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File1―5 暴龍を飼う少女 〜そして魔王は動き出す〜

評価や感想、ブクマなどよろしくお願いします。

 〜グリン高原に生息する『豚巨人オーク』〜


『ブゴォ……』


 彼は強かった。仲間のオークよりも格段に強かった。

 それは『豚巨人オーク』という魔物のカテゴリーの中でも、明らかに別格だった。

 その強さは恐らく、『小鬼ゴブリン』一〇〇体が相手でも、あっさりと無双できるような……同種族オーク相手なら、一〇体相手でも問題なく戦えるくらいには、彼は強かった。


『ブルルルォ!』


 彼はその丸太のように太い足で地面を踏み抜く。

 すると、オークでは有り得ないくらいのスピードが出た。そのスピードで彼は疾駆する。

 たるんだ肉をぶるぶると揺らしながら高速で迫り来る怪力の巨体。それはある種の悪夢のような光景だった。


『ブグッ……ガォブッ』


 彼は捕らえた雄鹿を片手で掴み上げ、頭から食らった。

 雄鹿の持つ強靭で立派な角も、彼の牙に噛み砕かれた。

 彼は唇についた血を舐め取り、また鹿肉に食らいつく。


『ジャオッ、ズルッ』


 内臓も、毛皮も骨も残さずに丸ごと食べる。

 それはまるで軽食を楽しむかのようであり、彼の浮かべる笑みは腹の満たされた強者のそれだった。


『……ブゴォ?』


 彼は鼻を引くつかせた。

 そして――気づく。


 この匂い……コウブツだ。

 俺のダイスキな、柔らかいニンゲンのメスの匂い。ソレはとてもオイシイ。

 泣き叫ぶ顔はトテモ背筋をゾクゾクさせる。小さなソレが泣き叫びながら俺と交尾をするのは、とてもタノシイ。交尾の後のゼツボウに染まった顔をガブッと食べるのも、また一興。


『ブゥ……♪︎』


 彼はその時が来るのを岩の上に座って待ち構え、ワクワクと心を踊らせた。

 そして、ソレはやってきた。


『ブグゥ……』


 彼はソレを見た時、落胆した。隣にオスがいたからだ。

 オスの肉は硬い。マズい。オイシクナイ。交尾もできないし、サイアクの一言に尽きる。

 だが、オスはオスで使い道がある。彼はオスをミートソースのようにぐちゃぐちゃに潰す時、妙に胸がスカッとするのだ。


「……ひっ! 探偵さん、アレって」


 メスの方が彼の醜悪な姿を見て悲鳴を上げた。

 その顔……イイ。とてもいい。このメスのスラリとした足を噛み砕いた時、どんな風に鳴くのかなぁ?

 彼はヨダレをこぼしかけた。


「……オークか。しかしデカいな。肌も普通のオークの緑色とは違って黒い。突然変異で生まれた強化種、ってヤツ?」


 ……萎える。オスはシャベルナ。ミミが腐る。

 彼は顔をしかめ、唾を吐いた。

 そして、座っていた岩の上から飛び降りる。


「ひぃっ……き、来ましたよ探偵さん……!?」


「落ち着けよイラ。俺は――」


 オスが何か言っていた。

 しかし、彼はそんなモンどうでもいいと言わんばかりに、大きな拳を振り抜いた。


『ブゴォッッッッッッッ!!!!!』


「うぉぉおおおおっ!?」

「うびゃあぁああああぁぁぁ!?」


 オスとメスは揃って吹っ飛び、緑の大地を転がった。

 間一髪、避けられてしまったようだ。彼は舌打ちをした。


「……ったく、ブタ野郎。俺のお気に入りの帽子が汚れたらどうすんだ」


 オスの方はメスを守るように立ち上がり、彼に言い放つ。

 チョウハツしているのか? だが、彼にヒトの言葉はわからない。だから――それを、()()()()()()()()()()と勝手に解釈し、筋肉を大きく脈動させた。


『ブゴォォォォォォ!』


 彼はオスに向かって突進した。

 しかし、そのオスは避ける動作をせず、手に何かを持ちソレを振っている。シャカシャカとシェイク音が突進中の彼の耳に入ってくる。


 ――ミミザワリダ、ツブレロ!


 彼は頭からオスにぶつかる。

 突進のスピード、彼自身オークの重量、筋肉のパワー。脆弱なニンゲンならば簡単にペシャンコになる程の、彼の自慢の切り札でもある突進タックルを――そのニンゲンであるはずのオスは、片手で受け止めていた。


「……重っ」


 オスはそう呻くが、その呻きは決してオークの巨体に潰された際に獲物が上げる苦悶の叫びではなかった。

 よく見ると、そのオスが先程まで振っていたナニカが、彼を受け止めた手の中で砕けていた。振っていたナニカの中身は液体だったらしく、彼を受け止め続けるその手は、少し輝く容器の破片と共に濡れていた。

 オスは言う。


「探偵道具の一つ――『シェイクボトルシリーズ003︰ゴリラボトル』」


 そう言うとそのオスは彼の頭を鷲掴みにし、決死の勢いで地面に思いっきり叩きつけた。


「しばらくオチてろブタ野郎ッ!」


『ブムォォォォ!? ブッァ――』


 そして、彼の意識はそこで潰えた――。



 ****



 〜レフト・ジョーカー〜


「悪いな、ブタ野郎」


 俺は間抜けな体勢で気絶している黒色の『豚巨人オーク』にそう告げた。

 このオークは恐らく、突然変異で生まれた強化種であったのだろう。こういうことはたまにあるのだ。しかし、相手が悪かった。なんせこの俺である。この俺。


「これからは喧嘩売る相手選べよ」


 俺はそう寝ているオークに告げ、ソフト帽を被り直した。

 イラは俺のこの超怒涛の活躍に目をまん丸にして見開いている。


「探偵さん……どういう事ですか。地人族ドワーフでもないのに、どうしてオークと力で勝っちゃってるんですか」


「ふっふっふ……普段の筋トレの成果だ」


「絶対嘘です、さっき振ってたボトルが怪しいです」


「……鋭いねイラ」


 俺は懐から数本のカラフルでクリアなボトルを取り出す。

 それらは手のひらサイズの小さなボトルで、中にはこれまたカラフルな液体が入っていた。


「これ、『シェイクボトル』っつってな。振ると中身の液体の成分が活性化する」


 俺は一本オレンジ色のボトルを手に取り、振って見せた。

 すると中身の液体が若干輝きを放ち始めた。あくまで若干。光源としては全く役には立てないだろう。蛍の光よりも薄暗い程度だ。

 俺はしばらく振った後、キャップを回した。


「こうしてキャップを回した後で……このボトルを割る」


 俺はオレンジ色のボトルを地面に叩きつけた。

 すると、破砕音と共にボトルは簡単に砕け、中の液体が溢れ出た。


「ひゃっ!? 何してるんですか!?」


「目をつむるな。見てろよイラ」


 俺はイラをそう促す。

 俺達の目の前で、地面に飛び散ったオレンジ色の液体はズオッ、と一箇所に集まっていき――そして一着のパーカーになった。


「……どういう事ですか? パーカー? 液体がパーカーになっちゃいましたけど!?」


「これがシェイクボトルシリーズの力だ」


 コイツは『シェイクボトルシリーズ083︰パーカーボトル』。振ってキャップを回して割るとパーカーが出てくるのだ。

 俺はイラに説明する。


「『シェイクボトルシリーズ』。沢山の種類があるそれらは、総じて色付きの透明な容器の中に特殊な液体が入ってる。これを振ると中の液体の成分が活性化する」


 俺はイラにパーカーを手渡す。

 イラはそれをパンパンと叩いたり手のひらで撫でたり、パーカーの材質を確かめているようだった。

 俺は説明を続ける。


「んで、普段はこのボトルは象が踏んでも割れない。だが、このキャップを回すと途端にそれなりの力を加えると簡単に割れるようになる」


 イラはパーカーを着る。

 それは確かにパーカーであり、イラはそれの元が液体であるとは信じられない様子だった。


「……凄いですね」


「だろ?」


 さっきのオークと戦った時の筋書きはこうだ。


 あの黒いオークはご丁寧に岩の上に鎮座していた。それは遠目ではオークだとはわからなかったが、とても目立っていた。

 だから俺は念の為に予め茶色の『シェイクボトルシリーズ003︰ゴリラボトル』を振りながら移動していた。

 で、案の定オークは俺達に突っかかってきたので、俺は右手に持ったゴリラボトルのキャップを回して握力で手の中のそれを割り、ボトルの力の恩恵を受けた。

 ゴリラボトルは主に腕に液体をかけて使う。腕にかけるとゴリラのような怪力が得られるのだ。その怪力の強さは振った時間に依存する。振る時間が長ければ長いほど、パワーも上がるわけだ。

 で、ゴリラボトルの液体を手の中から腕に伝わせてかけた俺は、ゴリラのような怪力でオークを受け止め、地面に投げ飛ばして気絶させたのだ。


「探偵さん。このオーク……殺さなくてもいいんですか?」


 イラが急に聞いてきた。

 その目は酷く不安そうである。

 まぁ、オークって何かと女の敵として揶揄されてるからなぁ。『オーク一匹、女百人』なんてことわざもあるくらいだし。意味は『オーク一匹につき、女を一〇〇人犯していると考えろ』という、オークの恐怖と危険性を伝える妙に生々しいものだ。

 俺はイラに答えた。


「それは探偵の仕事じゃない。なら、命まで奪わなくてもいいだろ」


 俺はそう言いながら野花を摘み取った。

 柔い黄色の、綺麗な花だ。蜂蜜のような甘い良い香りもする。

 ふと、イラの声が聞こえた。


「探偵さんは、探偵さんなりの信念があるんですね」


 ……ふふ。なんか嬉しい。ハードボイルドな男というのは信念を貫くもの……なんじゃないかなって思うからだ。

 俺は笑って答える。


「あぁ。『依頼されてない以上は無闇に命を奪わない』。そう決めてる」


 俺はそう言いながらイラに先程摘み取った花を手渡す。

 最高にカッコいい感じになっているはず。だが……イラはその花を受け取りつつも、俺に向かって目を細めた。


「……この花も生きてると思うんですけど。間違えて踏んじゃったとかならまだしも、わざとこうやって摘み取っちゃうのは、探偵さんの信念的にはいいんですか?」


 ……正論。ぐうの音も出ない。

 俺は何も言い返せず、ソフト帽を目深に被り下を向く。


「……これから気をつけます」


 そしてそうイラに告げ、摘み取ってしまった花を持ち合わせの探偵道具で修復する作業に入ったのだった。



 ****



 花に使用した探偵道具は二つ。

 それぞれ、『生物用接着剤』と『大地の恵み(ガイア・ブレス)』という霧吹き型の肥料だ。

 その結果、たった一輪だけだったはずの黄色の花が、今は目の前に沢山広がってしまっている。蜂蜜のような香りがむせる、黄色の花畑になっていた。


「……探偵さん、やりすぎじゃないですか?」


「……この肥料、すっげぇ効くんだ。知り合いの天人族から貰ったやつだし……」


「効きすぎですよ……」


 生物用接着剤で摘み取ってしまった花をくっつけ、大地の恵み(ガイア・ブレス)を噴霧。

 行った工程はたったこれだけ。

 なのに……花畑ができるとは。天人族かみさまの力、恐るべし。


「……さ、ミーコを助けに行こうか」


「……はいっ」


 ……本当はもっと早く行けたのだが、花を治していたが故の失態。イラは気にしていないようなのでわざわざ言わないが、俺はこの事を強く深く反省した……。



 ****



 〜ニュエル・ボルゴス〜


「……頭が痛ぇ」


 俺は雑に積んだ羊毛の山からむくりと起き上がる。

 低血圧ゆえに寝起きの気分が悪い。今回は頭痛もする。頭の中で鐘が響いてるみたいな鈍痛だ。

 俺が頭を抑えていると、


「……あ、起きましたか」


 ……と、凛とした女の声が洞窟内の俺の部屋に響く。

 俺はその声のする方を向いた。


「……『ウィンニュイ』か」


 目の前に立っていた緑色の髪をした【森人族】の女――『ウィンニュイ・ヴェーラ』は、森人族特有の長く尖った耳を揺らしながら俺の方に歩いてきた。

 ウィンニュイは俺が数年前に購入した奴隷だ。森人族の奴隷は買っておいて損は無い。更に、……とてもお買い得だったので即買い取った。

 しかし、相変わらず無表情だ。顔立ちは森人族と言うだけあって素晴らしく整ってるのに。もったいねーの。


「水、飲まれます?」


 ウィンニュイは俺に水の注がれた木のコップを差し出した。

 俺はそれを受け取り、中身の水を一気に飲み干した。


「――っ、はぁ……。少しは楽になったか?」


 俺はこめかみの部分を指でコツコツと叩きながら立ち上がる。

 ウィンニュイは俺から空になったコップを受け取りつつ、俺が立ち上がるのを支えた。


「……で、ウィンニュイ。何の用だ?」


 俺はウィンニュイにそう聞く。

 ウィンニュイが俺の部屋に訪れた、その理由を聞いたのだ。


「はい。こちらの洞窟に二人の人影が向かってきています。恐らく、バンガンの探偵とその依頼人かと思われます」


「……ほう。憲兵とかじゃなくて、探偵か……。呆気なく終わりそうだなぁ……」


 俺はもっと“悪”として――自称とはいえ、“魔王”として悪行為を働きたい。他人の悲鳴や憎悪、後は……まぁ色んな感情モンがごちゃ混ぜになった表情を見るのが、俺は何よりも大好きだ。

 悪役としてのロールプレイ、それを俺は楽しみたいのに……相手がただの探偵とは、つまらない。出会い頭に首の辺りを蹴り飛ばして首の骨をへし折る。たったそれだけで終わりそうじゃないか。


「……もっと楽しめる奴が来いよ」


 俺はそう愚痴をこぼす。

 だが。


「いえ、ニュエル。私、こんな噂を聞いたことがあります」


「んあ?」


 ちなみに、俺はウィンニュイには『ニュエル』と呼ばせている。ご主人様、とかマスター、とかそういう風に呼ばれるのが俺は嫌いだったからだ。背筋がゾワゾワする。男からカシラ、と呼ばれるのはいいのだが。


「『バンガンにはとても優れた秘密の探偵がいる』とか『世界最高の探偵がいる』とか『迷探偵だけど名探偵』とか」


「……最後のは褒めてんのか?」


「いえ。馬鹿にしてると思います。……で、ニュエル。この探偵がこの噂通りの探偵ならば、実力は少しは期待してもいいのでは?」


「……そうだなぁ。うーん……そうだ。『バミラ』の奴に行かそう。バミラで実力を見極める」


 俺はとある黒ローブを羽織っている部下の名を思い出す。

 もちろんこの黒ローブは俺が命令して羽織らせている。魔王の手下には黒ローブ、常識だ。モヒカンもまた然り。


「後……【魔法】頼むぜ」


 俺はウィンニュイに自身の目を指さし、そう頼んだ。

 ウィンニュイは目を瞑り、頷いた。


「御意」



 ****



 〜『グリン高原 北北西の洞窟近くの原』〜


「バミラ。俺達のこの洞窟アジトに二つ、近づいてきてる。一つの奴は探偵だが、噂では結構やり手らしい。実力を探ってきてくれ」


 ニュエルは黒ローブを羽織った男――『バミラ』にそう命じた。

 バミラは黒ローブの中からギラリと光る鋭い爪を覗かせながら、爛々と目を輝かせる。


「じゃあ、ウィンニュイ。バミラにアレ頼む」


 ウィンニュイは前に出て、整った無表情な顔の中で唇だけを小さく動かし、詠唱した。


「【私は何でもお見通し。貴方のことなら何でもわかる。だけど一つだけわからない。貴方の恋慕の行き先が、私に向いているかがわからない】――【恋に焼かれた梟の目(オウル・モニター)】」


 すると、ウィンニュイの目が赤く光る。そして、それに同調、同期したようにバミラの目も赤く光った。

 ウィンニュイの使った魔法【恋に焼かれた梟の目(オウル・モニター)】。その魔法は森人族の間に代々伝わるおとぎ話をモチーフにした監視の為のものだ。

 そのおとぎ話は、とあるカラスに恋したフクロウが己の恋慕に滑稽に踊らされ、愛したカラスを常に監視するようになってしまい――というストーリーだ。そしてこの魔法は、そのフクロウのようにかけた相手を常に監視できるようになる。


「じゃ、俺はウィンニュイ通じて探偵の腕前を見ておくから……頑張れよォ」


「ご武運を、バミラ様。ニュエルの期待に応えられるよう、祈っています」


 ニュエルとウィンニュイはそうバミラに告げ、洞窟の中へと帰っていく。

 そんな二人の後ろ姿に、バミラは呼び止めるように声をかけた。


「あの! ……その二人……殺してしまっても、構いませんよね?」


 その質問に、ニュエルは笑って答えた。


「当然」



 ****



【キャラクター設定】 〜バッカス・アンクリネス〜


 ・身長……二〇一センチ


 ・体重……八六キログラム


 ・種族……天人族(不浄アンクリネス)(元酒神)


 ・年齢……不明


 ・職業……酒場『バンガン・バッカス』店長


 ・誕生日……八月二四日


 ・酒の強さ……基本酔わないレベルに強い


 ・ゲームの強さ……基本勝てないレベルに弱い


 ・好きな酒……基本的に何でも好き。悪酒は悪酒なりの味わいがある。


 ・性格……意外とお茶目な面もある

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