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第115話 茶会

前回のあらすじ


女王陛下からのお呼ばれ。も、もしかしてまた? いや〜モテる男はつらいな〜

「また女王陛下が脱ぎ始めたら、どうするニャ?」 


 雲の上で、ラドルが物騒なことを言う。


「いや、それはないだろう」


 根拠はないが、キャフは否定した。

 ただ口には出さないだけで、そうなる事を期待している。

 皆でお酒でも飲めば、既成事実で何とかなるだろう。


「その時は、私達が女王様を襲っちゃいましょう!」 


 もっと不穏なことを、ミリナが言った。

 2人とも、キャフよりルーラ女王に興味があるようだ。


 レスタノイア城の裏口に到着すると、そこでは先ほどの使いが待っていた。


「こちらです」


 と言って扉を開けてもらい、キャフは先日と同じ場所を通って行く。


 通路は絨毯が敷かれており、足音は出ない。

 女王の寝室前まで来て彼が扉をノックしたら、「どうぞ」と女王の声がする。


 部屋に入ると、淡いピンクのドレス姿の女王がテーブルにつき、召使い3人が4人を待っていた。女王は軽装だが、寝巻きとか脱ぎやすい服ではない。やっぱり今日はこの前みたいな展開はなさそうだ。少しがっかりではあったが、ホッとしたキャフである。


 あの時は緊張と暗さもあって見渡す余裕もなかったが、改めて観察すると寝室は相当に広く、中央にある天蓋付きのベッドの他に暖炉や机に小さな本棚、ソファやテーブルがある。どれもこれも一流品だ。


 カーテンや絨毯は赤を基調に揃えられている。この前みたいな強烈なお香は焚かれていないが、リラックスできる香りが広がっていた。そして女王がいる白いクロスが敷かれた木彫りの見事なテーブルには、お茶とカップが五人分置かれている。


「やはり皆さんも来たのですね。一緒にお茶をしようかと用意していました」

「わぁ! やっぱり女王陛下はいい人だニャ!」


 ラドルは、すっかりご機嫌になる。食べ物で釣られる典型的なタイプだ。


 女王とテーブルを囲み、召使い達の給仕で茶会が始まった。椅子の座り心地も快適で、腰が全然痛くならない。茶の銘柄などに無頓着なキャフであるが、美味しいのだけは分かった。お茶菓子もポリポリと食しながら、夜のひとときを楽しむ。


「今日はありがとうございました。アトンでのキャフ殿の活躍、報告に上がっています」

「あの刑務所の街、アトンて名前なんだ。しかし先行きは不透明だな」

「分かっています。犠牲者も沢山出ました」


 ルーラ女王は悲しむでもなく、淡々と話している。

 だが今日は薄化粧しかしていないので、強張った表情は隠せなかった。


「そもそも戦争を出来るほどの食糧、備蓄はあるのか? 武器や装備の確保は?」

「……私には分かりかねます。あの2人がご存知かと」

「評議院長と軍総司令官か?」

「はい。とりあえず戦場となっていない第三師団から第六師団まで、一個大隊ずつ応援部隊を送るす事は決まりました」


 どうも心許ない。女王もそれは分かっているようだ。


 国力を冷静に見極めて相手の弱点をつかなければ、戦争には勝てない。例えば食糧の備蓄。収穫期を終えた現在、春までに終わらせないと荒らされた農地では作物の種付けができなくなる。とにかく春になるまで戦線をモンスター生息域内まで押し込むことが重要だ。大雪が降らない地域とは言え、残された時間は二、三ヶ月ほどしかない。


「それに問題は、モンスターが相手だと言う事です。軍の魔法部隊は強くありません」

「そうだな。冒険者達に任せっきりだからな。あいつらは冒険者ギルドからのピンはねの方が、大好きだ」


 これは周知の事実であった。キャフ達冒険者が取ってきた魔法石や戦利品などを買取って加工・販売するのは、第七師団の退役軍人が営む店が大半だ。武器類の製造も同様。そうやって利権を貪っている。


 それに彼らも、モンスター討伐のプロではない。モンスター数匹に五十人規模の小隊で相手するだけだ。これだけ大量のモンスターが一挙に押し寄せてきたら敵わない。


「現時点で、私のできることは少ないのです。女王と言ってもお飾りですよ。政治は官僚達に、軍は軍人達にお任せくださいと言われるだけです。会議でもあの2人が中心になって取りまとめ、私は追認するだけです。それで今まで回ってきたので、そうするしかありません」


 ルーラ女王は自虐的に言った。確かにそうなのかもしれない。先代国王も似た話をしていた。


「あの2人は、この戦争をどう終わらせようと思ってるんだ?」

「ダナンは、ある程度の占領は止む無しと思っているようです。今の兵力差では妥当かもしれません。タージェは国民のためにも何とかしたいと思っています。でも武力を持たない分、あまり強くは言えないようです」

「ルーラさんはそれで良いんですかニャ?」


 ラドルは、至極真っ当な疑問を女王にぶつけた。


 ラドルの生まれた街はイデュワの東南で、アトンから南に行った場所だ。モンスター生息域と近く、今回は戦災を免れたがいつ巻き込まれるか分からない。ラドルに限らず、この状況を知るアルジェオン国民は皆不安だろう。


「それは……」


 ルーラ女王は、答えに窮した。


「私はアルジェオン女王です。民を蔑ろにすることは、父を初め先代の王達に申し訳が立ちません」


 固く決意した顔で、女王は言う。

 民が一番であるという先代までの教えを、忠実に守っている。


「そうだろうな。それにクムールから独立したのだって、故あったのだからな」

「そうです。あの暗黒時代を再び繰り返す訳にはいきません。キャフ殿、改めてですがご協力をお願いできないでしょうか。魔法部隊の責任者になって頂くとか」

「協力はするが、やはり軍を何とかしないとどうしようもないな」

「そうですね……」


 ルーラ女王はうつむき、しばらく沈黙が続いた。

 厄介な相手だから、キャフにも直ぐに名案は浮かばない。


「私、状況を自分の目で直接見たいのですが、可能でしょうか?」

「え?」


 ルーラ女王の突然の言葉に、キャフを始め4人は驚いた。


「城から出たことも無いですし、私の国の様子を知りたいのです」


 ルーラ女王の決心は固かった。


「出来るだろうが、公式にやると沢山人がかかるから難しいぞ。前線は大混乱だし」

「そうですね…… ではお忍びでは? ミカネ、あなた明日一日女王としてここに居なさい。調子が悪いと言ってこの部屋にこもって入れば良いわ。あなた達しか出入りは無しで。あ、そうだ、あなたの私服を貸してもらえない? 代わりに私のを着ていいから」


「え? は、はあ」


 ミカネと呼ばれた召使いは、3人では体型が一番ルーラ女王と似ていた。急なことで面食らっているが、他の2人と使いの青年も含め了承した。


「じゃあ、決まりました。早速行きましょう。あなたの家に連れて行ってください」

「あ、ああ」


 戸惑うキャフを尻目に、ルーラ女王は先程より少し明るい顔になった。

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