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File1―4 暴龍を飼う少女 〜探偵の交渉術〜

評価や感想よろしくお願いします!

 〜イラ・ペルト〜


「ぅぅぅ……」


 グリン高原。そこはピクニックやら昆虫採集やら絵を描いたり写真を撮ったり、と楽しい事をしに行くレジャースポットだ。一面に敷かれた緑色のカーペットに、綺麗な花々や可愛い動物達が戯れる高原。

 当然、そこに向かう馬車も笑顔や活気に満ち溢れているわけでして……。


「ぁぅぅぅぅ……」


 そんな和気あいあいとした中、神妙な顔で呻いているような人は私達くらいのものでして……。


「……そんなに緊張すんなよ。サービスに茶でも頼むか?」


「呑気に茶を啜る気になれませんよ……」


 ちなみにこの馬車、普通の馬車とは違いとても車の部分が大きく、定員五〇人もの大型の乗合馬車だ。

 この馬車を引く馬は『マッスルホース』という全身が筋肉質な、軍事にも使われるとてつもなく強い馬である。


「だからお前は待ってろって言ったんだよ」


「だっ、だって……ミーコが心配じゃないですか」


「……まぁ、それもそうか」


 そう言うと探偵さんは立ち上がり、サービスの人の所へ歩いていく。そして、ボトルに入った紅茶を二本とクッキーを二包み持って帰ってきた。


「奢ってやるよ、ほれ」


 探偵さんは私に紅茶とクッキーを手渡してくれた。

 私はそれを受け取る。


「ありがとうございます」


 早速紅茶のボトルを開ける。ふわっと紅茶のいい香りが私の周りを漂った。


「砂糖はもう入ってるってよ。ミルクとかレモンが欲しいなら貰ってきてやるよ」


「あっ、大丈夫です、このままで」


 探偵さん、案外気配りはできるらしい。こういう所は少しかっこいい気もする。

 私はボトルを口に当て、一口紅茶を飲んだ。……呑気に茶を啜る気になれない、と一分前に言った口で紅茶を飲むのはなんか敗北感が凄かった。

 口の中いっぱいに茶葉の風味が広がる。その中に溶け込んだ砂糖の甘みがじんわりと舌に染み渡っていく。


「……美味しい」


「こういう所で買うものって、なんか美味いんだよな」


「あ、それすごいわかります」


 実際は茶葉も安物で使ってる水とかも特にこだわりとかないんだろうけど。でも、なんか美味しい。

 サンドイッチとかも売ってるけど、こういう所で買うサンドイッチは謎の美味しさがある。パンがパサパサ一歩手前だったりソースが染み渡りすぎてべしゃっとしてる事も多いのに、美味しい。一体何なんだろう、この現象。


「おっ、クッキーも美味い」


 探偵さんがクッキーをかじりながらそう言った。

 私も探偵さんにならって包みを開けた。

 クッキーは沢山の種類があった。シンプルな飾り気のないきつね色のクッキー、チョコチップクッキー、生地にチョコを練りこんだ黒茶色のクッキー、真ん中にイチゴジャムを固めて埋めた花の形をしたクッキー、花のクッキーのオレンジジャム版とブルーベリージャム版。

 後、珍しい事に『キューカンバナナ』のジャムのクッキーもあった。キューカンバナナとは、緑色のキュウリのようなバナナで、普通のバナナとは違いシャキッとしていて爽やかな味わいだ。それでいて味はバナナなので、バナナ特有の粘り気とかが苦手な人が特に好んで食べる。普通はそのまま食べるので、ジャムとして使うのは私は初めて見た。


「いただきます」


 私はサクッとクッキーを一口齧る。素朴な甘みがとても美味しい。

 私と探偵さんは紅茶を啜り、クッキーを齧りながら、馬車にされるがままに揺られていた。



 ****



 〜レフト・ジョーカー〜


「着いたぞ」


「……着いちゃいましたね」


 俺は紳士な事に、馬車から降りる際にイラの手を取ってエスコートする。うん。こういう気配りができる男がカッコいいのだ。そういう風にベガが言ってた。

 イラは馬車から降りた後、苦笑して俺の方を向く。


「別に馬車から降りるくらいでエスコートする必要ないですよ。普通に足場ちゃんとしてますし、手すりもついてますし」


 ……そうなのだ。国営の馬車なので、設備は整っている。降りる際にちゃんとした手すり付きの階段も用意してあった。

 だが……うん。……うん。


「……やってみたかったんだよ」


 俺はそう答えた。

 だって、エスコートとかやってみたいじゃん。アレやってる執事とかって、むっちゃカッコいいじゃん。ハードボイルド感……は無いかもしれないけど、なんかこう……カッコいいじゃん。

 それにハードボイルドな男は女に優しいのだ……多分。


「まぁ……いいですけど。ありがとうございます」


 イラは微笑して俺の先を歩いていった。

 ……妙に早歩きだ。ミーコの事で焦っているのはわかるが、先走るのは無謀すぎるし良くない。


「イラ、待てって」


 俺はイラの手を取り、後ろに引いた。

 イラはバランスを崩し、俺の胸に後頭部をぶつけてしまう。俺もイラも同時に呻いた。


「「痛っ」」


 俺は胸を、イラは後頭部を押さえる。

 俺はイラに謝った。


「悪い、イラ……って、お前顔赤いぞ! そんなに痛かった!? 悪い、本当にスマンかった……!」


 イラの顔はほんのりと紅潮していた。

 そんなに強くぶつけたのか……ってあれ、イラがぶつけたのは後頭部だよな……?

 俺がそんな事を考えていると、イラは手を振って笑う。


「ふぇっ、私顔赤いです!? あっ、あははははっ、別にそんなに痛くないですから安心してください! 別にさっきのエスコートが緊張したとかでもないですから!」


 ……そうか。コイツ、さっきの俺のエスコートのハードボイルドさに見惚れちまったってわけか。

 俺がふふんと得意気になっていると、イラが『違いますからね!?』と俺を見上げてきた。照れんなよ。

 俺はそのままイラと視線を交わし、少し真面目な口調で問いかけた。


「……なぁ、イラ。こっから先はかなり危険だ。今ならまだ間に合う、この辺で待っとくか?」


「いえ、ついて行きます」


「そうか」


 個人的にはここで待っててもらった方が安全だと思うのだが……それだけミーコの事を大事に思っているのだろう。

 ……でも、タイラントと俺達がこれから先、暮らせるわけがない。タイラントはどんどん大きくなるし、食う量も多くなる。それに加えて凶暴性も増していく。


「……今考えてもしゃーねーよな。じゃ、イラ、行くぜ」


 俺はイラを連れて、緑のかおるグリン高原の整備された道を歩いていった。……のどかだなぁ。



 ****



 〜グリン高原支部所属 監視員の男〜


 俺はグリン高原の門番をしている、独身の冴えない猫型【獣人族】の男。名前なぞ、名乗る意味もないだろう。俺は劇で言うならモブAが関の山。そんな立ち位置だ。


 そんな俺でも、着々と堅実に努力し、学校を卒業……それと同時に国からの公務試験に合格。俺は運動神経が良かったことも踏まえ、公務員の職業の一つ、監視員に就職することにした。

 まぁとは言っても、グリン高原の監視員の仕事はそんなに体力を使わない。グリン高原の公有地周りには危険な動物や魔物もいないので、基本的に俺達は戦うことはない。

 俺達の主な仕事は、この公有地を抜けて国の管理していない危険な所へ赴こうとする常識知らずを追い返すことだ。

 とか思ってる間に、ほら来た。


「ったく……仕事を増やすなよ」


 俺は舌打ちをして、公有地の境界線近くで何かしている二人組の男女に近づく。

 歳は……ソフト帽を被った男の方は俺と大して変わらなさそうだが、クッキーを食べている女の方は幼い。一二……一三くらいか? 何やら怪しい匂いがしてきた。こんな所で未成年がうんぬんかんぬんな犯罪を犯そうとしているんじゃあるまいな。

 俺はもしもに備え、なるべく相手を刺激しないようににこやかに近づく。人よりも高めなコミュニケーション能力が光る時だ。


「すみません、お兄さん方」


 俺はソフト帽の男の方に話しかけた。男は俺に気づくと、首から変なペンダントをかけた。色はくすんだ砂色。質の悪そうな宝石だ。

 近くで見ると、少し童顔だが中々いい顔をしている。畜生、イケメンめ。俺みたいなモブ顔に一割でもいいから寄越せ。身長も俺より高いし。


「ここで何してるんですかね?」


 俺は内心の嫉妬を見透かされないよう、笑顔で接する。

 営業スマイルならぬ公務員スマイル。喉が渇いてきたので唾を飲み込んだ。

 ソフト帽の男の方が口を開く。一々どこかカッコつけているような、芝居がかった仕草が気になった。


「あぁ……俺は探偵。この女は依頼人だ」


「へぇ。探偵さんでいらっしゃいましたか。その探偵さんが、この高原にどういう御用で?」


「ちょっと、な」


「はい。ちょっと、です」


 女の子の方も割り込んできた。

 ……よく見たらこの子、俺のお袋がよく利用する肉屋の夫婦の娘じゃないか? 俺も一度あの店にお使いに行ったことがあるから覚えている。あの子、かなり可愛かったが……少し成長して、更に綺麗になっている。いや、まだ幼さは抜けていないが。

 ……っと。今は仕事だ。

 俺は笑顔を崩さずに、額に浮かんできた汗粒を拭い、その答えにさらに言及した。


「ちょっと、なんですか?」


 俺が詰め寄ると、探偵の方は明らかに焦っていた。

 ぶつくさと『畜生……国に見つかった』とか聞こえる。肉屋の娘ちゃんの方も『探偵さんがかっこつけてその辺の花の説明とかしてるからぁ……』と小声で嘆いている。

 なるほど、確かに二人の足元には桜のような淡いピンク色の花が三輪ほど咲いている。確か、この花の名前は『ピュリエモーラ』。このグリン高原のどこかに、この花が群生するそれはそれは美しい花畑があるらしい……。花言葉は確か――って、今はどうでもいいのだそんなこと。

 ……しかし、急に暑くなってきたな。

 俺がそんな事を思っていると、探偵がしどろもどろに口を開く。


「……ちょっと、えーっと……。こ、この先に行きたいなぁって」


「……探偵さん。一般人が行けるのは公有地まで。ここから先に行けるのは憲兵さんとか許可取った狩人ハンターとかですよ。許可取ってるなら通しますけど」


 一〇〇パーセント有り得ない。

 許可取ってるなら、もっと堂々としてるはずだし、何よりここから公有地を出ようとはしない。専用の入口がある。


「……だって、私立探偵が許可申請しても認めてくれねーじゃんか」


「危険ですからねぇ。せめて探偵さん達が【森人族】とか【地人族】とかなら特例措置与えてもいいんですけどねぇ……二人とも人間族でしょ」


 人間族は他の種族と違い、特殊な能力を有していない。

 エルフ、とも呼ばれる【森人族】は【魔法】を。ドワーフ、とも呼ばれる【地人族】は【超怪力フルパワー】を種族固有能力として持っているので許可も下りやすいが……。

 人間族は発想力なら他のどの種族にも負けないのだが、戦闘には向いてるとは言い切れない。向いていない、とも言えないのが微妙な所だが。

 まぁ人間族は他の種族からは“半端者”として見られることが多い。そして、半端者が国に許可申請しても下りないのは自明の理。更にそれが私立探偵となれば尚更だ。

 ……しかし暑いな。まだ春だってのに。真夏のような暑さが、俺の肉体を蒸し上げていくようだ。


「人間族じゃ許可は下りませんね」


 俺はズビシッと言い切る。

 これで諦めてくれるといいのだが……。

 だが、この人間の探偵は物分りが良かったらしい。

 隣にいる依頼人である肉屋の娘ちゃんに何か耳打ちをした探偵は、その彼女自身に頬をビンタされてしまった。快音だった。脳天からつま先まで突き抜けるような、そんな刺激的な音だった。

 そしてどこかへ走り去っていく彼女を横目に、探偵はしばらく『痛ぇ……加減ってモンを知らねぇのか……!?』とか呟きながら悶絶し……そして、頬の痛みが治まったのか、ビンタの痕を残しつつも降参したかのように手を挙げた。


「あ〜……わかったよ。国の意向なら仕方ねぇ」


 そう言うと探偵は懐から一本の瓶を取り出した。その中には茶透明な液体がちゃぷちゃぷと揺れている。……さっきから急に暑くなり、すごく喉が渇いて仕方がない。汗も凄い。ゴクリ、と俺の喉が鳴る。

 探偵は笑いながら瓶を差し出し、言う。


()()()お勤めご苦労様。そういや俺、さっき馬車の中で紅茶買ったんだ。これ、よければどうぞ」


 ……今は仕事中。だが……これは紅茶だ。酒などではないだろう。

 それに、この探偵が嘘を吐いて俺に毒を盛る、なんてこともないだろう。さっき国の意向なら仕方ねぇ、と言っていたし、その国の意向に背くとは思えない。

 先程肉屋の娘ちゃんに告げたのは恐らく依頼の断念だろう。それに怒った彼女は探偵にキレてビンタして走り去った。あのビンタの音からして、かなり怒っているだろう。男の方もしばらく悶絶していたし。

 我ながら名推理。探偵に向いているかもしれない。

 俺は少し鼻を高くしながらその瓶を受け取り、栓を開けて一気にあおった。


「――グッぶ……!?」


 口に入ったその液体は、舌の上を転がった。

 焼けるように舌が熱くなる。この探偵……まさか、毒を……!?

 俺はパニックになり、その液体を飲み込んでしまう。すると、体の奥からほこほこと温まってきた。

 そして俺は気付いた。


「……これ、毒じゃねぇ……!?」


 これは――ブランデーだ。

 しかも、度数が超強いやつ。

 更に、この味わいは――鼻の奥でくすぶるブドウのような甘い香りは……! アルコールの吸収速度を早める、ブランデーの材料にも使われる『バッカスの果実』……!

 バッカスの果実が飲まされたブランデーのアルコールを即座に吸収させていく。

 俺の視界は歪み、発汗、動悸、頬の紅潮、エトセトラエトセトラ。俺はその場にぶっ倒れた。


「騙しやがったなクソ探偵……!」


 俺は怨恨を込めて、アルコールの影響で熱っぽくなった息と共に言葉を吐き捨てる。

 だが、探偵は笑う。


「騙すなんて人聞きの悪い。確かに俺、『さっき、馬車の中で紅茶を買った』とは言ったけどよ……『この瓶の中身がその紅茶です』とは一言も言ってねぇよ? 確認を怠ったアンタのミスだ」


「な……ガッ……!」


「今な、イラに喧嘩別れしたフリしてもらってお前の上司呼びに行かせてる。適当に理由つけさせてな。アンタ、新人だろ? 『新人が勤務中、真っ昼間から酒飲んでぶっ倒れてる』なんて状況……最悪クビだよな?」


「――!」


 俺は固唾を飲む。

 モブなりに俺は必死に努力してきた。難しいと言われる公務試験を一発合格するくらいには、努力を重ねた。

 それが……こんな単純なミスで、崩れ去るのかよ……!?


「さ、ここから先はハードボイルドな取引だ」


 探偵は口角を上げながら俺の視界に一錠の薬カプセルを見せてきた。


「これはアルコールを分解してくれる即効性のある薬だ。コイツを飲めばアルコールはあっという間に分解されて尿と一緒に体の中からおさらばだ」


「……寄越せっ」


「取引だっつってんだろ? この薬が欲しけりゃ……特例措置で、俺達をこの先に向かわせろ」


 さっきの話ぶりからして、新人のお前にもそのくらいの権限はあるんだろ? ……と、探偵は続けた。

 俺はその悪魔の囁きを――即座に飲んだ。


「わかった、わかったよ! お前ら通してやるから……その薬打ってくれぇ!?」


「よし……取引成立、だな」


 そう言うと探偵は俺の口にカプセルを放り込み、そのまま飲み込ませた。

 それと同時に薬の副作用か、それとも安心したからなのか深い眠気が襲ってきた。俺はその眠気に抗えず、ぐっすりと眠ってしまった。


「じゃ、おやすみ。起きたらパンツとか大変なことになってるだろうけど……ま、頑張ってな」


 探偵は申し訳なさそうに笑うと、この場から逃げるようにして去っていった。

 ……そう言えば、その薬、アルコールを尿として排出してくれるんだっけ……? 今俺が寝たら……俺の中のアルコールが分解されて……もぉ、いいや。なんかすごいことになるんだろう。それよりも俺は、今すぐこの場に眠りたかった。

 俺はそっと目を閉じた――。



 ****



 〜レフト・ジョーカー〜


 俺は額を服の袖で拭いながら、首からかけていた砂色の宝石のペンダントを取った。

 これは『砂漠の涙』と呼ばれる宝石だ。この宝石には幻惑能力があり、この宝石を視認した者は、砂漠にいる時のような喉の渇きや発汗に襲われる。


「探偵道具の一つ、『砂漠の涙ペンダント』」


 俺はソフト帽を被り直し、そう呟く。

 このペンダントは俺の特注品。砂漠の涙を加工してあり、持ち主である俺に対しては幻惑能力が発動しないようにできている。

 砂漠の涙なんて宝石はその特性ゆえに扱いが難しい。その割には色もくすんだ砂色で、見た目が悪い。だから、ほとんど流通していないし知名度も低いのだ。


「オヤジもいいモン造ってくれて……いい仕事してるぜ」


 先程この監視員を騙して飲ませた酒は、元酒神特性のブランデーだ。名前は『酒神の悪戯(バッカス・トリック)』。

 アルコール吸収速度を早めるバッカスの果実で造ったその酒は、一口飲めば常人なら即座にベロベロになる。


 で、先程飲ませたこのカプセルは嘘偽りなくアルコール分解剤だ。飲めば二日酔いでもケロッと治る、地味にお高いお薬である。

 だが、コイツは分解したアルコールを尿として排出する。まぁだから、コイツを打った後、このモブ監視員みたいに寝ちまったら……数年ぶりのおねしょ体験だ。しかも真っ昼間から、観衆の眼前で。


「……悪ぃな。頭が固いお前が悪いってことで、許してくれよな」


 そう告げるとイラが帰ってきた。

 呑気に『もう終わりました〜?』と歩いてくる。

 俺はイラに親指を立て、その疑問に答えた。

 そして俺は、笑顔で歩み寄ってきたイラに対し愚痴を吐く。


「……イラ。ビンタはあくまでフリだったんだから、優しくしてくれよアホじゃねぇの!?」


「いや、だって……本気でやらなきゃ騙せないかと思いまして」


「本気すぎるだろ! もっと加減しろバカ!」


「後は……ストレス解消ですかね。探偵さんのカッコつけが若干イラッと蓄積されてまして」


「えっ何それ傷つく!」


「冗談ですよ」


 ……ぐぅ。依頼人のくせに。

 まぁともかく、筋書きはこうだ。


 まず、わざと監視員を呼び出す。……あくまでわざと。決して、カッコつけてイラに花の説明しようとしたら見つかってしまった、とかではない。

 で、監視員に見つかってしま……監視員を呼び出した所で、砂漠の涙ペンダントを見せつけ、強制的に喉を渇かせる。

 そして、監視員のお説教を聞いた後、イラにこっそりと『俺に怒って愛想尽かしたフリしてどっか行ってこい』と囁く。これでバカな監視員は『俺が依頼の断念を伝え、それにイラが怒って愛想を尽かした』ように見えたはず。

 ここで誤算だったのが、イラが思いっきりビンタしてきた事だ。恐らく怒りの演技のためだったんだろうし、演技に信憑性しんぴょうせいが出たから結果オーライだが……あの衝撃と痛みで、俺、ここから先の算段ぶっ飛びかけたからね。この後、『バッカスの果実のブランデー飲ませて酔っ払わせた後で、アルコール分解剤をエサに公有地を抜ける許可を貰う交渉をする』って作戦が吹っ飛びかけたからね。

 畜生……痕ついてるだろこれ。


「まぁ、これで先に進めるな。……行くぜ、イラ」


「はい、探偵さん」


 俺達は公有地との境界を示す柵を乗り越え、グリン高原の危険指定地区に足を踏み入れた……。



 ****



 余談だが、その日から数日、グリン高原で寝ながら失禁した監視員が話題になった。

 その監視員の痴態は幸運にも『監視員って厳格なイメージあったけど、案外気楽なのかも』と、監視員という職業へのイメージを向上(?)させ……その結果、従来のイメージから人材不足だった監視員は、翌年から人材不足に悩まされなくなった。

 まぁだが、失禁した監視員はしばらくの間、肩身の狭い恥ずかしい思いをしたそうな……。



 ****



【キャラクター設定】 〜ウラナ〜


 ・身長……ずっと座ってるので不明だけど結構小さめっぽい


 ・体重……不明だけど指細いし多分軽いと思う


 ・種族……神子族らしいけど本人の証言に基づくので正直うさんくさい


 ・年齢……不明だけど喋り方がババくさい


 ・職業……怪しげな路地裏で怪しげな占い師を営む


 ・誕生日……不明なのをいいことに大体二ヶ月に一度の間隔で誕生日プレゼントを求めてくる


 ・性別……不明だけどボーイズラブとガールズラブを嗜むらしい


 ・性癖……不明だけど結構何でもイケるっぽい


 ・座右の銘……『性別の垣根は障子紙より薄いものだ』って言ってたらしいと常連客が言ってたっぽい


 ・『正直な所、こんな路地裏で占いなんかしてて稼げてるの?』と聞いてみた……無言で何も答えなかったため不明だが明らかに目を背けた

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