第110話 女王陛下の憂鬱
前回のあらすじ
やばいぞ! このままじゃR18に飛ばされる!
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
キャフは、一糸纏わぬ姿になろうかとするルーラ女王を押し留めた。
召使達の手が止まる。女王もキャフの顔を見た。
「どうしました? 大丈夫です、女王の帝王学では、殿方を悦ばせる作法も学んできました。これでも、上手だと褒められたのですよ。安心して私に身を委ねて下さい」
「い、いや、そうじゃなくて」
(これ、どうなるか続き見てみたいニャ……)
絹のように真っ白できめ細やかな女王の肌を見て、ラドルは変な期待をし始める。
ちなみに、キャフの裸に興味はない。
だが、
『ちょっと、予定通りやりますよ!』
通魔石を介して、ミリナから指令が入った。
(は! そうだったニャ)
気を取り直し、ラドルが叫ぶ。
「この結婚、反対ニャ!」
「そうだそうだ!」
ミリナが相槌を打つ。
「アルジェオンは自由恋愛ニャ! 無理矢理はダメですニャ!」
後ろにいた2人が絡んできて、女王はキョトンとした。
「あら、可愛い猫さんとお嬢さんだこと」
どうもそれまで、視界にも入ってなかったらしい。
「いや、それほどでもないニャ……」
「あ、ありがとうございます……」
女王に褒められ光栄に思ってしまう2人は、完全に負けている。
「お、オレ達、初めて会ったばかりじゃないか。もう少しお互いを知ると言うか……」
キャフも、女王の強引な進め方に困惑しているようだ。
だがその言葉が、彼女にとっての地雷となった。
女王はじっとキャフを見つめ、しばらくすると落ち込んだ顔になる。
「もしかして、私をお忘れで?」
「え、い、いや、何かの集りで会ったかな。でも直接喋ったことは……」
王族だから、何処かで会っているかも知れない。
だが、キャフはそう言うことに疎い。
記憶を辿っても、直接会話を交わした記憶は、なかった。
「私が、見ず知らずの男に容易く体を許すような、ふしだらな女だとお思いなのですか?」
女王の目が潤んできたのを見て、キャフは慌て始めた。
一体何が起きているのか全く分からず、混乱するばかりである。
「まだ小さかった頃、庭で遊んでくれたのをお忘れですか?」
「……あ!?」
(もしかして、あの娘か?)
……あれは、アースドラゴンを倒した後の祝賀会が催された時だ。
最年少のキャフは大人達の会話に興味もなく、暇を持て余していた。料理はうまいがそれだけだ。一時間もしたら飽きる。まだ世間話をしてお茶を濁すような、処世術は持ち合わせていなかった。
だからパーティー会場から離れ、1人で庭を散歩した。もともと1人を好む性格である。気楽に城を散策していたその時、「あそぼっ!」と声をかけてきた女の子がいたのだ。まだ5、6才ぐらいだ。
その子も、同年齢の友達がいないこのパーティーが退屈だったらしい。だからお互い暇だからと、キャフは一緒に庭で虫取りしたり、おままごとをして時間を潰したのであった……
「昔、庭で一緒に遊んだ女の子か?」
その言葉で、憂い顔だった女王がパッと明るくなった。
「覚えていて、下さったのですか?」
「大きくなったなあ〜」
キャフも昔を思い出し懐かしむ。気づかないのも無理はない。当時とは全く違い、今は立派なレディだ。女王も普段は誰にも見せない表情に変わり、キャフとの思い出話に花を咲かせた。
『ちょ、ちょっと、昔からの知り合いって聞いてないニャ!』
『何、そのカ○オストロの城みたいな展開?』
『これヤバいな。勝ち目がないぞ』
3人はベタベタな展開に呆気に取られた風で、何も言えなくなっている。
「お父様も、キャフ様は信頼できると私に言い残しておりました。私も相手は選びます。だからこの結婚、故あっての事なのです」
「そうか…… だが、国難の時にいきなり結婚もどうかと思うぞ」
背中に刺さる3人の視線を感じ、キャフは言った。
多少不本意ではあるが、この状況で進めると後が怖い。
「そうだそうだ! キャフ師、良いこと言いますね!」
「いえ逆に国難だからこそ、キャフ様のお力をお借りしたいのです……」
女王は懇願した。やはり気が張り詰めているのか表情が硬く真剣だ。
「それでも、結婚する必要はないニャ!」
「そうだ!」
形勢逆転と見て、フィカも混ざり始める。
「……ところで、あなた達3人はキャフ様をお好きなのですか?」
突然、女王が3人に問いかける。3人とも顔を見合わせた。
「まあ、良いなと思ってますよ」
「私も、兄者の次に」
「師匠は見方によっては格好いいニャ! 魔法も凄いし!」
……どうも端切れが悪い。彼女達の言葉に、女王も納得してないようだ。
「と言うか、そもそもキャフ師は、誰がお好きなんですか?」
ミリナが、ストレートな質問で返して来た。
(ギクっ!!)
まさかシェスカさんとも言えず、キャフも黙り込む。
何だか4人とも、煮え切らない態度ばかりだ。
悩みこんで、みな黙りこくってしまう。
この様子に、女王もクスクス笑い始めた。
「分かりました。じゃあ私も、あなた達の仲間に入らせて下さい」
「え、良いのか?」
突然の提案に、3人とも驚く。
「はい。何なら二号でも三号でも構いません」
「いや、女王陛下が二号さんになっちゃ、まずくないか?」
「私は気にしないですけどね。それより城内で気が置けない相手は皆無で、私も疲れました」
「女王様ですからニャ」
「まあ、確かに大変そうだな。あんな弟もいるし」
キャフも、同情した。
「分かりますか? 本当なら私も早めに退位して彼に譲りたいのですが、あれですからね…… キャフ様にも、魔法協会の件ではご面倒をおかけしました」
「まあ、言いたいことは色々あるが、女王様とは無関係ですから」
「ここでは、女王ではなくルーラと仰って下さい。皆さんもそれで」
「良いんですか?」
「ええ。私も皆さんの仲間でしょ?」
そう言うわけでキャフの結婚話は有耶無耶となり、5人で夜を徹してお喋りした。
やはり内政の状態も、あまり良くないようだ。
「いろんな政策をやろうとしても邪魔が入るんです。変なスキャンダルがリークされて法律が廃案になったのも、一度や二度ではありません」
「誰がやってるんだ? 黒幕がいるのか?」
「分かりません。でも黒幕というより、官僚の自己防衛本能と言うのでしょうか。自分達の利権が脅かされるとそう言った攻撃が起こるようです。表立って出てこないから、こちらとしては対策しようがありません」
「大変ですニャ……」
ルーラ女王の愚痴は長く続いた。誰にも言えず苦悩していた様子がうかがえる。それに、女王も緊張していたようだ。幾ら幼い頃の知り合いとはいえ、男性に初めて身を任せると覚悟していたのだから無理もない。最後の方はすっかりリラックスして、話も弾んだ。
「すいません言い過ぎて。今日はありがとうございました。また時々いらして下さい」
「ああ、わかった」
「例の大使の返事は、明後日頃にする予定です。また登城をお願いすると思います。もちろん3人も一緒に来てくださいね。それでは、良い一日を」
そう言って、女王は普段見せない笑顔で4人を送り出した。
「良い人だったニャ〜」
「誰だ? 裏があるとか言ってたのは」
「え? 何のことですか?」
「そうですニャ、言葉のあやですニャ〜……」
ラドルとミリナは笑顔でごまかす。
誤解も解け、4人と女王の結束は強まった。
「ま、とりあえず今はクムール帝国との戦いだ。明日はあの刑務所の街に偵察に行くか?」
「そうだな。とにかく平和を取り戻そう」




