File5―2 その男、転生者につき 〜犬猿の仲〜
〜出門 三太〜
まず俺はライトに、この世界に来るまでの経緯を話した。
行方不明になってから数週間は経つであろう、映瑠の捜索をしていた事。
そうしていたら、白衣を着た奴らが突然俺を囲んだ事。
そして、『映瑠がいる場所に連れてってやろう』と誘いかけ、俺を強引に眠らせた事。
そこまでをとりあえず話した。
一通り俺の話を聞いたライトは、顎に指を当てて考え込むような仕草をした。
「ふむ……白衣を着た人物か。そいつらは何人くらいいた?」
「えーっと……大体一〇人いるかいないか、そんくらいだ」
「ふーむ……。十中八九、その白衣の人物達とエルちゃんを攫った奴らは同一だと考えていいだろうね」
ライトはそう言うと、俺の目を見て再び質問をした。
「で、それからどうなった?」
「それから?」
「ああ。白衣の人物達に眠らされて……それからの話だよ」
「ああ……そういうことか」
そこからはまだ話してなかったっけな。
俺は腕を組んで、あの時の事を思い出した……。
****
〜数時間前 出門三太〜
俺は目を覚ました。目の前に広がるのは青い空に白い雲。辺りを見渡すと、広く続く緑の平原が……。
あれ……俺、確か白衣の奴らに眠らされて……。
鈍く回る頭で俺は考える。
すると、俺の足を何かがつつく感触が。
「なんだ?」
俺は訝しげに足元を見た。
そこには――ウサギがいた。ただし、額からは一本の鬼のような角が生えている。ユニコーンのウサギ版、みたいな見た目。こんな生物、見たことねーぞ。
俺は目を見開いてそのウサギを見つめた。
「まさか……UMAか。未確認生物か」
俺はそういう都市伝説的なオカルトは結構好きなタイプだ。UMAとかも、ネットで色々調べてはニヤニヤしてるタイプ。
つまり何が言いたいかと言うと、今目の前にいるウサギは、俺にとって垂涎の的ってことだ。
俺は両手をわなわなと震わせながら、そのウサギに飛びかかった。
「待てやウサ公!」
俺は叫びながらそのウサギを追いかけた。
ウサギを追うために平原を駆け回ると、他にも沢山の珍しいものが見えた。
ガチのユニコーンに、緑色をした二足歩行の豚、果てには遠くの空にはめっちゃでっかい鳥なんかも見えた。珍しいと思ったのは、ロケットのような形で空を飛ぶパンダや甲羅が時計の形をした亀、掃除機のように獲物を吸い込むライオンのような生物だ。
俺はいつしかウサギのことなんて忘れて、周りの景色を見ながら興奮しまくっていた。
「うわっ、やっべぇ、アレちっせぇけどドラゴンじゃねーの!? うわ、あそこにはでっかいカメレオンみてーなやつもいるぞ!」
俺はそのカメレオンのいる方向に走っていった。
これはカメレオンに近づいていくにつれて気づいた事だが、そのカメレオンの周りには沢山の人影が見えた。
そいつらは、そのカメレオンに何やら祈りを捧げているようで。
「なんだアイツら。なんかの宗教か」
俺は訝しげに目を細めた。
と、その時。
目の前に突然、大きな扉が落ちてきた。
「うおあっ、なんだぁ!?」
俺は目を見開いてその扉をマジマジと見つめた。……赤い扉。特に害は……なさそう、だな……?
俺はそれを確認し、そして、恐る恐る開いてみた。
「……うおっ」
その扉の先には、街の景色が広がっていた。
なんていうか……ファンタジー的な。世界史の授業は寝てるからよくはわからんが、中世ヨーロッパ的といえばなんとか伝わるだろ。
俺は目の前の光景にテンションが上がる……と同時に、少しだけ恐ろしくなった。
もし、元の世界に帰れなかったらどうしよう……という不安だ。
もしやこれは……異世界転生、もしくはタイムスリップのどれかだろうか……。とにかく、一度誰かから話を聞かなければ。
俺はこれから先への不安に包まれながら、追いすがるように目の前にあった喫茶店の扉に体当たりしたのだった……。
****
「……んで、体当たりした喫茶店がここ。とりあえずこんなもんで、俺の大体の経緯はわかったろ?」
俺はサービスで置いてあるガムシロップの容器を積み上げながらため息を吐いた。
しっかしこのガムシロ……味も容器も、俺達の世界と全く変わらない。本当にここ異世界かよ。
俺は積み上げたガムシロタワーを指でつついて崩した。
「っつかさ! エルもだけど! 体当たりして飛び込んでくる必要はねーだろがよ!?」
と、突然レフトがずずい、と俺に指を突きつけながら現れた。
俺はその突き出された指を掴み、逆方向に曲げながら立ち上がった。
「なんだよレフト。地下に帰ったんじゃなかったのかよ」
「いだだだだだだだ指折れる指折れる離せ離せ離せ!?」
悶絶するレフトを見つめて満足した俺は、手の力を緩めて指を解放してやる。
するとレフトは速攻で俺の手から己の指をひったくるように回収し、涙目でふーふーと息を吹きかけていた。
やがて痛みが引いたのか、レフトは人差し指を伸び曲げしながら俺を怒鳴りつけた。
「指折れたらどうすんだよ! 後、地下に帰ったんじゃなかったのかって……人をモグラみたいに言うんじゃねーよ!」
「ああ!? うっせーなバーカ! いちいち細けーんだよ!」
売り言葉に買い言葉。俺とレフトは再びいがみ合った。
俺はギリギリと睨みつけながら奴と取っ組み合う。
「おいゴラ、調子乗ってんじゃねーぞレフトテメェゴラ」
「その言葉そっくりそのままお前に返してやるよ」
「まぁまぁ仲良くしようよ……」
睨み合う俺達の間に映瑠の仲裁が入るが、お互いにいがみ合ったまま譲らない。
やがて、俺とレフトは互いに視線を外し合い、鼻息荒くそっぽを向いたのだった。
「お前なんかと仲良くなれる気がしねぇ!」
「こっちのセリフだ!」
もはやどっちがどっちのセリフを吐いたのかもわからない。それぐらいギスギスした空気の中、俺の異世界生活は幕を開けたのだった……。
****
【小話】〜その頃のイラ〜
「あら、イラちゃんおはよう〜」
「あ、おはようございます、おばさん!」
「今日も元気ねぇ〜。おばさんも年にしては元気なの、イラちゃん家の近所に住んでるから、イラちゃんからパワーを貰ってるからかもねぇ」
「あはは……そんなにですか?」
「あ、そうそう聞いた? イラちゃん」
「へ? なんですか?」
「今、四月で桜の季節でしょ?」
「え、まぁはい。それが?」
「……何故か、桜と一緒に咲いてるんだって」
「何がです?」
「彼岸花」
「え、彼岸花って秋の花じゃ……」
「ね。不思議でしょ? 『エミルの丘』の桜よ、暇なら一度見に行ってみたら?」
「……いいですね。覚えときます。ありがとうございます!」
「いいのよ別に。それじゃ、行ってらっしゃい〜」
「行ってきまーす!」




