File5―1 その男、転生者につき 〜レフト×三太=?〜
〜レフト・ジョーカー〜
俺達はおやっさんの喫茶店のテーブル席を囲んでいた。
俺とライトの座る向かい側に、金髪野郎、エル、リナリアが座っている感じだ。ちなみにおやっさんは厨房。俺達全員(ライト除く)にコーヒーを入れてくれたのもおやっさんだ。
俺は目の前に座る金髪野郎を睨みつける。
「……で? このカッコつけ金髪野郎が」
俺はカフェオレを啜りながら、唾棄するようにエルに聞いた。
エルはミルクティーを一口飲み、苦笑いを浮かべながら頷く。
「うん。私の、元いた世界の幼馴染。『出門 三太』。私はサンちゃんって呼んでるよ」
俺の横に座るライトは、興味深いと言わんばかりに身を乗り出し、金髪野郎……三太、だっけ? その男をジロジロと見つめていた。
三太はブラックアイスコーヒーをストローから啜りながら、俺を睨みつけた。
「おい映瑠。このカッコつけ茶髪野郎が……」
これまたエルは、苦笑しながら答えた。
「あ、うん。『レフト・ジョーカー』。この世界に放り出されて天涯孤独だった私を、ここに住まわせてくれたんだよ」
よせやい、照れるぜ。
俺は少しだけ機嫌を良くした。我ながら単純である。
だが、三太は身を乗り出して対面に座る俺にガンを飛ばしてきた。
「おい……レフト、だっけか? お前……映瑠に何にもしてねーだろうな?」
俺もまた身を乗り出して言い返した。
「はぁ? 何にもって、例えばなんだよ」
「そりゃお前……色目使ってねーか、とかだよ」
「使うわけねーだろ……ってか、なんだその質問。もしかしてお前、エルの事好きなのか?」
俺はニヤリと笑った。
そして三太は、俺がその質問をした瞬間、目に見えるようにタジタジとなり、乗り出していた身を引っ込めた。
あ、やっぱコイツエルの事好きなんだな……。
俺は内心ガッツポーズを取った。よっし、コイツの弱点を見つけた――そう、思っていたら。
エルが突然、手を叩いて爆笑しながらその事を否定してきた。
「あっははははは! ないないないない! サンちゃんが私を? ないよ全然! 私達幼馴染だし……ないない! あはははははははは!」
足をバタバタとさせながら大ウケして否定するエル。
何度も念押しするように好意を否定するエルの横に座る三太は……何ていうか、その、哀愁が漂っていた。
やっぱりコイツ、エルの事好きなんだろうな……。けど、長い間エルはこんな感じで全然好意に気づいてくれてねーんだろーな……。
短い間ではあったが、エルと三太の関係性が窺えた。何ていうか……切ねぇ。
「おいやめろ……同情の目線を送るんじゃねぇ……」
俺がつい同情の眼差しで三太を見つめていたら、三太は肩を震わせながら歯を食いしばっていた。
でもしょうがないって。だって……切ねぇもん。
未だに三太の隣で『ないわー!』と笑い転げているエルを見て、俺は物凄く申し訳ない思いに包まれた。
「映瑠……とりあえずその辺りで、笑うのやめなさいよ」
リナリアも凄い複雑な表情を浮かべながら、エルをたしなめていた。
ライトは……うわ、すげぇ興味無さそう。早く話次に進まないかな、みたいな顔してる。本当にコイツは……。
「とりあえず、話を次に進めるか……」
未だにクスクスと笑うエルを他所に、俺と三太はコーヒーを仲良く啜ったのだった……。
****
「……で? これからどうすんだよ」
俺は空になったコーヒーカップを眺めながら、三太に聞いた。
三太はその俺の問いに対して、首を傾げて答えた。
「……どうすりゃいいんだ」
「おいおい、大丈夫かよそんな調子で」
「仕方ないだろ……こちとら異世界転生なんて初経験なんだよ。どうすりゃいいのか、なんてわかるわけねーよ」
「む……確かに」
俺は腕を組んで唸った。
確かにそれは事実だ。頭空っぽみたいな見た目して、結構口が達者だなこの金髪野郎。
俺は、三太が飲み終えたアイスコーヒーのコップに伝う水滴を見つめながら考える。
「……お前もここで住み込みでバイトなりなんなりする……しかないよな……?」
俺は不服だったが、仕方なくそう呟く。
周りの皆もうんうんと俺の提案に頷いていた。
最後に三太にもそれでいいか確認すると、三太もそればかりは仕方がないと言ったような口調で了承した。
よし、それじゃこれで決まり……でいいよな。
「じゃあ、三太はここで住み込みバイトでいいか? とりあえずおやっさんの喫茶店で」
こうして三太の今後に関しては纏まったのだった。
俺的にはコイツを住まわせるのはとても嫌だったが、天涯孤独な奴を世界に放り出すほど人間が腐ってもいない。
俺は最後に、三太に顔を寄せて思いっきり威嚇した。
「めっちゃこき使ってやるからな、文句言わずに従えよ」
しかしその俺の威嚇に三太も噛み付いた。
お互いに歯を剥き出しにしながら睨み合う。
「なんだよレフト、お前その態度は……何様だよ?」
「お前こそ、これから住まわせてもらうってのに歯向かっていいのか?」
「お前絶対いつか痛い目見せてやるからなゴラ」
「お前やっぱ出てけ、天涯孤独にこの世界を生きていけ」
ギリギリと睨み合う俺達を『やーめーてー!』と止めるエル。
こうして、最悪の形でこれからについての話し合いは終わった。
****
〜出門 三太〜
「ケッ、なんだあの茶髪野郎」
レフトが地下にあるという探偵事務所に戻って行った後、俺は鼻息荒く、そう映瑠に愚痴った。
コップに入っていた、アイスコーヒーの黒色に濡れた氷を一つ口に含み、噛み砕く。
あーイライラする。なんだあのカッコつけ男。
映瑠は苦笑しながら俺をなだめた。
「まぁまぁ……レフトくんも、根はいい人なんだよ?」
「いーや、それは嘘だな。それか、猫被ってんだよ」
「そんなことないよ〜」
「あるんだよそれが」
俺はコップに入っていた氷を全て食い終わってしまう。
空になったコップは、映瑠の隣にいたとてつもなく巨乳な美人が回収してくれた。なんだあの乳……ヤバすぎるだろ。
ふと俺は、映瑠の事について気がかりな事があったのを思い出した。
「おい映瑠」
「何?」
少しだけ俺は言うかどうか迷い、そしてやっぱ言う事にした。
言わなきゃどうにもならないしな。
「お前さぁ……ちゃんと、薬飲んでるか?」
その言葉に映瑠は顔を伏せた。
そして、ゆっくりと唇を持ち上げる。
「……うん。ちゃんと、飲んでるよ」
「ストックはあんのか」
「うん。後……数ヶ月分は」
「数ヶ月か……半年くらいか」
「そんなもんかな」
「……早く帰んなきゃな。元の世界に」
「……うん」
そこで俺達の話は終わった。
映瑠は、中学の頃からとある薬を飲んでいる。その薬を欠かさずに飲まなければ、映瑠は……。
ふと、俺は窓から空を眺めた。そこには、俺達の元いた世界とは全く変わらない青い空が広がっていた。……少しだけ、どんよりとした雲が多い。そんな気がした。
と、その時。
「ちょっといいかい、えーっと……三太くん、でいいかい?」
緑色の髪に目をした男が、俺に話しかけてきた。
確か、レフトの隣に座ってた……ライト、だっけか。
俺はぶっきらぼうに答えた。
「呼び捨てでいい……っつか、呼び捨てにしろ。くん付けは気持ち悪ぃよ」
「ふむ。じゃあ、三太。キミに聞きたい事がある。どんな経緯でこの世界に来てしまったのか。それを聞かせてくれるかい?」
「……なんでだ」
「僕らはエルちゃんに依頼されてるんだ。『元の世界に帰る方法を探してくれ』と。その手がかりにしたい」
俺の隣で映瑠は『そーいやそうだった!』と目を丸くしていた。
最後にライトは笑いながら付け足した。
「キミにも無関係な話ではないだろう。それに隠すような話でもない……話した方が得だと思うけど?」
「……まぁ、そうだな」
俺は話す事にした。
この異世界に来た理由を……。
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【小話】〜その頃のイラ〜
「それじゃあママ、行ってきます!」
「はいはい、行ってらっしゃいイラちゃん」
「パパも、行ってきます!」
「……おい、イラ」
「何ですか? 怖い顔して」
「お前のその上司の探偵……本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫……だと思いますけど」
「お前はこんなに可愛いんだ。色目を使われていないか、とか不安でなぁ……」
「あー……ないですよそれは。ないです。ない」
「あらイラちゃん、急にしょんぼりし始めたわよ、あなた」
「な……まさかイラ、お前まさかその探偵の事が好きなんじゃないか!?」
「!? ないです! それこそ全くないです!?」
「くっ、やはりこれは一度、その探偵と話し合いをした方が良さそうだな……!」
「落ち着いてくださいパパ! 後、話し合いに牛刀は必要ありません!?」
「あーもう、イラちゃん、私がパパ抑えておいてあげるから、今のうちに行ってきなさい」
「あ、ありがとうございますママ! 行ってきます!」
「気をつけてね〜」
「あっ、おいイラ! 気をつけろよ!」
「はいはーい! 気をつけまーす!」




