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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第一章 魔導師キャフ、追放されて旅立つ
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第012話 オークの魔法工房

前回までのあらすじ


ヤバい! 捕まった!!

あ、イケメン豚のおかげで何とかなりそう。

「通訳ごくろう。おかげで助かった。今のは村長か?」

 

 魔法工房へ向かう道中、フィカが通訳に聞いた。

 オークにしては細身だが、それでも体格は良い。


「いえいえ、仕事ですから。はい、彼が村長でマダラ様です。一代で富を築き上げオークを豊かにした実力者です」 


 通訳は事も無げに言う。


「あんたの名前は?」


 キャフが尋ねる。


「あ、すいません、言い忘れてました。シューミです」

「そうか。自分はキャフ。彼女はフィカ、こっちはラドルだ」


「改めて、はじめまして皆さん」

「はじめまして」

「はじめましてニャ」


 シューミはキャフ達に友好的だ。

 死も覚悟したさっきまでの緊張がほぐれる。


「人間は度々来るのか?」

「そうですね。稀に皆さんみたいな遭難者もいますし、取引も少々」


「オークは人間達を襲わないのニャ?」

「この村はお金もあって平和ですよ。それに人間より、モンスター相手の方が大変です」


「ゴブリンか?」

「他にも。モンスター同士、縄張り争いが激しいのですよ。この前も襲撃がありました」

「そうなのか」


 そう言っている間に、目的地についたらしい。質素でこじんまりとした家だ。


「ここです。魔法使いの名前はモナメさんと言います」


 と、シューミは説明した。


『モナメさん、こんにちは〜』 


 とシューミが中に入って行くので、3人とも付いて行く。


『いませんか?』


 奥の方に向かって、シューミがオーク語で話しかけている。


 すると、ボンッ! という音が奥で聞こえ、何やら煙が漂って来た。

 慌てて4人は音のした方に向かうと、少女が1人、実験机の傍らでむせている。


 机の上には試験官やフラスコが置いてあり、怪しげな色の液体から煙が出ていた。

 幸い火事の心配はなさそうだ。


 ゲホ、ゲホッ!


『大丈夫ですか? モナメさん?』

『あ、シューミさん。すいません、また実験失敗しちゃって……』


 そう言うと少女は、床にこぼした液体を近くにあった雑巾でふき始めた。可憐な乙女豚で、全身をすっぽりと覆うシンプルな黒い魔法服が良く似合う。まだ十代だ。


『今日はお客さんです。人間の』


 シューミが3人の説明をしているようだ。


『あら、珍しいわね』


 モナメという少女は、興味深そうに3人を見つめた。


 ちなみにシューミとモナメの会話はオーク語なので、キャフ達3人はさっぱり分からない。

 モナメというオークの少女は3人の方を向いて、礼儀正しくお辞儀をした。


「ブヒ、ブーヒ!」

「『はじめまして、皆様!』と言ってます」


 シューミが訳してくれる。


「ああ」

「よろしく」

「はじめましてニャ」


 キャフ達もお辞儀を返した。


「ブーヒーブ?」

「『今日はどんな御用ですか?』と言ってます」


「魔法杖のチューンナップに来た。見せてもらえないか?」

「ブーブーブ。ブブ?」


 シューミが訳し、モナメに伝える。


「ブッヒー!!」


 喜んだ様子のモナメは別の部屋に行き、魔法杖を持って来た。


「これか」


 持って来た杖は、かなり古い。オーク達が作ったのでは無さそうだ。


「これは、どこから手に入れた?」


 キャフは、シューミに尋ねた。


「ブヒー?」

「ブヒーフブヒヒ」

「『杖も認証資格も、クムール帝国から』、だそうです」

「確かに、そうらしいな。分かった、ちょっと中身を見てみる」


 そう言うとキャフは荷物袋から道具を取り出し、彼女の魔法杖を分解し始めた。


「お? これ《通訳(トランスレート)》の術式も入ってるぞ。ラドル、ちょっと使ってみろ」

「ニャ?」


 ラドルが魔法杖を操作すると、キャフが「モナメさんにも触らせて,喋ってみろ」と言うので、その通りにした。


『こんにちは』


 ラドルが自分達の言葉で話しかけると、


『こんにちは! 分かる! 凄い!』


 と、モナメは驚き、直接話せることを喜んだ。


『魔法使いは、モナメさんだけなのかニャ?』

『ええ。他の人達は魔素が少な過ぎて…… これでも、わたしが一番魔素を多く持っているの。だから村の人達から、回復系の魔法を使えるように期待されているのです。小さい頃から勉強は好きだから独学で薬学や医学も調べているけど、失敗続き。勉強するにもオーク語で書かれたものは稀少で、とても大変です……』


 オーク達はモナメに期待をかけているようだが、応えられず、悩んでいるようだ。そもそもオーク達が魔法を使った例は希少であり、多少魔素があっても彼女に期待するのは酷と言える。


『そうニャんか。でも師匠が来たからには、大丈夫ニャよ! 凄いんだから!』

『そうなの? じゃあお言葉に甘えてお願いしようかしら』


「師匠、よろしく頼むってニャ〜」

「分かった、やるよ」


 キャフは、モナメの魔法杖を受け取った。


「工具もあるのか?」

「ブッヒブーヒ?」 


 シューミがモナメに向かって聞く。すると彼女は実験机の引き出しから沢山の道具を取り出した。古いものが多い。やはり人間の取引先から、調達したようだ。


「まあ、オレのと合わせれば何とかなるだろう」


 キャフは自分の荷物袋から、持ってきた工具類を取り出した。


「んじゃ、しばらく待ってくれ」


 ……


「やはり大魔導師キャフ殿、かなりのお手並みであるな」


 フィカが感心してつぶやく。


「そりゃ、師匠ですから」


 ラドルも同意する。


 周りの目も気にせず、キャフは一心不乱に魔法杖の改良作業に集中した。


 分解して分かったが、術式回路は三十年前くらいの単純な仕組みだ。魔法石も、一番グレードの低い珪石である。これではいくら魔素が高かろうが出せる魔法は限られる。売ったクムール帝国人は、詐欺師に近い奴だ。幸いキャフの手にかかれば、十倍以上の威力になる。


「回路にこれを組み込んで、魔法石は灰色狼のにして…… こんなもんだな」


 どうやら魔法杖の修繕も終わったらしく、モナメに渡した。

 キャフに「手伝ってくれ」と言われたラドルは、魔法杖のもう片方を掴んだ。


『試しに《治癒(ヒール)》、使ってみるニャ?』

『じゃあ、これで』 とモナメは言い、窓際にある枯れかけた花の植木鉢を持って来た。そしてモナメが詠唱し「ブヒ!」と唱えると、たちまち花の生命力が蘇り色艶が良くなる。成功だ。


『ありがとうございます! これでわたしも、村のお役に立てそうです!!』

『良かったニャ!』

『他に用件はあるのですか?』

『いや、これで村長のとこ行けば、多分大丈夫ニャ』

『じゃあ、お茶でもどうですか?』


 モナメに誘われ、キッチンのテーブルで5人でお茶をする事にした。


「森のハーブを使ったお茶です。健康にも良いですよ」


 シューミが言う。普段飲むお茶や紅茶と違うが、趣ある味わいだ。


 シューミと魔法杖の《翻訳(トランスレート)》のおかげで、会話が弾む。

 そしてオークの村やモンスター生息域(ハビタブル・ゾーン)に関しても、色々と情報が得られた。

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