運命
僕は自分で自分の正気を疑った。
神であるこの僕が、初対面の少女に向かって、僕を殺せと言ったんだ。
少女は少しだけ目を見開き、驚く素振りを見せた。
灰色の瞳が少し揺れた。
また暫く間が空き、少女が先に動いた。
自分で自分に驚き動けないでいる僕に、ゆっくり近づく少女は、その冷たく細い綺麗な指で僕の首をそっと撫でた。
少女は冷たい指先で僕を軽く押し、僕はそれに抵抗せず二人して倒れ込む。
少女の顔が近づく。
お互いの吐息が混じり合う。
鼓動が交錯する。
少女は優しく僕の首を撫でながら、僕の耳元にそっと口を近づけ、静かにつぶやいた。
「どうして、、、頬を濡らしているの?」
そのときの僕は、少女がなぜこんなことを聞いたのか、少しも理解できなかった。
だってそうだろう?
涙を流しているときなんてきまっている。
「泣きたいほど怖くて、
泣きたいほど悲しくて、
泣きたいほど嬉しいからさ」
僕は自分の顔を見ることができないけれど、余程複雑な表情をしていたんだろうね。
少女は少し眉をひそめた。
首から手が離れ少し残念に思ったが、今度は少し起き上がり、僕の頭に手が触れた。
優しく、赤子をあやすように、その手は僕の髪を撫でつけた。
僕は少女を見て驚いた。
心底驚いた。
少女も泣いていた。
二人の額が触れ合う。
今度は僕が問うた。
「なぜ、泣いているの?」