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第119話 密談

前回のあらすじ


何とか、アトンの街は守ることが出来た! 

(まつりごと)は、夜につくられる。


 ここイデュワのレスタノイア城から少し離れた場所にある料亭街ギノンは、【アルジェオンの赤坂】と呼ばれている界隈である。その中にひっそりと佇む木造和風館の一室で、ある会合が開かれていた。防音設備も完璧で盗聴防御も万全、どの部屋も仕切られているから各部屋に誰がいるか見えず、何かと都合の良い造りだ。


 席の中央には総司令官のダナン、右には女性が座っている。歳は不明だが魅力的な姿で、一つ一つの仕草が色っぽい。そして(ダナン)を見知った客や部下達が席を囲み、公務とは違う顔で夜を共にしていた。


「酒だぁあ! 酒持ってこーい!!」

「はい、ただいま」


 たくさんの料理を運ぶため、給仕達が忙しくしている。


「フゥ、あの女、女王だからってつけ上がりやがって。昨日は疲労とか言って休んだら、今日は何だか妙に強気に出てきたな。女のくせに気に食わねえ。彼氏でも出来て女になったのか?」


 昼の会議でやり込められたのが、よっぽど腹に据えかねたらしい。普段よりも飲むペースが早い。


「まあまあダナンさん、しけたことは言いっこなしよ」


 傍にいる女性は、ダナンの盃に絶え間なくお酒を注ぐ。ダナンは酒豪だから苦もなく飲み干す。迷惑なのは部下達で、常に同じ酒量を求められる。ちなみにダナンが酔い始めると「俺の酒が飲めねえのかぁあ!!」が口癖だ。


 しかも、ほぼ毎日この様な飲み会が催されていた。結果、軍学校卒で酒を飲める部下達が早く出世する。軍学校である程度担保されるから他の能力は問われない。こういった飲みニケーションが必要なのは異世界でも同じらしい。


「そういえばあの子、あの魔導師様と一緒に昨日アトンの街に行ったとか」


 情報収集力に長けている女性の言葉は、ダナンを驚かせる。


「またあいつか! あの女にも悪い虫が付いたか。外見だけで何の取り柄もないのに」


「あまり、姉の悪口は言わないでください」


 向かいにいるリル皇子がたしなめる。


「ああ、失敬。でもですな、私は悔しいのです。あなたのような有能なお方が第三皇子の立場でしかないのが」

「いえいえ。王家のしきたりですから、私は従うだけです」


 ダナンは、本当に悔しそうな顔だ。それは自分の権力欲もあるだろう。一方リル皇子は、正論を言いつつ満更でもない顔をしている。


「あなたほどアルジェオンの発展を考えている人は、いないじゃないですか。クムールと同じく新大陸から新しい機械を買い込めば、アルジェオンもみんな豊かになるのに」

「それはそうかも知れませんが、仕方ないですよ」


 お酒も入っているせいか、褒められて嬉しいのか、リル皇子は少しニヤけていた。


「これからの皇位継承は、クムール式が良いかもね」


 隣にいる女性の言葉は、リルとダナンをくすぐる。


「そうだな。その時は我々皆あなた様の味方です。さっさと殺りましょう」

「ありがとう。その言葉だけ受け取っておくよ」


 その後も酒と食が進んだ。

 コース料理なので、一品を食すと良いタイミングで次の品がやってくる。


「今日は、芸者さんはどうします?」

「あんまり気分じゃないな」

「そうですか、分かりました」


「しかし、キャフって奴は何なんだ、あのバカ」


 ダナンの愚痴は、続く。


「王立魔法学校も出てない、たかが魔導師じゃねえか。それを魔法部隊の大将にするとか急に言いやがって。もう十年先までポストは埋まってるっちゅうの。しかしあの女も頑固で譲らないから、結局中隊長に任命したよ。イデュワを護ってアトンの街からモンスターを排除した功績があるから、無下に出来ねえからな。でも所詮それだけじゃねえか」


 つまみの枝豆を食べながら、文句だけは途切れない。


「さすがの俺もあれ以上は反対できなかった。くそ、忌々しい。あのボサボサ頭と無精髭を見るだけで殴りたくなるわ」


「魔法部隊は頼りないからねえ。あんたもモンスター征伐で名を挙げた方が良いんじゃないかい? 魔導師ファドさんよ?」

「私は王立魔法学校卒ですから、ああいう野蛮なことはしないのです」


 女性に話を振られた魔導師ファドも、お酒をぐいぐい呑んでいる。

 キャフのライバルと呼ばれる魔導師だ。


 端正な顔立ちと育ちの良い振る舞いは【魔法協会のプリンス】の異名を取り、魔法使い女子の間では人気である。だが以前魔法学会でキャフにやり込められたのを、ずっと深く根に持っていた。キャフの術式不正騒ぎは彼の言葉が発端であったが、真実はうやむやになって終わった。


「次の魔法協会理事はお願いしますよ」

「ああ、安心しろ。裏工作は大体終わってるわ」


 ダナンの言葉にファドは安心し、更にお酒を飲む量が加速する。ここでは世間の目もないので、給仕のお尻や胸を平気で触ってセクハラし放題だ。そんな中、豪勢な料理が運ばれて来た。


「モドナ産ズワイガニの、かに刺しと唐揚げです」

「お、これ好きなんだよね。まだ残ってたんだ」


 ダナンは、顔がほころんだ。


 だが、


「実は、もうこれが最後になります。モドナが封鎖されたので」


 の言葉に、ダナンの顔が曇る。


「そうなんだ。また食べたいな」

「あんたが奪還してくれば良いんじゃないの?」


 挑発的な女性の言葉に、ダナンは不機嫌な顔をする。


「仕事の話はすんなよ。それより、あの女王とクソ魔導師だ。情報統制部を使って弱みを握らせるか」

「そうですね。いつもの様にタイミングを見計らってスキャンダルを広めましょう」


 部下の1人が同意する。

 部下達もうまくいけば出世の足がかりになるから、必死である。


「しかし、あと二年で定年だっていうのに、めんどくせえな。平和憲法あるから戦争は無いって、小さい頃から教わってたのに。俺、五歳で憲法丸暗記したからな。神童って言われてたよ!」

「わーすごい〜」


 何の感動もなく、女性は相槌を打つ。

 ダナンはもう酒に酔っていて、意味不明な言葉を呟く。


 その後も好物のカニ料理を、バクバクムシャムシャとあまり品のない作法で食べ尽くす。しばらくして飽きたのか「帰るぞ!」と唐突に言い、外へ出た。支払いは部下が勝手にやってくれた。


 女性も後について行き、馬車に乗るダナン達を見送ると店を後にする。


(こいつらには、もっと活躍してもらわなきゃね……)


 そうしてシェスカは、闇に溶けるように何処かへ去って行った。

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