File4―20 怪力強盗と血色の悪魔 〜再幕のベルが鳴る〜
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〜ウィンダリア王城〜
日は着々と沈んでいった。
それにつれ、ゆっくりと辺りは薄暗くなり、空は星の輝きを思い出していく。
「……そろそろ、来るな」
とあるうちわを扇ぐ憲兵は、静かに自分の団員に『備えておけ』と指示を出した。
「……夜が来るね。きっとまた……少なくとも怪盗の方は来るんだよね」
「多分……そうでしょうね」
とある異世界出身の女子高生と肉屋の看板娘の二人は、互いに身を寄せ合って恐怖を紛らわす。
「絶対に、盗ませてはならぬ……」
「わかってます、父上」
とある国王と若き王子は、『鋼の炎杖』を前に決意を新たにする。
「今夜は色々と騒がしそうだな……」
とある喫茶店の店主は、膨大な資料が積まれる書庫の中で、外の様子を嘆いた。
「さて、再び実験経過の観察に行ってくるよ」
とある博士は、コートを翻して夜の中に紛れていった。
「……今度こそ、奪い取る……“奪取”する」
とある怪盗は月に手を伸ばし、ぐっと拳を握り締める。
「さて行くかウィンニュイ。探偵狩りだ」
「影、入れますよ」
とある殺人鬼とその従者は、不敵に笑いながら影の中に飛び込んだ。
「……絶対に負けない」
とある探偵の片割れは、冷静沈着中に確かに闘志を燃やしていた。
そして。探偵の、もう一人の方は――!
****
「うおおおおおおおすっげ! リナリアの電気椅子すっげ!」
王女の部屋で、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
そこには微塵も緊張感は感じられない。
「身体中のこりが一気にほぐれた!」
「なら良かったわ」
うっひょひょいと喜ぶレフトを、微笑ましく見つめるリナリア。そんな二人を見つめるタレイアも、心無しか嬉しそうだ。
ふと急に、レフトはリナリアの方を向き笑いかけた。
「なんだよお前。自分にはなんにもできない、とか言ってたけど、こういうの作れるじゃんか」
「……へ?」
「いやだから。電気椅子とか作れるじゃん。それってすげぇと思うぜ。俺ならただの椅子すら作れねぇと思うし」
ライトなら作れるかな〜、と電気椅子を感心した様子でぺたぺた撫でるレフトに、リナリアは確かに頬を赤く染めた。
――私の、出来ること……。
リナリアは己の胸の前で手を強く握りしめた。
「お前、こういうの向いてるんじゃね?」
「……そう、かもね。ありがと」
目を逸らしながら、ぶっきらぼうに礼を言うリナリア。
その姿にタレイアは訝しげに目を細めた。
(まさかお嬢様……惚れた?)
いやまさかそんな、我がお嬢様がそんなチョロい訳がないとタレイアはすぐに首を横に振った。
そんなタレイアを見て、リナリアは首を傾げる。
「どうしたのタレイア?」
唐突に聞かれたため、タレイアは考えていた事をそのまま口に出してしまう。
「いえ……もしかしたら、お嬢様がレフト・ジョーカーに惚れてしまったのでは、と……」
「――!?」
瞬間、リナリアの顔は真っ赤に染まった。
リナリアはすぐに首を捻り、電気椅子を眺めるレフトの方を見た。
「レレ、レフト……今の話、聞いてないわよね?」
「ん? 今の話……? 今何か話してたのか。悪ぃ、聞いてなかった。もう一回言ってくれ」
お前の電気椅子に感心しててさ――そう、話を聞いていなかった言い訳を述べるレフト。
リナリアは胸を撫で下ろし、手でレフトの言い訳を制した。
「いえ。聞いていなかったらいいの。そのまま電気椅子を眺めていなさい」
「え? あ、うんわかった」
リナリアはひとまずレフトにそう告げると、タレイアを自部屋の隅へと追いやり、問い詰めた。
王女の部屋だけあって、かなり広い。今、リナリアとタレイアのいるポジションはレフトからの死角に成り得る場所だった。
「……で? 誰が何に惚れてしまったって?」
青筋を立てながらリナリアはタレイアを追い詰めていく。
タレイアは頬を引き攣らせながら震えた声で答えを返す。
「いっ、いえっ、レフト・ジョーカーにリナリア様が惚れてしまったのではないかと、ふと! ふと思っただけでして!」
それを聞いた途端、リナリアの顔は再び朱に染まる。
リナリアはタレイアの腹を殴りつけた。
「んなわけないでしょうッ!?」
「ウゲほゥっ!?」
タレイアの体がくの字に折れる。そして、その体勢のままゆっくりと前へと倒れ、タレイアの体勢はくの字からへの字に変わった。
「わっ、わたわたっ、わたっ、しがレ……レフ、レフ、トに、惚れてしまった!? 無いわ!」
「はいそうですよね私が悪かったです……」
「私が! 庶民に! 惚れるわけがない!」
「すみませんでした……」
土下座するタレイア。
そんな彼ら彼女らの騒ぎを聞きつけたレフトが、二人のいる部屋の隅へ顔を覗かせた。
「どうしたリナリア〜? 誰かが何かに惚れただの聞こえて――」
「なんでもないわよっ、この愚民!」
「なんでブげふぉァ……!?」
突然現れたレフトに驚き、リナリアはその場にあった枕を思いっきりレフトの顔面に投げつけてしまう。
そんな様子の、真っ赤になったリナリアを見上げてタレイアは思う。
(顔面に枕を投げつける、なんて暴力的な事を惚れた相手に出来るはずがない……。やはりお嬢様はこの男に惚れてなどいないのだな。よかった)
ほっと胸を撫で下ろすタレイア。
真っ赤になりながら慌てふためくリナリア。
急に枕を投げつけられ、混乱するレフト。
この場を一言で示すのならば、『混沌』という言葉が一番似合うだろう。
そして、そんな現在の状況を更に掻き混ぜるかのような出来事が巻き起こった。
それは、警鐘と共に鳴り響く。
『――怪盗ダッシュ、襲来! 全員持ち場につけー!』
告げられた命令に、三人は揃って声を張り上げた。
「「「忘れてたっ、わざわざ今!?」」」
――さぁ、昨日の再幕だ。
****
〜レフト・ジョーカー〜
「悪い、俺ちょっと行ってくる!」
「あっ、気をつけなさいよ!?」
リナリアの言葉を背中に受け、俺は部屋を出た。
廊下を駆けていき、俺は昨日セルベールから言われた通りの持ち場――即ち昨日二ュエルと戦ったベランダだ――へ着いた。
既にライトやイラ、エルは緊張感ある面持ちになっており、自分だけが取り残されたような気分になる。
イラが俺に気づき、駆け寄ってきた。
「探偵さん、どこ行ってたんですか?」
「リナリアの部屋」
「へー、リナリアの部屋……王女様の部屋!?」
目を見開いて驚くイラ。
……そういやイラ達女子勢は部屋が違ったから話してなかったっけ。
俺はリナリアとの間にあった事を簡潔にイラとエルの二人に伝えた。
「……えーっと、つまり。レフトくんは、王子様だけでなく王女様にも手を出したって事?」
「いや言い方おかしくね? 俺が二股かけてるみたいじゃねーか」
「ごめんまだ混乱してる……」
頭を抱えるエル。
イラは頭の中の整理が出来たのか、エルよりは冷静だった。
イラはふと俺に問い詰めるような視線を送ってきた。
「……探偵さん」
「なんだよ」
「王女様に、何かしら失礼な事をやらかしてませんよね?」
「失礼な事? そんなもんやらかしてるわけ――」
……天井壊して胸に顔を埋めたな。
俺は思い当たる節があったため、一瞬沈黙してしまう。それが良くなかった。
「やらかしちゃったんですか!?」
「ばっ、馬鹿野郎! そんなのじゃねーよ!」
「じゃあ、そんなのじゃないならどんなのなんですか!?」
「そりゃあお前……こんなのだよ」
「だからそれの具体的な内容を聞いてるんです!」
「それは僕も聞きたい」
「うわっ、急に話に入ってくるねライトくん。……面白そうだし、私も聞きたい」
「ライトにエルまで!? 待てお前ら、聞いてもさほど面白くねーって」
ずずい、と三人に詰め寄られる俺は、冷や汗を垂らしながら必死に言い逃れようとした。
しかし、三人は逃がしてくれそうにない。
「言いたまえ」
「つまんなくても聞いてあげるよ」
「私達に言えないような事なんですか?」
……俺は目を逸らしながら、口を開いた。
「……あれは今から三〇〇年前」
「ふざけないでください」
「ごめんなさい……」
即、イラに怒られた。
俺はすぐに平身低頭の姿勢をとる。そのまま俺は、項垂れたままため息を吐いた。
このままでは不味い。多分だけど怒られる。今もイラに怒られたけど、多分もっと怒られる。リナリアの天井壊して以下省略的な事をしたと知られたら、主にイラがめちゃくちゃ怒ると思う。
何とかして話題を変えなければ――そう思った瞬間。再び警鐘が鳴った。
『探偵共! お前らも来い、サンマルマル地点だ!』
脳内に電流が走る。
これに乗じて話題を変えよう。
「ほら、呼ばれたぞお前ら! 行くぞ!」
こうして俺達はバタバタと廊下を駆けて行った。
****
〜ウィンダリア王城 廊下〜
レフト達四人は廊下を走っていた。
廊下の天井近くの窓には、ガラスの代わりに美しいステンドグラスが張られていた。赤、青、白などの様々な色合いが緻密に計算された配置の元に輝く。
そして――その輝きが、一瞬暗く影を落とした。
「――探偵ッ!」
――バッシャアアアアアン! ……と、盛大にステンドグラスが砕ける音が廊下に響いた。それと共に飛び込んでくる二つの影。カラフルなガラスが鋭利な破片となってレフト達に降り注いだ。
飛び込んできた二つの影は、レフト達の前に躍り出た。
「よう、探偵。昨日の続きだ」
「……二ュエルに、ウィンニュイ」
影の正体をレフトは表情を苦渋に染めながら呟く。それと同時に、割れた最後のステンドグラスの破片が廊下にぽとりと落ちた。
影の正体――二ュエルとウィンニュイは、不敵に笑う。
その二人を見て、まだ面識のなかったライトと映瑠は目を見開いた。
「レフト……コイツらが」
「ああ。二ュエルとウィンニュイ……絶賛指名手配中の殺人鬼共だ」
ライトの質問に、レフトは冷や汗を流しながら答える。
だが、レフトの説明にウィンニュイが不愉快そうに訂正を入れる。
「そこの探偵二人。私と二ュエルを一緒にしないでください。私は仕方がなく二ュエルに付き従っているだけです」
「どうでもいいよそんな事……指名手配犯に変わりはない」
ライトはウィンニュイを睨みつけた。同じようにレフトもウィンニュイを睨む。
それを見ていた二ュエルが、二人の視線からウィンニュイを庇うように前に出た。
「おいそこの探偵と探偵二号。何ウチのウィンニュイにガン飛ばしてやがる」
ライト達四人を睨み返す二ュエル。
イラと映瑠は、怯えを隠せない。二人身を寄せ合って震えていた。
そんな二人を庇うように、レフトとライトも前に出る。
「悪いが俺は貧相なボディラインの女は眼中に無ぇ」
「僕はそもそも悪党の時点で眼中に無い」
そんな二人の発言に、二ュエルは憤った。
「テメェら俺のウィンニュイディスってんのかゴラァ!」
「ちょっと探偵さん、今一瞬私の方見て『貧相なボディライン』って言いましたよね!? どういう意味ですか!」
……ついでに、イラも憤った。イラをなだめる映瑠を他所に、レフト達二人と二ュエル達二人は戦闘態勢に入る。
「テメェら二人は女を見る目がねぇなァ。教えてやるよ」
「結構だ。特に興味は無い」
「一応言っておきますけど、私、イラよりはマシですから」
「それは知ってるよ。俺、アイツの上司だし」
「なんでこの流れで私がディスられるんですかおかしくないですか!?」
「まーまーイラちゃん今そんな事言ってる場合じゃないから……」
憤慨するイラを映瑠が安全地帯まで引きずっていく。
それと同時に、戦闘の火蓋は落とされた。
****
〜ライト・マーロウ〜
「行くぞ探偵二号!」
二ュエル・ボルゴスが僕にナイフの切っ先を突き出した。ナイフと言っても、吸血族の【血操】能力で作った血のナイフだが。
しかし、素材は液体でも硬度は鉄にも優る。突き出されたナイフを手の甲で弾きながら、僕は『奴は相当の血操能力の使い手だ』と気を引き締めた。
「お前も中々やるじゃねぇか……お前も殺りてぇ、殺らせろよ!」
「あはは無理無理。キミみたいな下品な輩のナイフなんて、僕には届かないよ」
僕は右腕のダイヤルを『中』に合わせた。緑色の竜巻が右手に纏わる。
奴は僕の右手を見て、舌打ちをした。
「チッ……。めんどくせぇな、あの竜巻」
そう言うと奴は、己の右の手の平を爪で切りつけた。奴の右手から血が溢れ出る。奴はその手の平を僕に向け、左手の甲で右手の甲を扉をノックするかのように叩いた。
「食らえ」
同時に奴がそう言った刹那。奴の右手の平の傷から血が、まるで弾丸のように玉となって吹き出した。
「――くっ!?」
僕は瞬時に右腕のダイヤルを『強』に合わせ、血の弾丸を強風で弾いた。
しかし、その頃には奴の姿はどこかに消えていた。
――一体どこに!?
僕は背後を振り向いた。それと同時に――
「やっぱりまずはテメェだ、探偵!」
――奴が、ウィンニュイ・ヴェーラと戦っていたレフトに襲いかかっているのを視認した。
「レフト!」
僕は叫びながら右腕のダイヤルを『弱』に合わせた。
そして、レフトに群がる悪党二人に向けて空気砲を撃ち出した。
――しかし。
「あぶねっ」
「おっと」
悪党二人は空気砲を身軽にかわし、そして――
「へぶっ!?」
――僕の相棒に当たってしまった。
「あっごめん」
「ごめんで済むかぁ!?」
「そこを済ませてこそのハードボイルドだよ」
「……うっし、許してやる。俺のハードボイルドな心の広さに感謝して、次から気をつけろよ」
「はいはーい」
レフトの気の鎮め方は非常に簡単だ。とりあえずハードボイルドと絡めて煽てておけば単純だからすぐに機嫌を治す。チョロいものだ。……我が相棒ながら嘆かわしい。
「……で? キミ、結構苦戦気味っぽいけど」
「……女相手だとやりにくいんだよ」
「ちゃんとしたまえ。変わろうか? 僕は男女分け隔てなく殴れるし」
「……あー、もうそれでいいや。頼んだぜ相棒」
「承った」
僕はレフトとハイタッチし、相手を変えた。
即ち、レフトが二ュエル・ボルゴスを。僕がウィンニュイ・ヴェーラを相手取るという事だ。
「……って訳でお前は俺だ、二ュエル」
「元から願ったり叶ったりだよ」
レフトと二ュエル・ボルゴスが睨み合う横で、僕もウィンニュイ・ヴェーラに『中』により竜巻を纏わせた拳を突き出した。
「僕にフェミニズムとか女尊男卑とか、そんな考えはない。強いて言うなら男女平等だ」
「あら、素敵。素敵すぎて反吐が出そうです」
にこやかに言葉を交わし合った僕らは、そのままぶつかり合った。
****
【小話】〜レフトが出ていった後のリナリアの部屋〜
「……レフトは大丈夫かしらね、タレイア?」
「まぁ、何とかするでしょう。あの探偵なら」
「随分レフトを買ってるのね」
「……ええ、まあ。誰にも壊せなかった鳥籠を、壊した男ですから」
「……? どういう意味?」
「こちらの話ですよ、お嬢様」
「ふぅん……言っとくけど、私は惚れてなんかないからね?」
「わかっておりますとも」
「本当に本当だからね?」
「わかっております。普通の女の子ならば、惚れた相手の顔面に枕を投げつけるなんて暴力的な事はしませんしね」
「……あーそうね! そうよね! そうですねっ!?」
「……え、何怒ってるんですかお嬢様」
「別に怒ってないわよっ、馬鹿!」




