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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第九章 魔導師キャフ、第七師団の中隊長になる
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第121話 マドレー少尉、登場

前回のあらすじ


何だかゴチャゴチャしてるけど、キャフは第七師団の中隊長となった。

 偏屈者は、どこにでもいる。


 ⦅三羽の白鳥⦆の北部にある軍総合研究所、第五研究室付き研究員であるマドレー少尉の朝は遅い。トレードマークのとんがり帽子を被って出勤するのは、定時の9時から一時間ほど遅れてである。


 上司も小言を言うがいつもの事で、どこ吹く風の馬耳東風、指定席の窓際ぼっち机に座る。そもそも、彼には喫緊の役割も与えられていない。だから上司も、彼に小言を言うのが仕事の一つになっていた。


 しかも机に座ってからが長く、本格的な仕事に取り掛かるのは二時間後。昼食後だ。


 軍の研究所なので、兵器開発や軍事戦略の研究等を主な目的にしている。実際()()()はそうである。だが彼に関しては日々何かをしているものの、それが何かは誰も理解できなかった。


 上司も彼の説明を聞いてそれが何の役に立つのか、本当のところ良く分かってない。だが管理不行届で評価が減点になるのを恐れ、歴代の上司は彼に何も言わないのが常態化していた。


 因みにとんがり帽子を被っているけれど、魔法使いではない(もっとも、なれるぐらいの素質はある)。これを本人はお洒落と思っているが、原色の派手な模様の柄物に柄物を合わせた上下といい、その格好はどこか世間の流行りとずれている。顔立ちは良いものの髪の毛も適当に短くしてもらってるだけで、見かけに無頓着な性格だ。


 これでも軍学校での成績はダントツの一位で、創立以来の大天才ともてはやされていた。入学試験も特に勉強せずにトップ合格。世の中には時々こんな天才がいる。卒業式で金時計を与えた当時のワーゴルー大将も、特別に目をかけていた。


 だからマドレーが出世街道と無縁なここを選んだとき、先生達は驚いた。本人曰く、『どうせ何やってもつまんないし、ここなら転勤もないし、定年制だから』だそうだ。


 ちなみに軍学校も同じ地域にあり、彼の家からは徒歩圏内である。特段マザコンでもファザコンでもシスコンでもないが、単に生活リズムを崩されるのが嫌らしい。成人してもお酒の席は断り、夜の九時には就寝する毎日である。


 彼の変わった性格とファッションセンスは、軍学校時代から有名だった。そのため古くから彼を知る人物達は、彼の進路に概ね納得している。彼自身の中では至って合理的な思考と行動なのだが、周りから変人扱いされるのにも慣れていた。ただ女の子っぽいマドレーという名前をからかわれるのだけは非常に嫌がり、本気で怒ることもあった。


 普段から『バカなんですか?』が口癖。上司だろうが誰だろうがグーの音も出ないほど理路整然とやり込め、黙らせてしまう。しかも彼自身は全く悪気のない発言で、それが余計相手を苛立たせるのであった。


 初めは研究所の所長も期待していたものの、彼の本性があらわになるにつれて疎んじられ、閑職へと追いやられたのが今の姿だ。ただ本人はこうなっても気にする風はない。元々こうなることを望んでいたのかもしれない。


      *    *    *


 本来なら今日も普段通りのんびりした朝を過ごす筈、であった。

 だがそうもいかない事情ができた。昨日、上司から『ナゴタ少将、明日視察に来たり。準備せよ』と連絡を受けている。


 マドレーは、ナゴタ少将と顔見知りである。もっとも年に一回ある研究成果発表会の時、『何だか面白い奴』と彼から一方的な評価を受けただけだが。ともかく来客があるならそれなりの用意をするぐらいの常識は、彼にもあった。


「おう、マドレー、いるか?」


 マドレーが書類を片付けている中、バタンと勢いよく扉を開けてナゴタ少将がやって来た。豪快な笑いも変わらない。そして彼の後ろには、中年男性と若い女の子3人がついて来ていた。


 物珍しそうにキョロキョロとあたりの機械を見ている。男性と女の子2人は魔法使いらしい。もう1人は腰にさげられた剣を見る限り騎士のようだ。


「あ、触らないでくださいよ!」


 思わずマドレーは声をかけた。


「す、すいませんニャ!」


 猫獣人の女の子は、さっと機械から離れる。


「研究所に興味がある奴がいてな、こっちに来たんじゃ」

「バカなんですか? ここに興味を持つなんて」

「まあ、そう言うな」


 ナゴタ少将は、マドレーから何を言われても気にする風はない。

 まるで、祖父が孫と遊んでいるかのようだ。


「こんにちは」


 仕方なくマドレーは、後ろにいる魔法使いらしき人物に挨拶をする。


「あ、始めまして。魔導師のキャフと言います」


 その魔導師は人見知りする性格なのか、年下のマドレーにもおどおどしながら返事をした。


「キャフさん? イデュワを救ったあの英雄ですか?」

「え、まあそうなるのかな」

「そうですか。その節はありがとうございます」

「いえいえ」


 キャフの名前を、マドレーは当然知っていた。この前の騒ぎの時は此処にいたから、直接見るのは初めてである、だがその飾らない物腰に、マドレーはいささか拍子抜けした。


 新聞はともかく現実を知る人に、キャフに感謝しない人はいない。あの魔法がなければ今頃イデュワは壊滅的な打撃を受けて占領され、皆は殺戮されるか奴隷になっていた筈だ。


 そんな国のピンチを救った有名人だ。てっきり自己顕示欲丸出しで偉そうにするタイプかと思いきや、こんな誰にでも丁寧な態度をとるとは予想外であった。後ろの3人も、キャフに対して友達のように気安く接している。


「それで英雄さんが、ここに何か用ですか?」

「いや、軍の兵器開発の状況を見学したいと思いまして」


 慣れない場所に来たこともあり、キャフは妙に丁重な言葉遣いをする。


「バカなんですか? ここでそんなの作ってる訳ないじゃないですか。新大陸で作られた兵器の後追いばっかりですよ。軍なんて予算取れればそれで終わりの、単なる利権集団なんですから」

「やっぱりそうなのか…… 他のところも目ぼしいのは無かったんだ」


(あれ? 普通ならキレてくるのに)


 侮辱されて怒ると思いきや逆にがっかりする態度に、マドレーは好奇心が湧いて来た。


「まあ、少しだけでも見せてやってくれ」


 ナゴタ少将が、マドレーに頼み込む。


「仕方ないですね。じゃあお見せします」


 そう言って、マドレーは自分の研究成果を見せることにした。

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