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File5―3 その男、転生者につき 〜星空の下で〜

よければぜひ評価や感想など、よろしくお願いします!

 〜レフト・ジョーカー〜


 俺と三太は、簡単に言えば犬猿の仲ってヤツだった。

 今もなお、俺も三太も互いを互いの視界に入れないように、そっぽを向いて鼻息荒くふんがふんがしていた。

 しかし……少し熱くなりすぎたな。水でも飲んで頭を冷やそうかと思い、俺は席を立つ。

 だが、そんな矢先、俺の脇から一杯の水が差し出された。


「レフトくん、はいこれ」


 俺に水を差し出してくれたのは、エルだった。

 エルは少しだけ苦味を伴う笑みを浮かべたまま、水の入ったコップを机の上に置いた。キンキンに冷えているのだろう、コップの表面には既に水滴が伝っていた。

 三太の幼馴染であるエルは、今俺達が繰り広げていた喧嘩を見てどう思ったのだろうか……。俺は何も考えずに憤慨していた自分を恥じた。


「悪かったな、エル」


「ん、何が?」


 俺の謝罪に、エルはとぼけたように笑う。

 俺はエルから貰った水を一口飲み、謝罪を続けた。


「お前の幼馴染が、お前と同じようにこの世界に来ちまったってのに……なんていうか、俺、自分の事ばっか考えて……勝手にキレてさ。本当に、こういう時、自分が嫌になるな」


 カラン、とコップの中の氷が音を立てた。

 俺はその音を聞きながらコップを握る力を強め、ため息を吐いた。


「本当に、何がハードボイルド探偵だよ……って感じだよな」


 深い、深いため息。頭もなんだか重く感じてしまい、深く深く項垂れた。

 だが、そんな風に落ち込む俺の後頭部を、エルは何故か掛け声と共にチョップした。


「ホワチャー!」


「痛てっ!?」


 俺は呻き声を上げた。そしてすぐさまソフト帽を被り直して立ち上がり、いたずらっぽく笑いながらポニーテールを揺らすエルの額に、強めにデコピンを食らわせた。


「何すんだよオイ」


「あいたっ! デコピンは酷いよレフトくん!」


 額を抑えながら、こちらを涙目で見上げながら言い返してくるエル。

 お前からやったんだろーがよ……。

 俺は自分の頭がまた熱くなり始めている事を自覚し、立ち上がったまま水を三口ほど飲んだ。

 冷たい水が喉元を通り過ぎ、胃の中に辿り着いてなお、その冷たさを感じられる。いい感じに頭も冷えそうだ。

 俺は落ち着きを取り戻し、未だにプンスカ怒っているエルにため息を吐いた。


「……なんで急に、チョップなんかしたんだよ」


 するとエルは、先程までの怒り顔を収め、にっこり笑って俺に優しく語りかけた。


「レフトくん落ち込んでたから。だから元気づけてあげようかなーって」


「……それでチョップかよ」


「あはははは、しょーがないよ、うんうん、しょーがない」


「いやしょーがなくはねーよ」


「ねぇ、レフトくん」


 唐突に、エルは話すトーンをお気楽な感じから真面目な感じに変えた。

 俺も突然の空気の変容に、少しだけ警戒してエルの動向を観察した。

 だが、エルはいつもと同じような優しい声音で、俺の額に指をピストルの形にして当ててきた。俺の方が背が高いので、若干腕とかが辛そうだ。


「大丈夫だよ、レフトくん」


「は? 何がだよ」


 突然のエルの発言に俺は眉をひそめながら座った。

 俺が座った事により、俺の額に指を当てていた腕が楽になったエルは、薄く笑いながら俺の質問に答えた。


「さっき、俺はハードボイルド探偵じゃないーって、ブツブツ言ってたでしょ?」


「……いや、まぁ。うん」


 うわ、なんか恥ずかしいな。落ち込んでいる所を掘り返されると、背中の辺りがゾワゾワする。

 エルはニコニコと笑いながら続けた。


「大丈夫だよ。まぁ、ハードボイルドの部分は出来てないかもだけど……探偵の部分は、ちゃんと出来てると思うよ」


「……あ、もしかして慰めてくれてんの?」


「そうだよ〜」


 手を振ってエルは答えた。

 ……慰めてくれてる割には、若干引っかかるが。ハードボイルドの部分は出来てないかもってなんだよ。出来てるし!

 俺はその怒りはひとまず飲み込んで、エルの話を聞く。


「今、レフトくんが地下の事務所から喫茶店に戻ってきてくれたのだってさ。サンちゃんから、この世界に来た時の話を聞こうとしたんでしょ? 私の依頼のために。サンちゃんの事、あんまり好ましく思ってなくても、私の依頼のためにこっちに戻ってきてくれたのは、すごく探偵出来てると思うよ」


「……別にそんなんじゃないって。三太から話を聞くのだって、ライトに先越されてたし。やっぱ、それほどじゃないって」


「ううん、ちゃんと出来てるよー。私が保証してあげるよ。キミに依頼した、キミのお客様であるこの私が!」


 突然胸を張り始めたエル。

 その自信満々な態度を見て俺は、なんだかおかしくなって、つい吹き出してしまう。


「ふはっ」


「……急に笑って、何? 私真面目に言ってるんだけどー」


 口を尖らせて文句を言うエル。それがおかしくて、また吹き出してしまう。


「いや……厄介な依頼人を抱えちまったなぁって思って」


 俺は笑いを堪えながらそう言った。

 その直後、カランカラン、と喫茶店の扉に付けられたベルが鳴る。


「こんにちはー! イラ・ペルト出勤です!」


 いつもよりもなんだか一際元気なイラの声が、ベルの音と同時に響く。

 俺は木製のテーブルに頬杖をついて、また笑った。


「厄介な依頼人の次は、厄介な助手が来た」


「ちょっと、なんですか厄介な助手って! 出勤早々、探偵さん酷いです!」


 イラが指を突きつけながらこちらに歩み寄ってきた。

 やれやれ……今日もまた、愉快でうるさく騒がしい、楽しい一日になりそうだ。

 俺はそう思いながら、イラの頭を拳で軽く小突くのだった。

 この後、イラにも三太の説明をしたり、逆に三太にこの世界の事とかを話したりしたのだが、特に他愛もなく終わったので、その辺は省略する。



 ****



 三太に色々と説明をしながら、俺達は楽しく時を過ごした。

 そうしているうちに、今日という日は特に何事もなく、いつも通りの騒がしさで終わった。

 ……一つだけ変わった事は、また我が家の住人が一人増えた事だ。リナリアの次に、三太が新しく我が家で暮らす事になった。

 ……流石に大所帯になってきたな。まさか一月経たないうちに、三人も住人が増えるとは。

 俺はちょっと暑苦しいので、夜風を浴びに外に出た。


「ふぃーっ、風がいい感じに気持ちいい……」


 俺はうんと伸びをした。

 ……あれ、屋根の上に誰かいる。

 俺は目を細めて屋根の上に座る人影を見た。あれ……三太じゃねーか。

 俺は少しだけ迷った後、三太と同じ屋根に登るためにハシゴを立てかけ、昇っていった。


「……よう、三太」


 三太は屋根に寝転がって、空を眺めていた。満開の星空に月が妖しく浮かぶ、綺麗な夜空を。

 三太は空を眺めたまま、視線を移さずに応えた。


「何の用だ」


「用がなきゃ、屋根に昇っちゃいけねーのか」


「少なくとも、用がなきゃ昇らねーよ屋根なんて」


「……そりゃそうだ」


 一本取られた気分。少しだけ悔しい。

 俺はその悔しさをひとまず飲み込み、寝転ぶ三太の隣に座った。

 三太は眉をひそめて、ようやく星空から視線を外して俺の方を見た。


「……なんだよ」


 三太はぶっきらぼうにそう言った。

 俺はその三太の質問は無視し、逆にこっちから問いかけた。


「何見てたんだ」


「空」


 端的な答え。

 俺はその答えを受け止め、掘り返す。

 

「なんでまた空なんか見てんだよ。似合わねーぞ」


「うるせぇ」


 三太は俺からそっぽを向くように寝返りを打つ。

 俺は向けられた三太の背中に、率直な言葉をぶつけることにした。


「おい、三太」


「…………」


「無視かよ。まぁいいや、聞いとけよ。……俺はお前が嫌いだ」


「……それを言いにわざわざ来たのかよ。俺もお前の事嫌いだ」


「違ぇよ。続きあるから、最後まで聞けって」


「……手短にな」


 俺は屋根の上に落ちていた萎びかけの葉っぱをつまみ上げ、夜風にその葉を流した。

 その葉は夜風に吹かれ、くるくると回りながら、遠くまでゆっくりと落ちていった。


「俺はお前が嫌いだ。……だけどな、これからしばらくの間、一つ屋根の下でお互い暮らすんだからさ。仲良くなれるなら、やっぱ仲良くなりたい」


「……まぁ、お前らと仲悪くなると、映瑠が余計な心配するからなぁ。俺もそれは避けたい」


「お前やっぱ、エルの事好きなんだな」


「……うっせぇ」


「じゃあ、決めるか。ここで、俺達の今後の関係性」


 俺はそこまで言うと立ち上がり、三太の手を掴み上げ、奴も無理やり立ち上がらせた。

 お互いに目を合わせて、視線をぶつけ合う。


「俺達は互いが互いを嫌い合ってる。こればっかは仕方がない」


「そうだな」


「けど、そこで仲違いするのは良くない」


「わかってる」


「だから、お互いを嫌い合ったままでいいから……今日みたいな仲違いは控えようぜ。俺はお前を信じる事にする。だからお前も俺を信じてくれ。それでいいなら、これからよろしく。三太」


 俺は右手を差し出した。

 三太はその俺の手を見て、鼻を鳴らしながらではあったが、強く握手を交わした。


「ああ。俺もお前が嫌いだが……信じてやる。よろしくな、レフト」


 強く、強く握手を交わす。やがてそれは握力比べのようになり……お互いに意地の張り合いになる。

 やがて、二人とも手を握り潰される激痛に悶絶し始め、そしてそれがおかしくなって同時に噴き出した。


「バカみてぇ」


「お前もな」


 俺も三太も不敵に笑い合った。

 それがまたなんだかおかしくなり、普通にゲラゲラと笑い出す。そうしてひとしきり笑った後、三太は再び俺の手を取った。


「……これからよろしくな」


「ああ」


 そして俺達は、ハシゴを下って我が家に戻る。

 何気ない雑談を交わしながら、俺達はこれからの生活に期待を寄せ始めていた……。



 ****



【小話】〜イラと三太〜


「イラちゃん、こちら、私の元いた世界の幼馴染の、サンちゃんこと出門三太くんです」


「……うっす。三太だ、よろしくな」


「あ、はい、こちらこそよろしくお願いします。私はイラ・ペルトっていいます。……えっと、三太サンタさんでいいですか?」


「……クリスマスって感じだな」


「あはは、サンちゃんメリクリ〜……って、この世界にクリスマスとかあるの?」


「あ、はい。ありますよ。サンタさんもいますね」


「「マジか!」」


「いや、エルさんも三太さんも、そんな声合わせて驚きます?」


「いやだっておかしいだろ……キリストの誕生日だろ、クリスマスって」


「この異世界にもキリストがいた……なわけないし!」


「はぁ……その、キリストさん? って人は私は知りませんけど……」


「なら、この世界のクリスマスってどういう位置づけなんだよ。えっと……イラ、でいいか?」


「あ、はい、好きに呼んでください三太さん。えっと……クリスマスがどんな記念日かって事ですか?」


「ああ」


「……あれ? よく考えたら、私も知りません。すみません二人とも、今度詳しく調べときます」


「あ、いやいいよイラちゃん、自分達で調べるから」


「ああ、映瑠の言う通りだ」


「エルさん……三太さん……すみません、ありがとうございます」


「しっかし、これからどうなるんだろうな俺達……」


「まぁ、何かが起こるまでは異世界ライフ楽しもうよサンちゃん」


「……まぁ、それもそうだな」

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