第108話 和解
前回のあらすじ
よく考えたら冒険ファンタジーって、犯罪行為ばっかりじゃないか?
『呼んだ?』
「呼んだよ! 皇子、来てくれてありがとう!」
ミリナの想いは通じたようだ。
アースドラゴンの声は通魔石と違い個々の思念に直接語りかけているので、城内全員に聞こえる。4人はアースドラゴンに会おうと、謁見の間から庭へと向かう。
だが女王以外、恐れて誰もついてこなかった。
女王のお付きの者達も、怯えながら一緒に来る。
城を出た先の庭にアースドラゴンはいた。庭師や修繕をしていた職人達も、恐怖のあまり腰を抜かして立てない者や仲間を見捨てて逃げて行く者など、反応は様々だ。
少し見ない間にすっかり大きくなった。クムールから脱出した時よりも、三倍はある。
『ごめんごめん、マグマ風呂でいい気分になってたら、すっかり寝ちゃってたよ』
「これで成長は終わりニャンか?」
『まだまださ。もっと大きくなるよ』
「凄いな」
「本当にムナなの?」
ルーラ女王は、まだ半信半疑だ。だが国を背負う女王だけあり、ドラゴンにも恐れずに対峙している。何かあったらと、お付きの者達も必死になって彼女を守っている。それに対しアースドラゴンは、まったく攻撃のそぶりを見せない。
『うん、そうだよ。お〜い、リル兄さん、出ておいでよ』
「ひ、ひぇえ〜」
アースドラゴンに促され、リル皇子は部下を伴い嫌々ながら庭に出てきた。部下達も皆逃げ腰だ。庭に来てもリル皇子は片隅にいるだけで、まともにドラゴンを見ようとしない。
『ミラ姉さんは?』
「悪いけど、あの子は旅行中」
『そっか。挨拶したかったんだけどね。改めてだけど、今まで言わなくてゴメン。僕は、アースドラゴンの生まれ変わりだったんだ。モドナに行ったのも、その為だった。だからキャフ君達は全然悪くないよ』
「し、しかし……」
『リル兄さん、あまりやっかみ過ぎるのは良くないよ。キャフ君とは一度本気の闘いをしたし、ついこないだまでは仲間だったんだ。彼ならアルジェオンを正しく導いてくれるはずさ。ルーラ姉さんに何かあったら次はリル兄さんなんだから、もっと王族らしくどんと構えてよ』
「……」
その言葉に、俯くだけで直接返事はしないリル皇子であった。
もう早く帰りたいと顔が言っている。
『ルーラ姉さんも分かると思うけど、キャフ君は悪い奴じゃないから』
『ええ、そうね』
やはり女王だけあって、怯むことなくアースドラゴンと会話する。話の内容からもこのアースドラゴンがムナ皇子だと理解し始めたようだ。それに先代王と同じく、ルーラ女王もキャフに対し悪感情はないらしい。状況が改善に向かっているようで、キャフもやや落ち着いてきた。
「とうとう、クムールが攻めてきたんだが」
キャフは状況を打開しようとアースドラゴンに訴えかけた。彼が味方になって参戦してくれれば、十分に勝機がある。
『そうみたいだね。ただゴメン、今は直接手を下せない。僕が出てくると他の大陸にいるドラゴンがやって来て、バランスが崩れる可能性がある。モンスター内での権力闘争も人間と同じで面倒なんだよ』
「そうか、仕方ないな」
頼りにしていた皇子にすげなくされ、キャフは少し落ち込んだ。
ただそう言われるだろうとは、予想していた。
『それに他から聞いたけど、彼らのモンスター操縦術もやっかいなんだ。頭に何かはめ込まれているらしい』
「そうなのか? どうすれば解除できる?」
『そこまでは分かってないようだ。また何かあったら連絡するよ』
するとアースドラゴンは、翼を広げ再び飛翔体勢を取り始めた。
「もう戻るの?」
女王が少し寂しそうに言う。
『うん。そのミリナって子、魔素が強いから僕に連絡届きやすいみたい。本当に必要な時があったら連絡してよ。ルーラ姉さんも頑張って』
「分かった。ありがとう」
そしてアースドラゴンは、去って行った。
騒然とした場もようやく収まり、皆は持ち場に戻る。
いつの間にかリル皇子はいなかった。一方、女王は、キャフ達の側へとやって来る。
化粧から表情は読めないものの、幾分安堵しているようだ。
「ありがとうございました。これで、あなた達の疑いが晴れました」
「ああ、良かったよ」
「クムール帝国への引き渡しは、今から会議が始まりますが恐らく拒絶するでしょう。国民を簡単に引き渡す国家は、信頼に足らなくなりますから」
「助かるよ。そもそもあの国はヤバい。子供達が搾取されているんだ。この戦争に負けたらどっちも悲惨な運命が待ってるぞ」
「……そうですか」
女王は何か考え事をしている風で、しばらく黙っていた。
そして思い出したように、キャフに話続ける。
「では改めて、イデュワを救ってくれたお礼です。褒美には何が良いですか?」
「いや、特に欲しいものは無いな」
今の時点で、キャフは何も思い浮かばなかった。
当座のお金はギムが援助してくれるだろう。
いきなり財産が増えても、使い道に困るだけだ。
「魔法関連の品ですか?」
「間に合ってるからなぁ」
「金銀財宝ですか?」
「今あってもなあ。軍資金に必要じゃないのかい?」
「豪邸を用意しましょうか?」
「オヤジさんから、もうもらってるよ」
「奴隷等は?」
「いや、今のままで良い」
「……分かりました。では、私ではどうですか? 結婚しましょう。夜、寝室に来てください」
そう言い残して、ルーラ女王は城へ戻った。
お付きの者達も、何か言いながら女王に従う。
「は?」
『え?』
『今、なんて言ったニャ?』
『け、結婚……だと?』
キャフもそうだが、3人にとっても晴天の霹靂であった。




