第109話 深夜のレスタノイア城
前回のあらすじ
最凶の敵、現れる。 ただし3人にとって。
「ど、どうするんですか?」
「まさか、こうニャルとは……」
「落ち着け、まだあわてる時間じゃない」
「でもキャフ師、行く気まんまんですよ?」
「確かに馬車ん中で呆けてたニャ。フィカ様のみぞ落ちパンチで悶絶たけど」
「あれぐらい良いだろ」
帰宅後3人は重い夕食をとって部屋に戻ると、うなったまま黙り込んだ。
馬車中、キャフが呆けていたのは事実だ。鼻の下を伸ばし、何か妄想したのかニヘラニヘラと笑っていた。それを見てラドルもミリナも良い気はしなかった。
だから馬車の到着も気付かずにぼうっとしたままのキャフに、フィカが○バラギのヤンキーさながら胸ぐらを掴み溝落ちに一発かましてくれて、2人とも溜飲が下がった。
ただ同時に『フィカ姐さんには逆らわんとこ』と、2人は心の中で誓い合ったのも事実である。
3人の話は続く。
「あのロリババア、私達よりちょっと可愛くて、お金と権力が無茶苦茶あって、結婚したら一生食いっぱぐれないだけですよ」
「……それ、完璧じゃないか?」
再び、黙り込む。
「む、胸は私の方が」
「それは関係ないニャ!」
「お前ら身内で争うな」
「……だいたいここまで話が続いたのも、私達のおかげですニャ。それをあんなぽっと出のゆるふわ女にヒロインの座を奪われたら、死んでも死にきれないニャ!」
「確かに」
「しかしお前ら、もしキャフより若いイケメンが来たら、なびくんじゃないのか?」
「……」
「……」
2人とも黙って顔を見合わせる。
「そ、そんなことないです!」
「ち、違いますニャ! わたしはずっと師匠についていきますニャ!」
「ホントか?」
「……そういうフィカさんは、お兄さんの方が好きなんじゃないですか?」
「ん、ま、まあ。でも兄者と結婚はできない」
「じゃあ、お兄さん似でキャフ師より頼れる男が来たら、どうしますか?」
「……」
フィカもまた、黙り込む。まったくもって不毛な議論である。
だが3人に取ってはかなり深刻だ。
「いやそもそも結婚したら、私らここに居られないんじゃないですか?」
「そうだニャ! 出てけと言われるニャ!」
「じゃあ、3人とも離れ離れですね……」
「……」
「……」
場がしんみりして、更に重くなってきた。キャフがどうこうより、そちらの事実の方が彼女たちにとって懸念事項となる。3人だけで暮らせないこともないだろうが、戦争が始まる今、安穏とは暮らせない。
「とにかく、あのクソ○ッチから、師匠を取り返すニャ! 私たちも城に行くニャ!」
「あいつが許すか?」
「今から交渉ニャ!」
ラドルの勢いに気圧され、2人も一緒にキャフの部屋に行く。ノックすると普通に出てきた。たださっきのダメージのせいか、フィカに対してはやや怯えた態度で視線を合わせようとしない。
「ど、どうした?」
「師匠、本気で結婚するつもりニャんか?」
「キャフ、どうなんだ?」
「今から行くんですか?」
「お、おい、ちょっと待て。まあ落ち着け」
目が血走る3人を見て、キャフはなだめた。下手に火をつけると、こいつらに拉致監禁でもされそうな何をしてくるか分からない怖さがある。冒険者たるもの行動力があるのは褒められるべきだが、今はちょっと待って欲しい。
「じゃあ、お城に一緒に行っても良いニャンか?」
「え?」
1人で行ってムフフする気満々だったキャフは、即答できなかった。
「結婚するつもりがないなら、私達が行っても良いはずです!」
「そんな理屈は……」
「まあ良いだろ。みんな、お前のことが心配なんだ」
「そうだニャ! きっとあいつには何か裏があるニャ!」
「そうですよ! 腹黒女のしたたかさ、まだキャフ師は知らないはずです!」
「うーん…… 確かに、お前らがいた方が、良いかもな…… 分かったよ」
内心納得はしてないが、怒らせると怖い。
そういうわけで迎えの馬車が到着した時、3人も同席する旨を伝える。
「確かに、1人で来いとは命じてられませんが……」
使いの者も困惑するが3人は強引に乗り込み、馬車が出発する。
「こちらです」
馬車が到着したのは、昼間の玄関ではなく裏口であった。夜のレスタノイア城は静かで薄暗い。ほのかな灯の中を使いの者に導かれ、4人は女王の寝室へと向かった。
「おや、昼間の召使いも同席するのですか。見届け人ですね。良いでしょう」
寝室に入ると、中は良い香りのするお香が焚かれていた。暖炉の火が燃え盛り、女王は薄いネグリジェ姿でお付きのものが2人いる。
「私達は、召使いじゃない。冒険者仲間だ」
フィカが、言う。
「どちらでも良いですよ。では、始めましょうか」
そう言うと,お付きの者が女王のネグリジェを脱がせ始めた。




