。茶碗にはお茶が注がれている。


「動いたニャ!」

「面白いな」

「関節の動きが滑らかですね」

「魔法なのか?」

「魔法石も入れてます。キャフさんの発表した畜魔石(チャージ・ストーン)の原理を応用したんですよ」

「へえ」


 自分の発明品が応用されていることに、キャフは喜ぶ。


 4人が感想を言い合っている間にその人形は両手をかざし茶碗を受け取ると、再び元の位置まで動く。マドレーはそれを受け取って、お茶を飲んだ。


「こうすれば、召使いがいなくてもお茶を飲めるって訳です。これも『召使いの仕事を奪う気か!』と怒られましたけどね。皆さんもどうぞ」


 再びボタンを押すと、人形が動き始める。先ほどの茶碗の位置には新しい茶碗がお茶を注がれて置かれていた。順々に五人分が注がれやってくる。多少動作は遅いがそれも愛嬌だ。


「あの、お茶が出てくる箱は?」

「ええ、お湯を熱いまま維持できるようにした『保温機』です」

「美味しいニャ!」


 猫舌のラドルでも飲める熱さだ。


「本当に、兵器とは関係ないんだな」


 キャフは他の機械を眺めながら言った。


「僕は、人殺しが嫌いですから。軍だって、平和憲法があるから入ったんです」


「でも、もうそんな悠長なことは言ってられないですよ」

「まあ、そうですね……」


 ミリナの指摘に、珍しく反論できないマドレーである。


「他には?」


「まだ設計段階ですけど、これは『飛行機』の設計図です。魔法使いじゃなくても、誰でも空が飛べるようになる機械です。試作すらまだ出来てませんけどね」


 マドレーは作業台に丸まっている紙を広げ、皆に見せる。


「へぇー 面白い形してるニャ!」

「本当に飛べるのか?」

「流体力学の応用で空気の流れが翼の上下で反発し合うように調節しているから、出来る筈です」


「こっちは標本ですか。珍しい生き物が沢山ありますね。そう言えば、キャフ師、あれ持って来ました?」

「ん? ああ、そうだった」


 キャフは魔導服の内ポケットから、ごそごそと何かを取り出した。

 アトンの戦いでモンスターの頭から見つけた、不思議な物だ。


「これ、何だか分かるかい?」

「どれどれ。ああ、新大陸に生息する寄生虫ドゴラムに似てますね。脳神経系に入り込み宿主を乗っ取るので有名です。これ、一部壊れてますが?」


「蓄魔石があって魔法を発動させていたから、切ったんだ」

「そうですか、確かに術式も組み込まれていますね。これだと、脳に取り憑いて術式作動させるのも可能なのかな?」


 マドレーはひと目で理解した。


「すごい! 簡単に分かるんですか? 私達、百科事典使ってもダメだったのに」

「あれは掲載されているのが限られていますから」

「それにしても凄いな」


 知識量が無茶苦茶に豊富で、キャフも感嘆する。


「まあ、こんなもんですかね」


 マドレーは一通り見せ終えて、自分の席にもどる。

 近くにある椅子を持って来て、5人もマドレーを囲むように座った。


「今日はありがとう」


 キャフが、マドレーに礼を言った。


「いえいえ。何かお眼鏡に叶う物はありましたか?」

「戦場に持っていくには未だだろうけどな。覚えておくよ。ちなみに君は、どうやればクムールに勝てると思うかい?」


「バカなんですか? 古今東西、戦争に勝つのは兵器じゃありません。『国民全員がどれだけ、本気で勝ちたいか』です。上っ面の服従で無理矢理戦わされても勝てるはずありませんよ」


 その言葉にキャフは考え込んだ。やがて決心したように、口を開く。


「お前、オレの部隊に来てくれないか?」

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