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File4―31 怪力強盗と血色の悪魔 〜恋とか愛とか、初めてだけど〜

感想やレビューとかよろしくお願いします!

 〜リナリア・ウィンダリア〜


 私とイラ、映瑠、お父様にセルベールの五人は、気がつくと王城の庭にいた。何が起きたのか――端的に言えば多分、瞬間移動だろう。

 ついさっき、天文台の隠し屋根裏に私達五人はいた。そこに国宝であり強力なマジックアイテムである『鋼の炎杖』があるからだ。それがあれば今も戦っている執事タレイアを助けられる――そう思ったから。

 しかし、そこでお父様達と交渉などでゴタゴタしているうちに、私が今へし折るぐらいの意気込みで握り締めているこの鋼の炎杖が突然喋りだした。そして色々な話を駄弁った後、突然私達を煙で包んだ。そして、煙が晴れた瞬間にはもう私達は天文台の隠し屋根裏にはおらず、この王城の庭にいた……って感じ。


「なんですか今の煙……」


 この中で一番背が低いイラが、混乱しながらそう言った。

 すると、私が握っている鋼の炎杖が再び喋り出す。


『嬢ちゃん、知らんのかいな! これがワープや、瞬間移動や! まぁ、そんなに遠い所には行けんけどな!』


 自慢気な声音でやかましく喋る鋼の炎杖。

 私はその声音やら軽々しいトーンやらで、この声に心底辟易していた。……本当にやかましいし、ウザイ。


「ねぇ、貴方……もっと静かにできない?」


『姐さん、ワイは口が達者なのが取り柄なんでさぁ。ワイから喋りを抜いたら、ただの火を噴く杖でっせ?』


「それでいいんだけど」


『かーっ、クールやね〜! その冷たい目線ええわァ。ワイ、ドMちゃうけど、新しい扉開きそうやわ!』


 何言っても無駄だ、この杖には。

 私は杖をセルベールに押し付け、深い深い溜息を吐いた。

 すると、私の肩を叩く誰かの手が。振り返ると、私の方を叩いたのは映瑠だった。……様子がおかしい。何だか青ざめてるし、冷や汗が凄い。


「どうしたのよ映瑠」


「リ、リ、リ、リナリアちゃん……アレ、アレ」


「え……アレ……?」


 私は映瑠の指差す方を見た。

 そこには――のっぺりした白い巨人がいた。まるで粘土で適当に人型を作ったかのような見た目の巨人。天に吠えるように慟哭するその巨体は、とてもではないが意思が通じるとは思えなかった。


「……何よアレ」


「わかんない……」


 映瑠は私の問いかけに横に首を振る。その映瑠の背に隠れるイラも、同じように首を振っていた。

 ……念の為、お父様の方も振り返る。


「お父様……何アレ?」


「……わかんない」


「ちょっと、しっかりしてよ王様でしょ!?」


「王様でも知らんもんは知らんもん! 何あの巨人! ……っていうか、ずっと引きこもってたお前に王様がどうこう言われたくないわ!」


「もういい! お父様の役立たず!」


「ひどい……」


 膝から崩れ落ちるお父様を無視し、私はセルベールの方を睨みつけた。


「セルベール! 貴方は!?」


「僕も知りませんよ! 何ですかアレ!?」


 セルベールはアワアワと慌てながらそう言い返してきた。

 後は……正直話しかけるのすごい嫌だけど、仕方がない。

 私はセルベールから再び杖をひったくり、ひったくったお喋り杖野郎にも聞いてみた。


「……炎杖えんじょう! お前は!?」


『なんで皆は『貴方』なのにワイは『お前』呼ばわりなんや姐さん……』


「どうでもいいからその辺は! 早く言いなさい!」


『あー……アレな〜うんうん……なるほどなぁ』


 えっ……手応え有りって感じの反応。

 私はつい声を裏返らせてしまう。


「もしかして、な、何か知ってるの!?」


『何も知らんわ(笑)』


「(笑)……じゃないわよ! なんで!? なんで知らないならちょっと意味深な反応したの!?」


『いや……そういうギャグの振りかと思ぉて』


「今そんなギャグしてる場合じゃないでしょう、このアホ杖!」


 私は膝でこの杖をへし折ろうとして……逆に私の膝が痛くなり、涙目になった。

 そうだった……この杖、鋼製だったんだ……。痛い……。

 私はセルベールに杖を返し、その場にうずくまった。


『姐さん……女の子が体張るネタやんのは、ちょっとやめといた方がええと思うで。今のはワイが鋼なのを上手く使ぉて、『あー、鋼だったの忘れてた足痛い!』的な感じで笑いを取りに行ったかもしれんけど……』


「ンなわきゃ無いでしょう、このバカ!」


 うう……痛い……膝が痛い……。

 私が涙目で震えていると、後ろから声が聞こえてきた。


「あれ、国王様に王女様にセルベールに……エルちゃん、イラちゃん?」


「へーっ、アレがこの国の王様……。なんで崩れ落ちてんだ?」


 私は後ろを振り返る。

 そこには、緑色の髪をした、レフトと同じくらい……いや、少し上だろうか。そんな感じの青年。

 そして、その青年の隣にいるのは……怪盗ダッシュ。間違いない、私も何度も新聞とかで見たから。


「あっ、ライトくん」

「ライトさん!」


 イラとセルベールが同時に笑顔になり、青年に手を振る。

 そう言えば、『ライト』という名前はレフトの話に出てきた覚えがある。もしやこの人がレフトの相棒、というヤツなのだろうか?

 そんな私達を無視し、怪盗ダッシュは鋼の炎杖を目ざとく見つけ、ガッツポーズをした。


「あっ、鋼の炎杖! 盗む予定だったから助かるぜ!」


「させないよ怪盗ダッシュ。僕がそんなこと絶対させない」


 ライトがそんな怪盗ダッシュを手で制する。そのまま二人は一触即発の雰囲気になるが……その途中で彼らもあの白い巨人に気づいたようだ。それからの彼ら二人のパニックは省略させてもらう。

 一通りパニクり、そして映瑠から一通り説明を受けた二人は、ようやく落ち着いたようだ。


「なるほど、エルちゃん……つまり、誰もあの巨人が何なのかは知らないってわけだね?」


「うん……さっきからずっと泣いてはいるんだけどね……」


 そんな二人の会話に突然乱入する、セルベールの手に持たれている鋼の炎杖。


『せやなぁ。いつまで泣いてるんやろなぁ。すごい肺活量やわ、水泳とか芸人とか向いてるでアレ』


「うーん、そうだねぇ……そうだねぇ!?」


「おい! このお宝喋んのかよ!?」


 あ、そうか。まだこの二人は鋼の炎杖が喋る事を知らないんだ。

 また彼らに説明しなくてはならない……私も参加した方がいいだろうか。

 私も未だに痛む膝を撫でながら立ち上がった。

 すると――


「お、ライト〜……っておわぁ!? 何じゃあの白いでっかいの!?」


「はぁ? 何言ってんだよ探偵……白くてでっかいだけでビビってんじゃねーよって、思いの外でけぇな!?」


 ――レフトと指名手配犯ニュエル・ボルゴスまでその場に乱入。

 更に……


「ふ、ふふふふふ……しつこい男はこうなるのです」


「貴様…………って、あれ? お嬢様に、国王陛下?」


 ……ニュエル・ボルゴスの影の中から、タレイアとニュエルの従者の指名手配犯ウィンニュイ・ヴェーラまでもが登場。

 影の中から現れたのは普通は驚く所なのだろうが、もう驚き慣れてしまいまともなリアクションが取れなかった。


「……ニュエル、何ですかあの大きい白いのは!?」


「お嬢様!? 何ですかアレ!?」


『おうおうアンタら、ワイらに何聞いても意味ないで。ワイらも何も知らんからな』


「「「「杖が喋った!?」」」」


 レフトとニュエル・ボルゴスとウィンニュイ・ヴェーラとタレイア、計四人の声が被った。

 ああもう、めんどくさい……!

 と、ただでさえカオスが満ちているこの空間に。


「バーン隊、とりあえずこの辺で待避の足は止めて、体勢立て直すぞ……ってあれ、劣化版じゃねーか」

「ぬ! ライトくん! ライトくんの匂いがするであります!」


 ……バーン隊(なんか変なの)が一二人、ぞろぞろとこちらにやってきた。

 その声にレフトとライトは顔をしかめる。

 私はそんな二人の反応を見て確信した。

 あー……コイツら知り合いなのね……まためんどくさくなりそう……。

 私は頭痛に耐えるように頭に手を当てた。


「ルゥアアアアアアアアイトクウウウウウウウン!」

「や、やぁリューちゃんキミはいつも元気だね!?」


「おい劣化版、お前なんでこんな所にいんだよ」

「うるせーな! お前こそなんでこんな所いんだよ!」


「あーっ! やばいッスよ怪盗ダッシュっスよ!? それにニュエル・ボルゴスにウィンニュイ・ヴェーラまで! 指名手配犯勢揃いっスよ!?」

「あ? 何だテメェ誰だよ。ウィンニュイ、知り合いか?」

「そうだそうだ! はじめてみるかお“初顔”だぞ!」

「いやニュエル・ボルゴスの方はともかく、怪盗ダッシュは昨日会ったッスよね!? 戦ったッスよね!?」


 ああ。凄くやかましい。ただでさえ白い巨人が喚いていてうるさいのに。

 ……けど、何でだろう。悪い気はしない。部屋から出て、久しぶりに外の空気を吸って……私もどこかおかしくなっているのかもしれない。

 その時だった。


『ウオオオオオオオオ!』


 白い巨人が吠えながら、こちらに電撃を飛ばしてきた。

 稲妻のように迸る電撃は、綺麗に私の眼前にまで迫る。

 あ、ヤバいこれ私死んだ――


「リナリア!」


「え――」


 ――体に走った衝撃。

 それは電撃によるものじゃない。

 レフトが、私を押し飛ばして助けてくれた……その時の衝撃だった。


「リナリア! 大丈夫か!?」


 私はレフトに抱き起こされながら、声をかけられた。

 その時に私は、レフトの左足に何かの深い刺し傷がある事を知った。

 こんな酷い怪我をしてるのに……私を助けるために、無茶を?

 私の頬に熱が集まっていくのがわかる。

 ……あれ? 何でだろう……月光に照らされるレフトが、なんだか凄く……


「リナリア!?」


 何でだろう……レフトに、名前を呼ばれるだけで、何だか……

 突如脳裏に、少し前にタレイアに言われた言葉がよぎった。


 ――『いえ……もしかしたら、お嬢様がレフト・ジョーカーに惚れてしまったのでは、と……』――


 ……気づいた。

 あの時は否定しちゃったけど……多分、きっとそうなんだろう。もう……認めた方が、いい。


 私はきっと、多分……レフトが、好きになったんだ。


 友達とかそういうのじゃなくて、恋愛感情として……彼の事を。


「大丈夫か、リナリア」


「……ええ。大丈夫」


 私はレフトの顔をまともに見る事が出来ず、顔を伏せながらレフトの傍から退いた。

 ……自分から離れておいて、レフトの温もりに名残惜しさを感じてしまう。きっと私はかなりめんどくさい女なんだろう。

 だが、そんな私の初めての甘くて切ない時間はあっさりと崩れ去ってしまう。

 白い巨人の活動が、遂に活発化し始めたのだ。


「どうやら、戦う時が来たようだね」


 ライトがレフトの隣に立ってそう呟く。

 レフトも眼光鋭く頷いた。


「……おい、バーン」


「なんだよ、劣化版」


「見せてやるよ。この戦いで……劣化版だから、出来る事をな」


「……そんなもん、ねーんだよ……てかお前、足刺されてるだろーが」


 周りの人がどんどん臨戦態勢に入っていく。

 指名手配犯共も、やる気満々だ。


「いいねぇ、たかがるこの“高揚”! 白い巨人の討伐、手伝ってやる」


「ニュエルはどうするんですか?」


「……俺はな、ウィンニュイ。さっき探偵との殺し合いをアイツの声に邪魔されたんだ。今、すっげームカついてる」


「つまり?」


「殺るに決まってんだろ」


「でしょうね。私もお供致しましょう」


 戦いに疎い私でも、何となくわかる。

 今から始まるのは、私には到底追いつけないような戦いの場なんだ。

 私は置いてきぼりにされてる気がして、そっと目を伏せ――


『よっしゃ、行きまっせ姐さん! ワイと一緒に戦火燃ゆる大海原へ!』


 ――突然鋼の炎杖が、セルベールの手を振り切って私の方に飛んできた。

 そのまま炎杖は先程のように瞬間移動の煙を出して……気がつくと私は、今にも暴れ出そうとしている白い巨人の、誰よりも真近くにいた。

 その場所はなんと、白い巨人の肩の上。どうやらまたこの杖に瞬間移動させられてしまったらしい。


「……へ?」


 私の頭の中は真っ白になった。

 私が元いた場所を見ると、レフトやお父様が目を真ん丸にして、『へ?』と惚けていた。

 ああ……これ、多分かなりヤバいやつ。私の頭の中は今、汚れ一つない洗濯物のように真っ白だった。

 そんなホワイトな脳みそに、炎杖の不愉快な声が響き染みていく。


『久々に、ワイの熱いハートが火を噴くで!』


「〜〜〜〜〜〜〜っ、勝手に噴いてなさいよ!?」


 私のその大声を皮切りに、白い巨人が本格的に活動を始めた。

 ……あ、これ、死んだ。

 私は先程自覚したばかりの初恋に思考を逃避させるしかなかった……。



 ****



【キャラクター設定】〜各々が白い巨人と戦う理由〜


 ・レフト……俺もやらなきゃ、ダメだと思うから。

 ・ライト……レフトが戦うなら、それに従うまで。

 ・バーン隊……任務だから。国を守るため。

 ・ニュエル……白い巨人にムカついてるから。

 ・ウィンニュイ……ニュエルに従うまでです。

 ・怪盗ダッシュ……白い巨人と戦う方が楽しそうだから。

 ・リナリア……鋼の炎杖に無理やり真近くに連れてこられたから……戦わなきゃ多分死ぬし……。本当に覚えてなさいよ!?

 ・鋼の炎杖……その場のノリやで!


 ちなみにタレイア、イラ、映瑠は国王とセルベールの避難のサポートに尽力。皆がさっさと白い巨人の方に向かってしまったので、議論の余地はなかった。

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