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第118話 アトン攻防戦

前回のあらすじ


戦場の風景に、ルーラ女王はショックを受ける。

「ゴント大佐、どうする? あ、あれ?」


 キャフが後ろを振り返ると、先ほどまでいたはずのゴント大佐がもういない。


「持ち場に行ったのか?」

「先ほど、後方支援するとか言って砦から逃げました」


 兵士の1人が、吐き捨てるように言った。


「軍学校で習うのは逃げ足の速さだけよ」

「お偉いさんだけは甲冑を着てるってのにな」


 他の兵士もうんざりしているようだ。

 だが大半の兵士たちは、それでも職務を全うする。

 

 威嚇のために弓兵達が矢を射るが、相手は全く怯えない。

 数少ない投石機も投入されるものの、命中してもびくともしない。

 スピードを落とすことなく砦の方に突進してくる。


「も、もうダメだ!」


 兵士達にも動揺が走り、流石に逃げ始める者達も増えてきた。


「しょうがないな、行くぞ」

「はいニャ」

「分かりました」


 キャフの浮遊魔法で3人は壁を越え、モンスター達の前に出る。


 間近に迫って来た巨大トカゲ(ギガ・リザード)達は四本足を使い踏み付けるように駆けていて、揺れる地面で足元がおぼつかない。他に、殺人熊(スレイ・ベアー)灰色狼(グレイ・ウルフ)もいる。人型モンスターはいないようだ。


「今回は、お前らでやってみろ」

「了解です!」

「はいニャ!」


 今後のためにも鍛えねばならない。相手に不足はない。


「ファイア・エクスプロージョン!!」


 幾多の修羅場を潜り抜け、もう昔のラドルではなかった。術式を詠唱した後、彼女の魔法ステッキからは悪魔の業火の如く全てを焼き尽くす炎が現れ、モンスター達を襲う。


グャァアア!!!

キューンン!!


 殺人熊(スレイ・ベアー)灰色狼(グレイ・ウルフ)は瞬殺だ。後続のモンスター達はそれを見てひるみ、駆けるスピードを落とした。


 しかし、巨大トカゲ(ギガ・リザード)には効いてない。黒光りする鱗は耐熱性なので、スピードを落とさず突進し続ける。もう少しで3人を直撃するほどの距離に近づいて来た。


「まだヒヨッコですね。邪悪な獣物(けだもの)達よ、地獄の裂け目に墜ちるがいい!!」


 今度はミリナが土系魔法を発動し、走り寄る巨大トカゲ(ギガ・リザード)の手前に巨大なクレバスを作り出した。巨大トカゲ(ギガ・リザード)達はブレーキをかけられず、急に出来た落とし穴に次々と落ちていく。だが後ろから来た巨大トカゲ(ギガ・リザード)数匹は大きくジャンプして落下を回避し、怯まずこちらに向かって来た。


「あ、失敗しちゃった」


「しゃーないな」


 ようやくキャフが魔法杖から術式を発動する。


雷光剣(サンダーソード)!!」


 雷の剣が現れて巨大トカゲ(ギガ・リザード)達目がけて飛んでいき、手足を次々切り落とす。こうして残った巨大トカゲ(ギガ・リザード)を、一瞬の隙も与えずに切り倒していく。まもなくモンスターは全滅した。他にクムール兵はいないようだ。ひとまずこれで戦闘は終了する。


「ふう。所詮はオレの敵じゃなかったな」

「師匠、ありがとニャ」

「また、イキられちゃいましたね」


 再び浮遊魔法を用いて砦に戻ってくると、キャフ達は歓喜の声に出迎えられた。


「ありがとうございます! キャフ様!」

「お弟子様達も、素晴らしい!!」

「いや〜、照れるニャ」

「ありがとうございます」


「それでだ、今後のためにも防御(シールド)魔法をかけておきたいんだが良いか?」

「お願いします!」


 軍隊であるから、本来はゴント大佐の同意が必須である。だがもう誰も気にしてないようだ。

 兵士達に許可をとり、壁に数ヶ所、畜魔石を配置した。術式をかけ防御(シールド)魔法を発動させる。


「魔素が切れたら、魔法部隊からでも貰っとけ」

「アザーっす!」


 喜ぶ兵士達が見送る中3人は砦を後にし、再びアトン市街地へと入って行った。


『おい、フィカ? こっちは用件済んだぞ。そっちはどうだ?』

『あ、ああ、じゃあ合流するか』


 砦を出て合流した時、3人はルーラ女王の姿に驚いた。

 青いワンピースはすっかり汚れ、所々擦り切れている。加えて小さな布袋も携いてた。


「そ、そんなに汚れちゃって、どうしたニャ?」

「ま、まさか暴漢に襲われて傷物になったとか?」

「いえいえ、そんな事ありませんよ」


 ルーラ女王の顔は穏やかだが目は笑っていなかった。


「野戦病院に行って休ませてもらっていたら、婦長さまから『これぐらいで寝てるな!』と言われましてね。皆さん本当に忙しそうだったから、私達も少しお手伝いをしたのです」


「最初は慣れなくて叱られてばっかりだったけどな。十分、役に立てたようだ。婦長さんからも、『またおいで』って、言われたよ」


 フィカが、フォローを入れる。


「それで、入院している子供からこれを貰いました」


 そう言って袋から取り出したのは、藁人形の熊だった。


「その子は失明して…… もう遊べないからって……」


 ルーラ女王は俯き肩を震わせ、必死で涙を堪えていた。


「すいません…… ここまで酷いとは思っていませんでした。私が下した判断でこの街の人達を不幸に陥れてしまったと思うと、申し訳ないです……」


「謝る必要はない。あんたは最善を尽くしただけだ。それに講和を受け入れたら、それ以上の地獄が待っていたかも知れない。どっちが正しいかは分からんよ」

「そうですね……」


 キャフはルーラ女王を慰めた。他の3人も側に寄り添っている。


「あんたには、あんたしか出来ないことがある。覚悟を決めて進むことだ」

「はい。ありがとうございます」


 後ろ髪を引かれる思いのルーラ女王だが、キャフの浮遊魔法で作った雲へ一緒に乗る。


「必ず勝ちましょう」


 ルーラ女王の言葉は、自身に言い聞かせるようでもあった。


「ああ」


 キャフも同意する。他の3人も想いは同じだ。


 やがてキャフ邸に到着すると、夜、ルーラ女王を密かに城へ送り届けた。

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