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第120話 仲間

前回のあらすじ


スタンド使い(悪い奴)スタンド使い(悪い奴)にひかれ合う。

「申し訳ありません、私の力が至らぬばかりに……」


 ここは、ルーラ女王の寝室。ダナン司令官が酒席でくだを巻いていた数日後の夜、キャフ達は女王に呼ばれて来ている。もちろん3人も一緒だ。お茶と菓子も当然用意されていた。


 部屋の様子は相変わらずだが、机には熊の藁人形が置かれている。


「いや、別にかまわんよ。どんな形であれ貢献するだけさ」


 今日使いの者が来て辞令が下され、キャフは中隊長になることが決まった。

 軍所属ではないが、緊急事態ということでキャフも受諾する。身分は大尉だ。


「しかし、中隊長か。所属も第七師団だし一番大変だな」

「そうだろう。最前線だ」


「キャフ殿の功績であれば、魔法部隊の司令官、最低でも補佐が相応しいのですが、ダナン総司令官に強硬な反対を受けまして。せめて作戦立案に関われる参謀本部付きにと推薦しましたが、それも却下されました……」


 ルーラ女王は、本当に申し訳なさそうな顔をしている。きっと、会議でかなりやりあったのだろう。その心だけでもキャフにとっては嬉しかった。3人も頑張ったルーラ女王を慰めていた。


「軍には軍のしきたりがある。仕方ないよ。最前線の方がやりやすいかもな」


「小隊長三つをたばねるわけだな、百数十人規模だ。軍学校出身者のポストを一つ渡すのだから、それでさえ軍からすれば特例だ。妥協できるギリギリの線だろう」


 兄が第七師団にいるからか、やはりフィカは内情に詳しい。


「そうだな。魔法を使えるとはいえ協会からの覚えはめでたくない。名誉なことだからな、ありがたく受けるよ」


 ガチガチに出来上がった組織は、様式美のように序列が固定されている。そこに割り込むのだから、妬みや嫉妬は当然だ。前途は多難だが、アルジェオンがこうなっている以上やるしかないと、覚悟するキャフであった。


「しかし、任命一つで三日もかかるとはな」

「流石、軍の事務。嫌がらせは一流だ」


 キャフは、苦笑いしていた。


 隕石で破壊された魔法協会の復興に、手間取っているのは理解できる。だが隣り合ったレスタノイア城と軍総司令部のやりとりで、こんなに時間がかかるのは非効率この上ない。


 本当に事情があったのか嫌がらせなのか分からないのが、官僚や事務系の怖いところだ。


「その間に戦線が広がっているのだから、世話ないな」

「すいません……」

「ルーラさんが謝ることじゃないニャ!」


 フィカの言うように、ここ数日でもクムール軍は着々と侵略域を広げていた。


 アトンとサローヌは持ちこたえているのもの、相手は中間地域のモジャナに戦力をつぎ込み始めた。サローヌ北部のモドナは相変わらず占領されており、第七師団の主力はそこで足止めを食らっている。そのため、手薄なモジャナを狙われたようだ。女王に入る報告は芳しいものではない。キャフの一件がなくても、元気のない様子が一目でわかる。


「しかし、国民には現実を見せないんだな」


 そう言ってキャフがルーラ女王に手渡したのは、イデュワ新聞だった。


 週二回ほど発行され、殆どの民が購読している。そこには『数百年ぶりの隕石雨! イデュワに被害』や、『アトン地域で囚人達が暴動! 立入禁止区域指定に』などの見出しが書かれている。


「嘘っぱちの記事ばかりですね。まるで戦中のどっかの国みたい」


 ミリナも呆れていた。


「すいません、新聞も軍関係者が発行しているので、王家は手出しできないのです」


 今日のルーラ女王は何度も謝るばかりで、気の毒に映る。


「あんたを責めてるわけじゃない。でも勝つためには、色々と改革が必要そうだな」

「そうですね」

「ま、とにかくこれから戦地に赴くから、あまり会えないかもな」

「それですが、先日サローヌの技師がやってきて、この部屋にも通魔石電話を取り付けました。ダナン達には内緒です」


 そう言うと、ローラ女王は机の引き出しから通魔石電話を取り出した。


「そうか、確かにあいつらには見つからない方がいいかもな」

「はい。これからも、相談させてください」

「私も、話したいニャ! あっちの様子を教えてあげるニャ!」

「もちろんですよ」


「おい、お前らも付いてくるつもりか?」

「はい!」

「頑張りますニャ!」

「そのつもりだったが」


 3人は当然のように答える。キャフは悩んでいた。確かに鍛えた分、戦力になる。だが下手をすると自分も含め、誰かが死ぬかもしれない。戦地に行かせるのは気が進まなかった。


「良いのか? 本当に死ぬかも知れないぞ?」

「死と隣り合わせなのは冒険も一緒だったろう。今更何を」

「……そうだな」


「きっと師匠なら、1人でも大丈夫だけどニャ!」

「そうですよ、『ここはオレに任せろ』とか言って、私達に楽させてください!」


「いや、そこまでやれるか分からんが」


 3人の決意は固いが、少しお気楽でもある。


      *    *    *


 翌日、城の隣にある参謀本部に向かう。

 軍とは無縁な生活をしてきたキャフは、初めて入る場所だ。


 他の二つと比べて過剰な装飾はなく、そっけない造りであった。

 受付で説明すると、小さな会議室に通された。

 部屋で数分待った後に扉が開き、軍人が1人、入ってくる。


「また会ったな!」


 それはナゴタ少将であった。半年ぐらい前から変わりない姿だ。


「あんた、モドナにいたんじゃないのか?」


 キャフは、意外な人物の登場に驚く。


「あの後お前らの件で上申書を書いたら、疎まれてこっちの閑職に飛ばされていたんじゃ。あの時に散々クムールがヤバイと書いたんだけどな。それにお前の裁判に嘆願書を書いたのも、まずかった」


 そう言いながらも、ナゴタ少将は笑っていた。


「すいませんでした」

「良いってことよ。そしたら見た通りこの騒ぎで、慌てて招集されたのじゃよ。あのダナンて奴は軍学校の二つ上の先輩だったが、いけ好かない奴でな。そんなもんだ。あ、懐かしい奴らもいるぞ。入ってこい」


 ナゴタ少将に呼ばれ、2人の軍人が入ってくる。


「キアナちゃんだニャ!」

「兄者!」


 それは冒険を共にしたキアナ少尉と、フィカの兄ケニダだった。


「こいつらも冷や飯食わされてたからな、話を聞いて招集したんだ」


「お久しぶりです!」

「お久しぶり、キアナちゃん! タバコは?」

「い、いえ! 自分はやらないのであります!」 


 ミリナの問いかけに、焦っているキアナである。


「兄者! 無事で良かった……」


 フィカは久しぶりの再会に、目を潤ませていた。


「元気でいたか?」

「うん」


 色々言いたいこともあるのだろうが、今は皆の手前、黙っている2人だ。


「幽霊砦に囚われていた兵士達も、今回キャフ大尉の部隊所属となります」


 ケニダが、キャフに説明する。


「細かいことはええ、わしが責任を取るからな。ハッハッハ」


 相変わらず、ナゴタ少将は豪快に笑う。


「すまんな、じいさん」


 彼らと再会し、俄然やる気が沸き起こるキャフであった。

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