File4―32 怪力強盗と血色の悪魔 〜好機はいつも突然に〜
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〜レフト・ジョーカー〜
「リナリア!」
俺は白い巨人の肩の上にワープしてしまったリナリアを見上げ、愕然とした。
なんか杖が喋ったかと思えば、突然煙を噴出してリナリアを巨人の肩の上にワープさせてしまったのだ。自分で言ってても訳が分からん。
俺は白い巨人を睨みつけた。
「クソッ……どうすりゃいいんだよアレ」
そんな俺の疑問に、バーン隊の会計兼参謀であるリキラが前に出て、眼鏡をクイッと上げながら答えてくれた。ちなみに俺やライトはバーン隊全員と面識がある。
常にマスクをしている吸血族のキャシィが、俺の左足の怪我に気づき、後輩である森人族のフララに回復魔法をかけさせた。俺の左足の傷はすっかり癒えた。二人に感謝だ。
リキラは俺の横でメガネを上げながら、俺に今の自分の巨人に対しての見解を語る。
「ジョーカーさん。あの白い巨人には知性はないと思われます。人質を取るような真似はしないかと」
「でもよ……近すぎるだろアレ。ヤバいって」
「大丈夫。騒がなければ気づきもしないでしょう」
そうか……そうなのか。
とりあえず俺はリナリアに大振りなジェスチャーで『静かにしてろ』と伝えた……のだが。
『うおおおおおデッカイなこの白いの! ワイも燃えてきたわ〜!』
……鋼の炎杖が、めちゃくちゃやかましく騒ぎ立てていた。
オイオイ……そんなに騒いだら。
『ウ?』
ほら気づかれた! 白い巨人、肩の上に何か乗っかってんの気づいたよ!
俺は念の為、リキラに再び聞いてみた。
「なぁ……アレ、本当に大丈夫?」
「……大丈夫じゃない方に、五〇ウィル賭けます」
「大丈夫じゃねーのかよ! つか、憲兵が自国の王女のピンチに金賭けんなよ! ……後、五〇ウィルってケチくせぇな!」
「仕方がないでしょう! それにまず私だって、鋼の炎杖が喋る事自体知らなかったんですから!」
「クソッ、役に立たない参謀だな!」
「本業は会計ですからね私。うちの隊には猪突猛進しか作戦が思いつかない残念な人ばかりだから、仕方なく参謀も兼業してるだけです」
『おいリキラ今なんつった!?』
リキラ以外のバーン隊総勢一一名が声を揃えてリキラに突っかかる。
俺はそんな奴らを無視し、ライトの隣に移動した。
「リナリアを助けに行く」
「わかってる。援護するよ」
さすがライト。相棒なだけあって、俺が何も言わなくても何をするかわかっていたようだ。
俺達二人は阿吽の呼吸で白い巨人へと走っていった。
俺達に続き、他の奴らも駆け出す足音が聞こえる。
ちなみにだが、タレイアさんやイラ達には国王様達の避難の方に従事してもらっているためこの場にはいない。成り行きでそうなった。
さて……まず、白い巨人の注意をリナリアから逸らさなければ。俺は懐から、ページを破いて放り投げると白い鳥になるメモ帳である『メモ鳥』を取り出した。
ページを五枚ほど破き、白い巨人に向かって放り投げる。
すると、宙を舞う白い紙は伝書鳩サイズの白い鳥に変わり、白い巨人の眼前まで飛んでいった。
『ウガ?』
白い巨人はメモ鳥に気を取られ、己の肩の上のリナリアから視線を外す。リキラの言う通り、あの巨人にそこまでの知性はないようだ。
俺はそれを確認し、更に懐から探偵道具を取り出そうとしたのだが……しかし。
『ウオオオオオオオオ!』
メモ鳥を鬱陶しく思ったのだろう、白い巨人は突如咆哮し、電撃を辺り一面に放出し始めた。
俺の近くに電撃が落ち、俺とライトはその衝撃でゴロゴロと地面を転がされた。
ヤバい威力の電撃だ……。これ、肩の上のリナリアもヤバいんじゃ……!?
「……って、アレ?」
しかし。俺が巨人の肩の上を見た時には、既にリナリアはいなかった。
……何で?
俺は辺りを見渡した。屋根の上や木の上など、様々な所を見移ろい……そして、白い巨人の足元辺りを見る。
するとそこには、タレイアさんに抱き抱えられるリナリアの姿が。
「あっ、そうか。リナリアは【神子族】だったんだっけ」
俺は納得し、手をポンと叩いた。
神子族の種族固有能力は【召喚】。天人族を親に持つ神子族は、己の親の『使い』を文字通り呼び寄せることができる。
今回の例で言えば、リナリアの親は天人族のアフロディーテ様だ。そしてアフロディーテ様の『使い』がタレイアさん(他にも数名いるらしい)。だから、アフロディーテ様の娘であるリナリアもタレイアさんを召喚できる。
まぁ要するに、自分の親族である神様の『使い』なら誰でも呼び寄せることができる能力である。
タレイアさんは白い巨人の放つ電撃を、リナリアを抱えながらも華麗に避けて俺達の方に戻ってきた。
「全く……突然呼び出さないでくださいよお嬢様」
「いいでしょ別に。貴方はお母様の使いなんだから」
「まぁ……そうなんですけども」
そんな会話を交わす二人に、俺とライトは駆け寄った。
他の奴ら――例えば指名手配犯組やバーン隊などは、真っ直ぐに白い巨人へと向かったが。
「大丈夫か?」
俺はリナリアにそう聞いた。
リナリアは少し顔を赤くしながら、タレイアさんに下ろしてもらい、咳払いを一つ、俺から顔を背けながらぶっきらぼうに答えた。
「……大丈夫」
「本当か?」
「本当に大丈夫だから」
「なら良かった」
俺はほっと一息ついた。
しかし、ライトがそれに首を傾げる。
「……おや? リナリア様、一つ質問してもいいでしょうか」
「何よ。えっと……ライト、でいいかしら」
「あ、はい。ライトです。えーっと……鋼の炎杖って、どこに行きました?」
「……あれ?」
ライトのその質問に、リナリアの頬から一筋の汗が流れた。
タレイアさんも顔色が突如悪くなり、その場に固まった。
……あれ? なんかヤバい気がする。
俺達は再び白い巨人の肩の上を見た。
そこには、案の定。
『ウバババババ! ワイ、金属だから電気通すんやけど!? 痛いんやけどシビれるんやけど!? イダダダダダダ!』
……白い巨人の肩に刺さったまま、電撃を浴び続ける鋼の炎杖が。
……とりあえず、見つかってよかった。
「さて、ここからどうしようか」
俺達は震える声で天を仰いだ。
ああ……今夜は夜空に輝く星が、なんだか一際綺麗だった。
****
〜VS白い巨人〜
白い巨人は電撃を辺り一面に放出し始めた。
稲妻のように迸る電撃は、幾重にもなってニュエルやバーン隊を襲った。
しかし、彼ら彼女らは一筋縄で終わるような器ではない。
「オラァ!」
例えば、ニュエルやウィンニュイなどのように、自らの能力――【血操】や【魔法】などだ――で防いだりする者。
「危ねっ」
あるいは、バーンやアウラのように身を翻して電撃をかわす者。
「……効くかこんなモン!」
もしくは、ジャッカーや怪盗ダッシュのように直撃しても気にせずに突き進む者。
各自が様々な対処法で、白い巨人の電撃を捌いていた。
ジャッカーが鋭い犬歯を剥き出しにしながら、巨人を睨みつける。
「俺のをコピーしただけの、模造品に過ぎねぇ電撃が……俺に効くわけねぇだろうが!」
電光石火、疾風迅雷。それらの言葉が似合う程のスピードでジャッカーは誰よりも速くこの戦場を駆けた。
そして、警棒を高く掲げ、白い巨人に打ち据えた。
『グオッ!?』
「ただの打撃なら、コピーもクソもねーだろーがよ!」
乱打、連打、激打。
ジャッカーの連撃が、白い巨人を後方へと押していく。
しかし、白い巨人は大きく腕を凪ぐ。その腕にジャッカーの体は巻き込まれ、大きく吹き飛んだ。
白い巨人はジャッカーの攻撃の嵐が止み、一息つく――間もなく。
「――【二万光年先の灯火】!」
ウィンニュイの魔法が巨人の巨体を丸ごと飲み込んだ。
彼女が今放った魔法は、天から落とされる極太のレーザービームだ。この魔法は強力なので、本来はかなり長い間詠唱が必要な代物だった。しかし、ニュエルが彼女の盾となって白い巨人による電撃の猛攻を防いでいたため、彼女は難なくこの魔法を完成させる事が出来たのだ。
ウィンニュイは、盾になるために己の前に立っていたニュエルに微笑みながら礼を述べた。
「ふう。ご苦労様です、ニュエル」
「別に、お前を守るくらい朝飯前だっつーの」
ニュエルは振り返らずに手をひらひらと振って答えた。
しかし、そんなニュエルをウィンニュイは半眼で見つめて言葉を返す。
「朝飯前って……貴方、低血圧だから朝飯は寝起きで食欲無くて、喉を通らないじゃないですか」
「……今それ関係ねーだろ?」
「今すごいカッコつけてたのが鼻についたので、つい」
「いいだろ別にカッコつけてもよ!?」
ニュエルは今度こそウィンニュイの方に振り返り、彼女を怒鳴りつけた。
そんな二人にバーンが苦言を呈す。
「おいそこの指名手配犯コンビ」
「あ? 何だよ憲兵殺すぞ?」
バーンを睨みつけるニュエル。
しかしバーンはそんな彼を無視して苦言を続けた。
「奴の特性、言ってなかったっけか? 奴は……受けた攻撃をコピーするんだよ」
ニュエルとウィンニュイは目を見開いた。
そう……つまり、バーンが言いたい事はこうだ。今ウィンニュイが放った光線魔法が、白い巨人の完全生命体としての能力によって、コピーされてしまうかもしれない……という事。もしコピーされてしまえば、ジャッカーの電撃能力のように、レーザービームをそこら中に撃ち続ける生命体になってしまう。もしそうなれば、地獄絵図が待っているのは間違いない。
ニュエルとウィンニュイは、自分達が悪手を打った事に気が付き、歯噛みした。
バーンも祈るような気持ちで未だに極太の光線の中にいる白い巨人を見上げた。
……しかし。
「……? 効いてる、のか?」
バーンはそう呟きを落とす。
そう……彼らは誰も知らないが、この白い巨人はとうに完全生命体としての能力は失われている。ジョケル博士がこの白い巨人を見限り、『完全生命体細胞分解酵素』を注入したからだ。それを注入された完全生命体は、細胞のコピー能力を完全に失う。
とどのつまり、今のこの白い巨人は『コピー能力を持つ厄介な巨人』ではなく、『電撃能力を持つ巨人』でしかないということだ。
そしてバーンは、白い巨人のコピー能力が消えている、という可能性に思い至った。
「……モノは試しだ」
バーンはウィンニュイに魔法を解除させた後、ポケットから低威力の『魔力手榴弾』を取り出した。文字通り魔力を爆発させる手榴弾だ。
バーンは手榴弾のピンを抜き、白い巨人に向かって投げつけた。
(もし、奴にまだコピー能力が残っていれば……この手榴弾に何かしら反応を見せるはず。逆に言えば、何も反応がなかったってことは――)
――もう奴にコピー能力は残っていない、ということ。
バーンはそう推理した。
手榴弾は白い巨人の右腕の辺りで爆発した。
結果は――
「……ビンゴだ」
――何も反応を示さず、ただ、白い巨人はダメージを受けたのみだった。
バーンは声を張り上げてその場にいる全員にその旨を伝えた。
「総員! 白い巨人はコピー能力を何故か失っている! ……多分だが! ……まぁだから、攻撃したけりゃ自己責任で勝手にしとけよ」
そんなバーンの通達に、獅子型獣人族のアステロルが獣の牙を剥き出しにしながら眉をひそめる。
「何じゃその確証も根拠もない、無責任でふわふわした口振りは……」
そんなアステロルの背中がドン、と叩かれた。
アステロルが振り返ると、そこにはリューが己の武器である炎刃を構えながら、普段とは似ても似つかない獰猛な相貌を浮かべて笑っていた。
「けど、これで全力が出せるでありますよ? ね、アステロル先輩?」
「……仕方がない。足踏みよりは、前に進む方が五倍はマシか」
アステロルもまた、野生の獅子のように唸り始めた。それは悩みなどによる唸り声ではない。相手への威嚇――本気を出すぞ、という合図。
アステロルは憲兵の皮を脱ぎ、一匹の獣として白い巨人を睨みつけた。
「ガアアアアアアアアアアア!」
アステロルは月に吠えた。
吠え続けるアステロルの姿が、徐々に変わっていく。
爪は尖り、牙は光り、たてがみは増え、眼光は鋭くなっていく。
獣人族の種族固有能力――【獣化】。その力は強めれば強めるほどに自身の体を元の獣に戻していく。全力――一〇〇%に近づけば近づくほど、その体は獣へと変化していく。
月を震わすほどのアステロルの咆哮が、遂に終わる。
そこにアステロルの代わりにいたのは、一匹の獅子――否。完全に獅子と化したアステロルだった。
獅子は獰猛に笑う。
「久々に本気を出す……この牙に見合う程の歯応えが、この巨人に果たしてあるかな?」
アステロルはその四肢で大地を踏み、白い巨人へと飛びかかった。
その爪を巨人の柔い表皮に食い込ませ、そのまま白い肉体を駆け上がる。
そして、その牙で白い巨人の首筋に食らいついた。
『グオッ!?』
白い巨人は突然の事に大きく動揺し、よろめく。
その隙を突き、リューが炎刃を巨人の胴体に突き刺した。
「今、ボクはかなり滾ってるであります! ボクのこの熱、伝えてやるであります!」
リューの突き刺した炎刃から炎がメラメラと湧き出てきた。リューの機能である発動機によって発生した炎だ。発動機はリューのテンションによって炎の出力が変わる。そして今のリューのテンションは最高潮――つまり、火力も最高潮だ。
その炎は刃を伝い、白い巨人の体内に流し込まれる。そのままその炎は白い巨人を内部から焼いた。
『グオオオオオッ!?』
内部から焼き尽くされる感覚に白い巨人は呻いた。
そしてその隙にその場にいた全員が、攻撃を叩き込む。
マジックアイテムや武器、己の爪牙に魔法など、各々が放つ最大の攻撃。白い巨人の膝は今、地に落ちようとしていた。
「……僕だって!」
そして、ライトも駆けた。
必殺のパワーは既に充填済み。後は放つだけだ。
ライトは隙を見て飛び上がり、白い巨人の眼前にまで迫る。
拳を握り、後はそれを振るうのみ――!
「食らえっ!」
――だが。
タイミングは最高、火力も最高潮。
ただ一つ、ライトが悪かったとすれば、それは――運だ。
『グボァッ……!』
白い巨人が口を大きく開ける。それはただ、呻き声を上げるためだ。目の前のライトを退けるためでもなければ、特に反逆の意思がある訳でもなかった。
だが、白い巨人の内部はリューによって燃やし尽くされていた。
火種が燻る白い巨人の体内。そこで突然、白い巨人が口を開けた。体内には当然、開いた口から空気が流れ込む。
燻っていた火種が、大量の空気に反応し、再び燃え盛る現象――
(バックドラフト!?)
ライトは、白い巨人が口を開けた瞬間に――その口の中が真っ赤な光を帯びた瞬間に、その現象の名が脳裏に浮かんだ。
その頃には、もう遅かった。
ライトは、白い巨人の体内から口へと競り上がり、そして放たれた莫大な炎に飲み込まれた。
「ッ――ライトォォォォォォォォォォ!」
我が相棒を焼かれたレフトの絶叫が、燃え盛る爆音の中で響き渡った。
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【用語説明】〜バックドラフト〜
室内など密閉された空間で火災が生じた際、室内の酸素を炎上に使い尽くしてしまったために不完全燃焼によって火の勢いが衰える。
そんな可燃性の一酸化炭素ガスが溜まった状態の時に、窓やドアを開くなどの行動をすると、一酸化炭素に急速に酸素が取り込まれて結びつき、二酸化炭素への化学反応が急激に進み爆発を引き起こす事がある。
それがバックドラフト現象である。
白い巨人の体内はほぼ密閉空間であり、バックドラフト現象が起こる条件は運悪くも満たしていたと言える。




