第114話 報告
前回のあらすじ
無事に勝利したけど、モンスターの頭に何か入ってるぞ?
キャフ邸に戻り、モンスターから回収した物を研究棟へと持って行く。
畜魔石を削り取ったので、ピクリとも動かない。
「何だか分かるか?」
3人に聞く。
「寄生虫ですかね?」
ミリナが、やや自信なさげに答えた。
博識だから、似た生物の形を思い出したのだろう。
でも同じ形は記憶にないようで、断定はできなかった。
「確かに、生物を一部素材に使っているかな。どうだろう? 見たことあるか?」
キャフには、確信がもてなかった。
3人も、首を横に振る。
「王立図書館で調べてきますか?」
「ミリナちゃん、ここの図書館も充実してるニャよ」
「すまんが、2人で調べてくれないか」
「分かりました」
「はいニャ」
これは2人に任せて本邸に戻ると、キャフはギムに連絡をとった。
『ギム、いま大丈夫か?』
『ああ、キャフか。そっちはどうだ?』
元気な声を聞いて、キャフはホッとする。
あいつに死なれでもしたら、一大事だ。
『戦闘は始まったか?』
『ああ、再開したよ。そっちはどうだ?』
『同じだ。何とか旧道の東端地点までは奪還に成功した。兵士は殆ど役に立たなかったけれどな。ただ食い止めるのが精一杯で、そこから旧道を続けて北上したりモンスター生息域までは、とてもじゃないけど無理だ』
『そうか。こっちも似たもんだ。我が自治軍は奮闘してくれたが、第七師団はダメだな。結束力がなくて話にならない』
どちらも状況は同じらしい。
逆に2人が関わらない他の地域が気に掛かる。
特にサローヌ近くまでの旧道沿いとモドナが心配だ。
『クムール兵はどうだ? 強いか? やっぱりモンスターが主力か?』
『そっちもそうなのか? そうなんだ、モンスターが一緒になって襲って来てる。あと動く石像だな。お前さんから聞いちゃいたが、膝を狙って倒すのは大変らしい。クムール兵は後方待機で先頭には殆ど出てこない。思ったより厄介だよ』
やはり、同じ構成で組織されているようだ。
『そうか。どうもモンスターを操る装置があるみたいなんだ。あいつらの頭に何か埋め込まれている』
『本当か? そんな報告はなかったな』
ギムは意外そうな声をする。
『解析してみるが、おそらく手がかりはないだろう。複雑すぎる』
『こちらでも回収できるか命じておくよ』
とにかく情報は少しでも多い方が良い。敵の兵器であれば尚更だ。
『助かる。それより評議員長のタージェってじいさんと、軍総司令官ダナンは知ってるか?』
『ああ、会議なんかで会うからな』
この2人は、アルジェオンの権力者として鍵を握る存在だ。実際の政治は官僚が回しており、直接命令する訳ではない。だが評議会や軍の意向には彼らの意思も反映されている。彼らの個人情報が少しでも欲しかった。
『どんな2人だ?』
『まあ、タージェじいさんはあのまんまだよ。西の領主を長くやってきただけあって、民からの信頼もあつい。裏表も無い方だな。ただダナン司令官は面倒な相手だ。”面従腹背”が座右の銘だからな』
『すごいな。そんなこと公言してるんだ』
世の中のエリートにそんな人間がいるとは露も思っていなかったキャフは、えらく驚いた。よく出世したなと感心すると同時に、似た人間がエリートになるのだと思うと陰惨な気持ちになる。
『責任回避能力だけは誰にも負けないだろうな。あの軍の出世レースを勝ち残ってきたんだ。一筋縄じゃいかんだろうよ』
『確かに、そうだな』
世の中いろんな奴がいると、キャフはゲンナリした。おそらく育ってきた世界が出世競争のエリート街道で狭いのだろう。だからそんな非常識も堂々と言える。ルーラ女王の悩みも尽きない訳だ。
『そういえばこの【通魔石電話】、他の場所からも繋がるのか?』
『どうかな。実は俺がこれに出られるのも、城にいるからなんだ。技術師達によれば、近くに通魔石の中継所を置いていあるから拾えるらしい。だからお前の家から離れると無理だろうな』
『分かった。中継所を増やす計画は?』
『考えておくが、非常時だから難しいかもな』
『そうだな』
また近況を報告し合うことを約束して、通魔石電話を切る。
「夕飯の用意ができました」
シーマの呼びかけで食堂へと行く。3人も既に揃っていた。
「今日はステーキだニャ! 美味しいニャ!」
「皆様が頑張ったご褒美です」
「ありがとうございます!」
3人とも喜んでバクバク食べる。キャフはその様子を見て頼もしく思った。
「しかし奪還した場所、どうするのかな?」
ミリナが聞いた。
「おそらく防護壁や砦を作るんじゃないか。今頃、工兵達が夜通しで建設しているだろう」
「そうニャのか」
「とにかく拠点を作らないと、相手を追い出せないからな」
「師匠はまた行くニャんか?」
「状況次第だな。お前らは、あれについて何か分かったか?」
「百科事典で調べたのですが、同じような生物は見つかりませんでした」
「そうか」
一通り食べ終えてまったりとした時間を過ごしていると、玄関で呼び鈴が鳴る。シーマが対応に出て行き戻ってきたら、「城からの使いの者です」とのことであった。
通すように言う。やってきたのはこの前と同じ青年であった。
改めて見るとキャフより年下だ。
礼儀作法はしっかりとしていて、身だしなみも良い。
「こんばんは、キャフ様。女王様がお呼びです。馬車も用意しました」
「そうか。行っても良いけれど馬車は止めておこう」
「? 何故ですか?」
「この時間だから隠密なのだろう? 馬車の動きもばれる。浮遊魔法で行くから裏口に誰か待機しててくれ」
「……御配慮ありがとうございます」
女王を慮っての言葉に、使いの者はキャフへ丁重に礼を言うと帰って行った。
「私達も、一緒に行って良いか?」
フィカが聞く。
「ああ。その方が多分良いだろう」
食休みの後、再び魔導服や甲冑に着替えて外に出る。戦闘をする訳ではないが、この方が良いだろう。浮遊魔法を起動し雲を起こす。曇り空で月は出ていない。隠れていくにはちょうど良い日だ。
4人は浮遊魔法の雲に乗り、出発した。




