第010話 オーク達
前回のあらすじ
何とか男でいられたキャフだが、毒キノコを食べてしまい、苦しむ3人。
やっと回復したそのとき、オークが現れた!
3人とも、慌てて草叢に身を隠す。
幸い見つからなかったらしく、彼らに反応はない。
驚いたことに、オーク達は思ったより身なりが良い。
着ている服はキャフのより上質で、鼻ピアスもしている。
見る限り若い男ばかりで、人数は5人。何時もの仲間なのか気安げな様子だ。何かを見つけたらしく、ある木の根に集まると四つん這いとなり、あちこちを鼻で嗅ぎ回り始めた。
「何やってんだあれ? ホントに豚だな?」
キャフが呆れたように言う。
「初めて見るが、恐らく……」
フィカは、オーク達の行動を知っているらしい。
「恐らく?」
「トリュフを掘り出してるのだ」
「マジで!」
「あのトリュフにゃんか?」
2人は驚いた。ラドフは当然、一口も食べた経験が無い。珍味として知識があるだけだ。キャフは時々招待された夕食会で食べていたので、好きでは無いが味は良く知っていた。
そう言われると、オーク達の上質な身なりも納得がいく。恐らく人間との取引で荒稼ぎしてるのだろう。途端にオークへの憐憫の情は失われ、キャフもラドルも、獲物を狙う鷹の目付きになった。
「じゃあ、あいつらがトリュフ掘り終わったら、襲って奪うか?」
「そうだニャン! お金もお腹もたまるニャン!!」
空腹のせいか、善悪の判断がまったくついてない。
「まあ、待て。きっと近くに彼らの村がある。襲っても、恐らく倍返しがくるぞ」
フィカが2人をなだめる。
だが心ここにあらずのようで、2人はずっとオーク達を凝視している。
オークではなく、まるで金目の物か食糧を見ているようだ。
ブヒヒヒーー!!
すると一匹が喜びの雄叫びをあげ、トリュフを掘り出した。3人とも垂涎の眼差しでトリュフを見るうちに、無意識によだれが垂れていた。
ブッヒヒ!!! ブッヒーー!!
他のオーク達も、負けじと掘り出す。競争しているうちに、どんどんトリュフが積み上る。それを遠くから眺める3人も、よだれがどんどん垂れてきた。
ゴクリ!
「師匠、わたしもう駄目ニャ〜! 豚肉とトリュフしか、目が入らないニャ!!」
限界のように、ラドルが声を上げた。
ブヒ? ブヒブヒ??
するとラドルの声が聞こえたのか、オーク達は辺りを見回した。
「バカ!!」
静かにキャフが怒り、再び草叢の中に隠れる。
オーク達は立ち上がり、ブヒブヒと四方を警戒し始めた。
「どうする?」
草叢に紛れ込み遠目で彼等を偵察しているフィカが、ひそひそ声でキャフに語りかけた。
「勝てるか?」
「あいつらに勝てるとしても、さっき言ったように村から復讐されるぞ」
「あ、そうだな。他に手立てはあるか?」
「いや。魔導師キャフなら、お手の物では無いのか?」
「よしてくれ。今は魔法が使えないんだ。ただの中年オヤジさ」
自虐的なキャフであったが、その目は諦めていなかった。
一方オーク達は気のせいと思ったらしく、再びトリュフ探しに精を出した。
更に山のごとく積み上っていくトリュフは、かなりの量だ。
やがて掘り終えると持参した袋につめ、何処かへと歩き始めた。
「村に戻るようだぞ。つけてみるか」
「ああ」
フィカの提案にキャフも同意し、3人は尾行を始めた。
ブッヒッヒ〜♪ ブーヒヒヒ〜♪ ブーブーヒッヒ、ヒッヒッヒ〜♪
今日の収穫は大漁だったのか、5人とも上機嫌で鼻歌を歌っている。遠巻きに尾行する3人だが、空腹で目は血走っていた。必死の追跡もつゆ知らず、5人は村らしき場所に付いた。
「ここか……」
森を切り開いて作られたその村は、周りを木の柵で覆われていた。木は先端が尖っているのでよじ登るのは危険だ。入口に付くと警備兵らしいオークに挨拶をし、5人は中へと入る。ここから内部の様子は窺えない。
「かなり厳重だな」
キャフがフィカに言う。
「どうする?」
「ご馳走ニャ、ご馳走があの中にあるニャ〜!!」
「あ、バカ!」
2人が止める間もなく、ラドルはオーク村の入口へと走って行った。