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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第一章 魔導師キャフ、追放されて旅立つ
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第001話 追放

「魔導師キャフ、『不法術式』の罪により、本日をもって魔導師資格を剥奪する」


アルジェオン王国魔法協会の象徴、マジックタワー。その最上階にある《賢者の間》。王都イデュワを一望するガラス張りの広い部屋に、大きな円卓を囲み七賢者が座っていた。


 マジックタワーはアルジェオン王国中の魔法使いを統べる塔で、王国一の高さを誇る。そしてこの部屋は、魔導師以上しか入室を許されない特別な場所であった。


 いずれの賢者も漆黒の布地に金の刺繍を施した正装の魔導服を纏い、微動だにしない。頭をフードで覆い、各人の表情は窺い知れなかった。


 その彼等に挑むかのように、向かい合う魔導師キャフはフードを外し凛として立っている。くせっ毛の少し長い髪に鋭い目付きと精悍な顔立ちは、魔導師らしからぬ風貌だ。


 先ほど賢者トシェ代表が発した言葉は、キャフにとって死刑宣告に等しい。

 キャフは無表情だが震える拳は魔導服で隠され、賢者達が知る由もない。


「反省しているのかね?」


 ねちっこい声で、賢者トシェがキャフに問う。

 賢者トシェは高名だが意地が悪く、評判は良くない。

 因みに、アカハラやセクハラで訴えかけられた過去もある。


「反省ですか。私の罪はどう証明されたのですか?」 


 キャフは内心の怒りを隠し、つとめて冷静な口調で聞く。


 だが賢者達は、沈黙で返答した。


「この処罰が今後どういう意味を持つか、お分かりですか?」


 じれったそうに、キャフは問う。


 これも賢者達は誰も答えず、黙秘を貫く。

 得も言えぬ緊張感が、部屋を支配する。


「微罪のでっち上げが広まり、足の引っ張り合いで魔法界が没落しますよ」

「そんな事はない、みんな忘れるよ」


 賢者の一人が、言い訳がましく呟いた。


「そうですか? 私は忘れませんが」

「とにかく! お前は追放だ!」 


 キャフの余計な一言が、彼らを刺激したようだ。他の賢者達もざわめき始める。


「以上。これにて閉会とする」


 一方的な通告で会は終わり、キャフは退室を促された。


「分かりました。皆様に、アール神のご加護がありますように」


 そう言い残し、キャフは退室した。


      *    *    *


 罪状の『不法術式』が真実ならば、追放は当然の処罰である。


 この世界での魔法は、【魔法石】と【術式】、個人が持つ【魔素】の総合値で発揮される。特に魔素のエネルギーを変換する【魔法石】と魔法杖などで発揮する【術式】の組み合わせが、効率よい発動に重要だ。


 しかし魔法の動力源になる魔素は、人の精神力を用いている。そのため魔法石は、種類によって人の精神を脅かす副作用もあった。魔法の過剰使用で廃人になった例も、一人や二人では無い。


 だから安全のため、術式は協会認定の魔法術しか使えないよう管理されていた。更に協会員の個人識別コードで起動するため、魔法協会員に属する魔法使いしか発動できない。


 そして資格剥奪処分が下されると個人識別コードが無効となり、魔法が使えなくなる。



 アルジェオン王国は、魔法技術立国として大陸トップレベルの経済力を誇る。最先端の魔法を多数発明し、特許使用料を世界中から徴収することで利益を得ていた。


 キャフは、世界でも有名な魔導師であった。


《ガラクタ置き場》や《鉱山ダンジョン》から数多の魔法石や魔法術式回路を入手し、多くの魔法を発明してきた。若い頃に冒険者として参加したアースドラゴン討伐での活躍は、今でも語り草となっている。


 だから彼の黒い噂が広まるにつれ、噓か誠かは別に王国は何らかの処罰を迫られていた。信頼を失うと、王国の魔法産業が立ちゆかなくなる。早急な処分が必要であった。


      *    *    *


「やれやれ、やっと終わりましたな」 


 キャフの退室後、賢者達はフードを上げて顔を出し、思い思いに話をし始めた。


「ああいう厄介な奴は、早めに潰すに限ります」 

「これも、総ては第三皇子のおかげです」


「何が《畜魔石(チャージ・ストーン)》だ。あんなの、でっち上げじゃ」

「そうそう、私も弟子達に沢山研究させたのに、全然できませんでしたよ」


「これでアイツに取られていた分の予算が、私達に入りますよ」

「一万ガルテは欲しいな。クムール帝国が持ってる魔術杖調整器が必要なんだ。新大陸由来で最新型らしい」

「もちろん、良いですよ。魔術庁に申請しましょう」

「ありがとう。それだけでも、こんな面倒な会を開いた甲斐があったというものだ」


「しかし、あいつホント馬鹿だな。もうちょっとうまくやれば良かったのに」 

「そうですよね、処罰なんて、我々次第なんですから」

「土下座して特許料の二割ぐらい渡せば、何とかしてやったのにな」

「見返りを寄越さなければこうなると、分かってたんじゃないですかね?」


「ま、それまでの男だったのでしょう。じゃあ、何時もの店に行きますか?」

「良いですね。久々にあの娘に会いたいですな。ポロリも見たいし」

「おやおや、未だお若いですな。じゃあわたしは、モミモミしましょう」

「そちらこそ好き者ですな」「はっはっは」


 こうして賢者達はキャフと異なる専用通路から部屋を出て、街へと繰り出して行った。

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