第106話 レスタノイア城へ
前回のあらすじ
女王様、登場。
翌日は晴れ渡ってスッキリした青空だった。
キャフがベッドで目を覚ました時は、もう昼に近い。
どうも昨日の打ち上げで飲み過ぎたらしい。えらく頭痛がする。
今日は特に用事も無いので、直ぐに起きる必要も無い。
昨日久々に魔法を発動したから体も怠いし、もう少し寝たい。
たまにはこんな日があっても良いだろう。
二度寝するかと再び布団を被ろうとした、その時だった。
「キャフ様、お客様です」
残念ながらタイミング良くノックされ、シーマが声をかけにくる。
もしかすると、機会を伺っていたのかも知れない。
有能過ぎる執事も考えものだ。
仕方なく着替えて、近くに置いてあった水を飲み扉を開ける。
「おはようございます。城の者が来ております。女王陛下がキャフ様に謁見をご希望だそうです」
「は? 何で?」
寝起き早々キャフは面食らった。
まさか、リム皇子の件か?
だがそうなると、来るのは警察か憲兵隊のはずだ。
それに今は脱獄犯として、お尋ね者になっているかも知れない。
背筋が寒くなる。
「おそらく、昨日の一件かと。褒美を与えるそうです」
違う件と知り、すこしホッとする。
やましい事があると心が荒むから、困ったものだ。
ただ罠かも知れず、おいそれと気軽に行く気になれなかった。
「うーん、断れないかな」
「それでは下へ行って、キャフ様ご自身が仰るべきかと」
「そうだな……」
やむを得ず一階に下りて、客間へと向かう。
そこには3人ほどの従者が待ち構えていた。
キャフを見ると直ぐさま椅子から立ち上がり、敬礼をする。
「おはようございます、魔導師キャフ殿。女王陛下が謁見をご所望です。一時間以内に用意して下さい」
丁寧ながら有無を言わさぬ口調だ。顔には出さないがテーブルにあるお茶と茶菓子の量から、大分前からキャフを待っていたのは明らかであった。これだとキャフも断りづらい。
「わ、分かりました」
再び二階に上がり、3人が寝てる部屋をノックして開けた。
今の時間なら起きてるだろうと、思ってのことだ。
「おい、お前ら、城に行くんだけど、っておいぃ!!」
キャフは驚き、また扉を閉めた。慌て過ぎてバタンと大きな音がする。どんな経緯があったのか知らないが、3人はベッドの上で服もほとんど着ずにあられもない姿で寝ていた。
「おい、お前ら! 服ぐらい着ろ!」
声をかけると、扉の向こうでモゾモゾと音がする。
少し経って、ラドルが出て来た。
「いや〜、昨日は飲み過ぎちゃったニャ〜」
「まあいい。どうも、女王に呼ばれたらしい。お前らも行くか?」
「あのお城に行けるニャんか? 大丈夫ニャ?」
ラドルと話をするうちに残り2人も服を着て、出て来た。事情を説明する。
「行ってみたいです♡」
初めてのイデュワだから、ミリナは興味津々だ。
「お前らも関係者だから大丈夫とは思う。じゃあ下で待たせてるから、ちゃんと用意して多少は見映えのいい服を着てこい」
「分かったニャ」
「了解」
再び客間に戻り、あと3人も随行可能か尋ねた。
「ええ、良いですよ。謁見するのは王の間ですから関係者も多数いますし、問題ありません」
という事で3人とも寮に戻ってシャワーを浴び、ドレスに着替えた。
魔導服はフォーマルなパーティーでも着るので、キャフはそれにする。
玄関前に待機していた豪華な馬車に4人は乗りこんだ。
「あ、通魔石も持って来ました。いざと言う時に為に身につけて下さい」
「分かった」
馬車が静かに動き始める。
「お〜楽ちんですニャ」
「また普段とは、違う眺めですね」
「少し前までは、いつもこんな馬車通いだったけどな」
「あ、また過去自慢! でも良いですよ。あんなに凄いんですから、自慢したくもなりますね」
「まだまだ。オレの本気はあんなもんじゃ無いぞ」
「うわ〜 イキってる」
慣れない高級馬車に乗り、緊張気味な3人を見てキャフはあえてイキった。
心無しか和んでいるので、少しは効果があったかも知れない。
「しかし、クムール軍はどうなっただろう?」
「ここからは爆発音とか聞こえないな。あの山の向こうで膠着状態かもな」
キャフが言う通り、クムール軍はあの街から攻めて来ないようだ。作戦通りの展開なのか、イデュワが陥落しなかった事による変更なのかは分からない。
「撤退すると思うか?」
「イデュワが落ちなかったからか? どうだろう。目的が読み切れない」
「そうだな、確かに」
「それにアルジェオン軍も、どれほどの強さか分からん」
「軍人どもは金儲けにご執心だ。あの威張り具合と内弁慶は相当のものだぞ」
兄が勤めているにも関わらず、フィカが軍を見る目は辛辣だ。
やはり愚痴を聞かされて実情を知っているようだ。
窓から外を見ると、昨日の災害の後片付けでどの家も忙しそうである。隕石の衝撃であちこち建物が壊れている。火災もあったから真っ黒に焦げて焼け落ちた家も多い。まだ焦げ臭いが人々の顔は明るかった。
道路も、ところどころ通行止めになっている。
エミュゼ通りも、一車線通行の箇所があった。
やがて馬車は、城の門をくぐる。
昨日の惨事があっても、威厳のある姿は変わらない。
被害は、そこまでないようだ。
「間近で見ると、やっぱり凄く綺麗で大きいですね」
「私も中に入るのは初めてだニャン」
正面玄関に付き、馬車から降りる。
だがそこから、予想外の光景が繰り広げられた。
降りたら直ぐに、10人ほどの兵士がキャフ達を取り囲み始める。
みなキャフ達を睨みつけ、尋常では無い様子だ。
「魔導師キャフだな」
中央にいる兵士が呼びかけた。隊長らしい。
「あ、ああ」
「諸事情があり、女王陛下との謁見と共に君への諮問も行われる事となった。何分、緊急事態だ。超法規的処置であるのは許してくれ」
「ありゃ、何ですかニャ?」
「分からん。ただ直ぐに逮捕ではなさそうだな」
キャフは訝しく思いながらも、命じられるまま王の間へと進んでいった。




