第111話 前線
前回のあらすじ
女王が仲間になった!
翌朝は少し遅めの朝食をとり、キャフ達は前線の街へ向かった。
フル装備であるものの、日帰りなので荷物は軽装だ。
この前通った山道と旧道のどちらを行くかで、4人は話し合う。
おそらく両軍が対峙しているのは旧道だ。
それなら人目につかない山道だろう、との結論になった。
「馬で行くと手間だから、浮遊魔法を使うか。ただ、目立たないように山の手前で降りるぞ」
「それがいい。ここから冒険者姿で行くと周りから浮くからな」
玄関を出て少し広い芝生の上でキャフが魔法杖を操り、風を巻き起こした。
小さな雲ができ、4人は乗り込む。ふわりと上昇した後、空の旅が始まる。
「楽チンですニャ〜♡」
「あの街どうなってるかな」
「おそらく閉鎖されてるんじゃ無いか?」
「その可能性はありますね。どうやって偵察しますか? キャフ師は透明人間の魔法とか、会得してないんですか?」
「あれ実用的じゃないんだ。同レベルの剣士や魔法使いだと気配でバレる」
一度悪用しようと思い、ヤバい事態になった黒歴史は言わない。まあいわゆる魔が差したのだが、こっぴどく叱られた。あれで女性の二面性が露わになり苦手になる。悪いのはお前だと言われようと、あの時の恐怖は筆舌に尽くし難い。
人目を避けて遠回りする。空飛ぶ魔法使いは時々いるので珍しくはないのだけれども、今は非常時のせいかそんな魔法使いはいなかった。しばらくして山の近くに辿り着き降下する。辺りは一面の農園でキャフ達に注目する人もいなかった。一行はそのまま山の小道に入っていく。
「特に変わりないですかね?」
「来たのが、二日前だしな」
街へ続く最後の坂道を下ると、前方からアルジェオン兵が2人でやってきた。
ここも封鎖されたのだろう。悪党みたいな人相で信用できない。
「この街は封鎖されている。とっとと帰れ」
ぞんざいな態度をとり、キャフ達を追い払おうとする。
ここで黙って帰るわけにはいかない。
「いや、オレ達は魔法協会の依頼で調査に来たんだ」
「許可証あるのか?」
「……いや、ない」
「じゃあ、駄目だ」
「そこをなんとか、してくれないか?」
そう言ってキャフは百ガルデ(約10万円)を2人に手渡す。兵士2人は顔を見合わせてニヤリとした。すぐさま懐に隠すのを見ると、やり慣れている。
「しょうがねえなあ。ほら、行け」
こうしてキャフ達は、あの街へと入って行った。
* * *
「……予想以上に酷いな」
「変わっちゃったニャ……」
街にはまだ鎮火していない建物もあり煙があちこちから上がっていて焦げ臭く、視界が悪い。崩壊した建物をはじめ、モンスター達の爪痕が多く残る。遠くから聞こえる悲鳴も1人や2人ではない。
クムール兵とモンスターに怯えるかのように、旧道にはバリケードが高く積まれていた。その周辺には大砲や投石機が準備されている。だが山近くの方にはバリゲードも兵士達もおらず、街の中にも入れるようだ。どうやらあの小道の番人は、さっきの2人だけらしい。
「アルジェオン兵は?」
「あそこにいるな」
バリゲード近くに、一個中隊ほどの兵士がいる。半分が砲兵だ。
「単に突っ立ってるだけじゃないですか?」
「命令がないから動けないんだろうよ」
そうならば理解できる。だが4人が街に入って、クムール兵に紛れて物を強奪するアルジェオン兵と遭遇するにつけ、違和感を持った。
「どっちもどっちだニャ……」
「ヒャッハーーー!!!」
「きゃー! やめて!!」
加えて刑務所から脱獄してきた悪投どもも、力に任せて好き放題している。つまりクムール兵もアルジェオン兵も脱獄囚も略奪と破壊をし放題、力こそ正義の完全な無法地帯だ。これでは住民たちが浮かばれない。
刑務所の前を通ったら、あの時空いた穴はそのままだった。
中を覗くと、囚人達が看守をいじめ抜いている。
「情けないニャね」
「どうする?」
「とにかく様子をみるか。オレ達が下手に攻撃すると宣戦布告になる。気持ちはわかるけど、我慢してくれ。今はまず敵の兵力を知りたい。念のため、離れて歩くな」
注意深く街を歩いて行く。
突然、図体のデカいハゲ頭の男が4人に絡んできた。
「オラァア、可愛い姉ちゃんじゃねえか。俺にくれよ。っぐわっ!!」
だが、フィカが一撃で倒す。
「野郎、やりやがったなぁあ!!!」
仲間と思しき男ども数人が4人を取り囲んだ。野獣を思わせる目つきは、明らかに3人を狙っている。だが死戦を潜り抜け実力が歴戦の猛者に近づく3人にとって、敵ではなかった。
「ぐぉおお!! ヒィイ!!」
瞬殺され地面に伏して倒れ込む男どもを尻目に、4人は先を急ぐ。
今度はゴブリン達や低級モンスター達が襲いかかって来る。
反撃も面倒なのでキャフが防御魔法をはり、攻撃を無効にした。
こうしてみると、クムール兵自体は少ない。
クムール軍の多くは、モンスターで賄われているようだ。
アルジェオン兵が作ったバリゲートの先にはクムール兵も防御線を貼り、立ち入り禁止状態にしていた。魔獣亀はこの前より少ない。移動したのだろうか。その代わり動く石像の姿がたくさん見えた。メンテナンス中なのか停止状態だ。
アルジェオンが宣戦布告の返答をした時、此処は血生臭い戦場となる。
これでも、今は束の間の休息だ。
だが見る限り、戦力的には明らかにクムール軍が優勢である。
これからを思うと、キャフは不安が募った。
「そろそろ戻るか」
「ああ」
山道の入り口に戻ると、あの兵士達は既にいなかった。
「この山に大砲を備えれば、まだマシじゃないのか?」
「恐らく射程距離が短いのだろう。オレ達は軍に口出しできんよ」




