第112話 女王陛下の依頼
前回のあらずじ
何だか、アルジェオン軍は頼りなさそう。
翌日の朝、予想通りレスタノイア城から使いの者が来て登城を命じられる。
予め準備していたので、4人ともフル装備で直ぐに馬車へ乗り込んだ。
「何を言われるのかニャ〜」
「新しいクエストだろうよ」
「なんだと思います?」
「まあ普通に考えれば、昨日の街に行って来い、かな?」
「師匠なら、瞬殺ニャンか?」
「どうだろう? 街を壊さないように魔法をかける必要があるし、少し面倒だな」
「もちろん、私達も手伝うぞ」
「ああ、助かるよ」
そんな会話をしながら、いつの間にか馬車は城に入る。
そしてこの前と同様に、謁見の間へと通された。
女王の両側には、軍総司令官ダナンと評議員長タージェが控えている。
今日は、リル第三皇子はいない。
気のせいか、ルーラ女王の白く美しく冷徹な顔がこの前より穏やかに見えた。
「本日はお招き頂き、ありがとうございます。何用でしょうか?」
「ようこそ。まずこの度の功績により、キャフ殿に【賢者】の称号を与えたいのですが、如何ですか?」
「は、はあ……」
正直、キャフは乗り気でなかった。
あの隕石雨で、賢者達は全員死亡した。だから今は空席だ。しかし特権階級と呼ばれる賢者になりたがる魔法使いは沢山いる。直接、間接の収入がワンランク上になるのだ。
何より賢者になるには、本来魔法協会会員の承認が必要だ。確かに女王の一言があれば、魔法協会も言うことを聞くだろう。だがキャフをライバル視する魔導師や未だキャフを快く思わない輩が、内心認めるとは思わない。また何かあったら足を引っ張られそうで、キャフは嫌がった。
「いや、自分は今の魔導師で結構なのだが……」
「女王陛下、やはり此奴には荷が重すぎます」
軍総司令官であるダナンが口を挟んでくる。
分野外のはずだが、かなり言いたいことがあるようだ。
「言っては悪いが王立魔法学校卒でないと、下っ端の魔法使い達ですら彼の言うことに耳を傾けないでしょう。残念ながらそれが現実です」
「ですが、彼の能力ならば魔法協会の代表も務まるはずです」
「いいえ、女王陛下は実情を知らなすぎます」
「まあ、そいつの言ってることも当たらずも遠からずだ。やはり、辞退するよ」
”そいつ”呼ばわりされて顔が真っ赤になったダナンは、それ以上何も言わなかった。キャフも不機嫌になりかけているので、つっけんどんになる。いまだ権力におもねるのは苦手らしい。3人もキャフの味方だから、何も言わないもののニヤニヤしている。
「その方が、今後も協力して貰えるかと思ったのですが…… 分かりました」
「いや、あんたの為なら何でもするさ」
「あんたとは何だ! 無礼者!」
耐えられなくなったのか、ダナンが怒ったようだ。
「ああ、すまない。礼儀作法に慣れてないもんでな。王立魔法学校を出てないし」
はっきり言って、不毛で非生産的な会話だ。ここに来た意味がない。
「これだけかい? それだったら、もうこれで……」
「いえ、未だあります」
気分も悪いのでもう帰ろうとするキャフを、女王は強く引き止めた。
「ご存知のように、旧道が彼らによって封鎖されています。本日、クムールの大使に講和条件は受諾できないと返答をしました。改めて戦闘が開始されるでしょう。魔導師キャフ、あなたに協力を求めます」
「女王陛下、やはり私は反対です」
ダナンは反論した。恐らく昨日の会議でも同じ議論が巻き起こったのだろう。
ルーラ女王の顔は心なしか曇り始めた。彼女の本音もダナンが嫌いらしい。
「ですがキャフ殿は優秀で、先日もイデュワを救ったではありませんか?」
「それとこれとは別です。彼は戦争を知らない」
(お前らもだろう)
とキャフは心の中で思ったが、口には出さなかった。
「幸い、今前線にいるのは軍学校卒の精鋭達だ。女王陛下は安心して吉報をお待ちください」
「その精鋭達だが、コソ泥してて全然統率が取れてないぜ。ありゃ、すぐ陥落するな」
「無礼者ぉお! 我がアルジェオン軍を侮辱するな!! 叩っ斬ってやる!!」
腰の刀の柄に手をかけそうなダナンに対し、「お止めなさい」と女王は諫めた。
「国難時に、このような諍いごとをしている場合ではありません」
ルーラ女王に諭されて、ダナンは渋々刀を元に戻す。
「では、キャフ殿の協力は必要ないと言うのですか?」
女王はダナンに確認した。
「はい、大船に乗ったつもりで任せて下さい!」
「……分かりました」
バタン!!
その時部屋の扉が勢いよく開けられ、1人の兵士が入って来た。
ボロボロになった甲冑姿は、前線からやって来たと一目でわかる。
「申し上げます! 前線は突破され、クムール軍が迫っております!」
「なに!」
ダナンは先ほどの言葉もあって、気まずい顔をしている。
「キャフ殿、行ってもらえますか」
「女王陛下の命とあらば、喜んで」




