File4―12 怪力強盗と血色の悪魔 〜危うきアイデンティティ〜
〜レフト・ジョーカー〜
……ん。
ここ、どこだ?
目を覚ますと、知らない天井。……結構豪華な天井だな。まるで城の中みたいな……!
「……そうだ」
俺……二ュエルに負けて……ギリギリの所で離脱して。
そんで、近くにいた憲兵の人に助けて貰って……そっから先の記憶はない。気を失っていたからだろう。
周りには沢山の医療用のベッドがあり、他の重体な憲兵達が俺と同じように寝かされていた。まだ寝かされている数は少なく、ベッドもダダ余りだ。
ここは医務室だろうか?
「……畜生」
俺はまだぼんやりとする頭で考える。
何がいけなかった。どうやれば勝てた。なんで俺は二ュエルに負けた?
「あー……畜生」
言葉が出てこない。
ただただ、形容できない後悔が喉の奥に貼り付いていた。
「……喉、乾いた」
俺は辺りを見回し、水分を探した……すると。
「あのっ、きゅ、急患一人です!?」
……聞き覚えのある声が響いてきた。
この声……イラ?
「機人族の方ですか。それなら、あちらに専門の方がいらっしゃいますので、そちらで診察をお願いします」
事務員のローテンションで空虚な言葉が聞こえてきた。
……機人族? まさか。
俺は布団を跳ね除け、ベッドから転げ落ちるようにして立ち上がった。
ふらつく足取りで、イラの声が聞こえた方へ向かう。
「イラ!」
すぐにイラは見つかった。エルも一緒だった。
俺はイラに呼びかけると、イラも俺の方を見て驚いていた。
「探偵さん? 何でここに?」
「……そ、それは後で話す。それより、どうしたんだよ」
イラに『ライト呼んできてくれ』と命令しておいて、それより先にやられてしまった手前、二ュエルに負けたとは言いにくかった。
言葉を濁し、イラの方を先に言わせる。
「えっと……ライトくんが、こんな感じに」
代わりにエルが答えてくれた。
エルの背中には、ぐったりと力を無くしたライトがおぶられていて……。
「ライト!?」
ライトをここまでおぶってきたエルの力も驚きだが、今はそんなことよりもライトのその姿への驚きの方が強かった。
ライトが、負けた。そんなことはほとんど無いのに。
「……意識は?」
「気絶しちゃってるみたい。生きてるとは思うんだけど」
「とにかく、診てもらうぞ」
事務員の俺を止める『貴方は寝てなきゃダメですよ!?』という声を無視して、俺はイラに支えてもらいながら機人族専門の医者(技術者と言った方が正しいか)の所へ行った。
イラの肩に腕を回した時、ほんのりイラの顔が赤くなった気がしたが、今はそんなことに構っている暇はなかった。
****
診療室。イラとエルには席を外してもらっている。代表として俺がライトの診断結果を聞いているというわけ。
「ふーむ……ちょっとショートしてたり、部分的に発熱が酷かったりはしてるけど、一応処置はしておいた。まぁ後は、生物的に言うなら『寝てれば治る』ってヤツかな」
一通り意識を失ったライトを診察し終えた、女……いや、男かな……性別どっちかわかんないけど、医者の先生はそう言った。
だが、本当にそれでいいのだろうか。心配で仕方がない。
俺は身を乗り出して問い詰めた。
「本当ですか」
「ああ。機人族は全身にナノマシンが満ちてて、それがある程度の傷なら自己修復してくれるんだ。キミ達で言う所の細胞とか組織液とか、そんな感じかな」
先生はそう言いながら、静かに眠るライトの髪をすくった。
俺はそれを聞いてもまだ安心できない。
「いつ、いつ目覚めますか」
「うーん……この子の性能次第だけど、並の機人族なら一日二日寝てれば目覚めるでしょ」
「もし目覚めなかったら」
「そん時は私がヤブだったって事だね。キレイサッパリ辞めるよ」
「いやそうじゃなくて……手術的な事はしないんですか?」
「うーん……やってもいいけど、多分目覚めると思うし必要ないと思うよ? ……それに」
「それに?」
なんだ。急に不穏になってきたぞ。
俺は生唾をごくりと飲み込んだ。
「なんて言うか……うーん……。文系科目は苦手だから上手く言えないんだけどね? この子……ライトくんだっけ。なんか違うんだよね」
「……どういう意味ですか」
俺は再び問い詰めた。
先生は後頭部をかきながら笑った。
「基本的な構造は機人族なのよ。けど……他の機人族にはない部品が追加されてたり、中には見た事ないパーツまである。例えるなら、人間族なのに心臓が二つあるとか、謎の臓器があるとか、そういう感じ。だから、手術的な事は怖くて出来ないなぁ」
「……それ、大丈夫なんですか?」
「まぁ、特に私の目にはそれらが悪さしてるとは思えない……むしろ、他の機人族よりも強くなってると思うよ」
「けど、万が一」
「そう。万が一が有り得るんだけど、その万が一は今回の怪我とは関係無いよ。あくまでこの子自身の出自とか、そういう問題。キミが今ここに来た理由は、この子の身体の謎の解明とかじゃないでしょ? なら、診察はこれでおしまい」
そう言うと先生はカルテを閉じて、次の患者を呼ぼうとした。
ちょっと、待ってくれよ。
「なっ、待ってください!」
「安心しな。医者の立場としては断言できないけど、私個人の立場としては絶対目覚めると断言してやれる。この子は凄いスペックの持ち主だ」
「けど! ライト、なんかこう……おかしいんだろ!?」
敬語を忘れるくらい、パニックになってしまい、上ずった声が出た。
先生は嫌そうな顔をしながら、懐をまさぐる。
「……しつこいなぁ。もっと他に、診なきゃいけない人が沢山いるんだけど。けど、それじゃキミは満足してくれないだろうから……」
そうして懐から取り出したのは……名刺だった。
「はいこれ。私の名刺。連絡先とかも書いてあるから、もしライトくんに何かあったら連絡寄越しな」
「は、はぁ」
「一応誤解なきよう言っておくとね、私個人としてはライトくんにはすごく興味がある。研究者として食指が動く。もっと診たい、知りたい。だがね、私は今は研究者としてではなく、医者としてここに立ってるんだ。他の誰かを特別視する事なんて出来ない」
「……はい」
何となく、言いたいことがわかった気がする。
要は、この先生は『この事件が終わったら私にまた診せに来い』と言っているのだろう。
俺はその名刺を大事にポケットにしまった。
先生はそれを見て笑った……かと思うと、ふと思い出したように俺に話しかけてきた。
「あ、そうそう。誰にもライトくんのこの……ちょっとおかしな所、言っちゃダメだよ。本人にもね」
「え?」
「ハッキリ言うとね、ライトくんは【機人族】じゃない可能性も出てきたわけ。まだ可能性だけど。機人族を超越したナニカ、と言い換えてもいい」
「……それでも、俺達のライトへの気持ちは変わりませんよ」
「仮にそうだとしても。機人族が他のどの種族よりも自己同一性を重視する事は知ってるでしょ?」
……俺は黙って頷いた。
機人族は、機械の体にデータの思考、という他の種族とは完全に違う部分がある。命の概念というか、形そのものから違うのだ。
そして、機人族のほとんどはその事にコンプレックスを抱いているらしい。
他の種族は遺伝子とかDNAとか、そういう『これが私です』と名乗れる証拠がある。でも、機人族にはそれがない。
簡単に複製ができてしまうのだ。クローンなんかよりも、簡単に。
それが、彼らにとってたまらなく居心地の悪いものらしい。
だから、彼らは特徴を欲する。『これが私です』と名乗れるだけの、特徴を。
例えば、リューを思い出せばわかると思う。女なのに一人称は『ボク』だし、語尾には必ず『〜であります』を付ける。やたらと騒がしいし、後先考えない猪突猛進タイプだ。変わり者、という評価が一番似合う。
リューがそういう奴なのも、機人族であるが故だろう。他にも大抵の機人族は、一人称や口癖、語尾が変だったり、服装が奇抜だったり、やたらとぶっ飛んだ思考回路をしてたりする。機人族のそれらは全て、自分が自分であるために、精神が無意識下に作り出した特徴なのだ。
機人族は……アイデンティティに敏感だ。
それは多分、ライトも例外ではないと思う。まぁ、ライトは他の機人族に比べると全然変な奴じゃないけど。
「ライトくんがその事を知ったら。自分の種族すら、不確定であやふやなものであると知ったら……その事実は彼に大きな精神的負荷を与えるよ」
「……はい。わかりました」
「わかったなら、行ってよし。お大事に〜」
「ありがとうございました!」
そう言って俺は、ライトを引きずって診療室を出たのだった。
そして、改めてポケットの中の名刺を見た。
そして、先生の名前を頭に刻みつけた。
「『ウェアチェル・イーサカ』……【人間族】。イーサカ研究所の第一責任者……」
俺は再び名刺を懐に仕舞い込み、イラとエルの元に向かったのだった。
****
〜ウィンダリア王城 書庫〜
「……これは」
スカルは、書庫の書物や資料を読み漁っていた。
かれこれ数時間。彼の目は疲れを訴え始め、首や背中は痛みを発し始める。
だが、今しがたスカルが見つけた資料。それは、疲れや痛みなんて些細なことを忘れさせる程のインパクトがあった。
(もしこれが、本当ならば)
スカルは推理し始めた。
やがて、一筋の道が彼の脳裏に浮かんだ。
「……カリスの事について調べてたんだがなぁ」
スカルは困ったように頭をかき、苦笑した。
しかし、その目は全く笑っていない。
スカルは資料を置いた。
「『機械仕掛けの神』……ねぇ。何に対して、こんなぶっ飛んだ兵器をぶつけるつもりなんだか」
マジで神クラスを殺る気か――そう言いながら、彼は自分の家に居候している一人の男の姿を思い浮かべた。
……ライト・マーロウ。
彼の推理が正しければ……彼の、正体は。
「……兵器」
彼はそう呟きを落とした。
その呟きは、誰にも聞かれることの無いまま、書庫のホコリ臭い空気に混ざって溶けていった。
****
〜バーン隊(バーン&アステロル抜き)VSウィンニュイ・ヴェーラ(鬼人形の軍勢付き)〜
「どっせいやあああああああああああああ!」
リューの炎刃が、鬼人形の軍勢を五体ほど纏めて焼き払い斬った。
そのリューの太刀裁きに、ウィンニュイは目を丸くする。
「ほう。なかなか良い腕です」
「えっへへぇ。そうでありますか、それほどでも……ありますけどぉ〜!」
「敵に褒められて喜んでんじゃねーよブス!」
「んにゃっ!?」
ウィンニュイに褒められて喜ぶリューに、電気人間に変身したジャッカーから怒号がぶつけられる。
リューの表情は喜びから一転、悲しみへと変化した。
「ブス……で、ありますか……」
「皆。副隊長は無視でいこう」
バーン隊最年少であるミューの冷静な声が伝播する。
そして、ミューは銃をタンタンタン、と三回撃った。
『グギャ!?』
『ゴァッ!?』
『ギュイ!?』
三発の弾は全て、三体の鬼の頭の中央にそれぞれ命中した。
ミューは射撃の名手。これくらいはお手の物だった。
「うーん。ヘッドショットでも、死なないかぁ」
「まぁ、ゴーレムの仲間ですから。動かしてる核を破壊しなければ止まらないでしょう」
ミューの残念そうな声に、参謀のリキラがメガネをクイッと上げて答えた。
そして、リキラはジャッカーに支持を飛ばす。
「ジャッカー! 『魔杖』に武器を切り替えて、ゴーレムを全て壊してしまってください!」
「オッケー。おいテメェら離れてろ――感電したくなかったらなッ!」
今まで警棒を振るっていたジャッカーは、宝玉のはめ込まれた杖に武器を変更した。
そして、杖を天に掲げる。
「やっ、やばっ!」
「逃げるッスよ!?」
「はぅ、もっと待っててよ〜〜〜〜」
焦る人魚に変身したラヴィー。同じく真っ青になるガリウス。ぶりっ子演技を続けながら、鬼人形の頭部を拳鎧を纏った拳で粉砕するネネリート。
それぞれ三者三葉の反応を見せる中、ジャッカーが問答無用と言わんばかりに杖を掲げた腕を振り下ろした。
そして、ドッゴォォォォォォォォォン! と、雷鳴が轟いた。
鬼人形の軍勢は突如落ちた雷に為す術もなく打たれ、粉砕されてしまう。
高威力の雷は、鬼人形の体内の核ごと粉砕した。
「うっひゃあ。こーりゃやべー威力」
森人族のアウラが、仲のいいガリウスと共に雷が落ちる地獄絵図を見て頬を引き攣らせた。人魚に変身していたラヴィーも呆然としている。
そして、衛生兵であるはずの吸血族のキャシィと森人族のフララは、雷に怯えていた。
「キャシィ先輩〜〜〜〜〜! 怖いです、怖いです!?」
「うっせぇ寄るな乳エルフ! 乳押し付けんな嫌味か殺すぞ血ィ吸うぞ!?」
「そう言いながら、キャシィも私の後ろに隠れないでいただきたい」
メガネを光らせるリキラの服の裾を掴みながら、キャシィは背後から抱きついてくるフララに悲鳴を上げていた。
だが、ジャッカーはそんな事もお構い無しに雷を落とし続けた。
「ちょっとリキラ。あれ、ヤバくない?」
ラヴィーがリキラに近寄り、そう告げた。
彼女が指さすのは、バチバチと放電しながら未だに鬼人形達を蹴散らし続けるジャッカーだ。
「ええ。暴走気味ですし、身体にかかる負荷も多くなり危険ですが……最近、彼は鬱憤が溜まってましたから。いっその事、ここで全部発散させてしまった方がよろしいでしょう。その方が後々我々も楽ですし、得です」
「……冷酷」
「仲間を信頼しているのですよ、ラヴィー」
リキラのメガネを光らせながらの発言に、ラヴィーはドン引きする。
しかし、そんな彼女にキャシィがフォローを入れた。
「まぁ、陰キャメガネは会計係だし、損得勘定で動くくらいでちょうどいいだろ。それに、あの電気バカ、これ以上鬱憤溜めるとめんどくせぇぞ」
「……まぁ、そうかもね」
キャシィのその意見に、ようやくラヴィーは納得した。
リキラは己を庇ってくれたキャシィの頭を、感謝の気持ちを込めて撫でた。だが、『触んな陰キャとメガネが伝染る』と払われてしまう。
「ミューくん。いつでもジャッカーを止められるように、鎮静弾の準備お願いできるかい」
「うん。わかった」
アウラはミューに、いつでもジャッカーを止められるようにそう頼み込む。
ミューは手元の銃を弄り、弾を通常弾から鎮静弾へと入れ替えた。
「オラオラオラァ!」
ジャッカーの落雷が、鬼人形を確実に正確に屠っていく。
だが、その顔には疲労の色が見えてきた。
その様子を見て、ウィンニュイは足を組み直しながら考える。
(あの様子だと、あの怪人族はもう少しで果てるでしょう。そこが攻め時でしょうか)
だが、ウィンニュイはジャッカーの背後で牙を研ぎ続ける、九人の憲兵達を見抜いていた。
(あの怪人族が果てた時、あの憲兵達は奇襲を仕掛けてくる。それは間違いない。……ここで皆殺しにしてもいいんですけど、それをやっても見返りは少ない)
やがてウィンニュイは、一つの考えに辿り着いた。
(ていうかそもそも、私にとって彼らと一戦交える理由がないじゃないですか。イラ達もいないし、もう私がここにいる意味ありませんね)
ウィンニュイは影の椅子から立ち上がり、背後の魔法陣に手を伸ばす。
だが、それを見たジャッカーはウィンニュイにも電撃を飛ばした。
「させるかァ!」
稲光がウィンニュイへと空気を焦がしながら突き進む。
だが、ウィンニュイは冷静だった。
ウィンニュイは懐から待ってましたと言わんばかりに、マジックストックストーンを取り出し、それを砕いた。ウィンニュイの手の中に水色の魔法陣が浮かぶ。
ジャッカーは電撃を放ったままの姿勢で硬直する。
(誘われた――!?)
ウィンニュイはその通りです、と言うかのように魔法名を唱えた。
「【鏡よ鏡】」
ウィンニュイの前に盾のような透明な鏡が現れる。
その鏡にジャッカーの電撃は直撃。しかし、その鏡は砕け散ることは無く、逆にジャッカーの元へと電撃を跳ね返した。
「!」
ジャッカーに反射された電撃が直撃した。
ジャッカーは天に吠えるように叫び声を上げた。
「グアアアアアアアアアア!?」
そんな彼を見たウィンニュイは、薄く笑って言った。
「それでは皆様、ごきげんよう」
そう言うと彼女は影の中へと溶けるように消えた。
それと同時に、魔法陣から出てくる鬼人形の排出速度が一気に上がった。
ジャッカーが焼き尽くした鬼人形の倍はあろうかという数の鬼人形が、あっという間にこの場を占拠した。
「……どーすんだよ陰キャメガネ。増えちゃったぞ」
「……そうですね。ジャッカーも潰されましたし、とりあえずラヴィーの水流で薙ぎ払ってもらいましょう」
「えっ、私?」
ラヴィーは突然指名されて驚くものの、すぐに人魚へと変身し、高圧水流でこちらへ進軍してくる鬼人形達を押し戻した。
だが、これだけではやはり限界がある。
「とりあえずキャシィはジャッカーを回収。手当てをお願いします」
「は? 乳エルフの回復魔法使った方が良くねーか」
「乳エルフの回復魔法は使います。しかし、彼女はあそこまで行く度胸が足りない。だから、貴方に頼むのですよ」
「……ったく、雑用かよ」
「……リキラ先輩まで乳エルフって言わないでくださいよぅ」
フララは顔を赤く染めながら、胸を隠した。
だが、リキラはそんな事気にもせずにキャシィの背中を押す。
キャシィは不満を垂らしながらもジャッカーの方へと走っていった。
(すみませんね、キャシィ。だが、キミは衛生兵として優秀だ。それは誇っていい)
リキラはキャシィへと心の中でエールを送る。
フララの回復魔法の万能さ故に、キャシィは他の隊からよくおまけやお荷物扱いされている事をリキラは知っていた。
だが、衛生兵とは回復魔法さえ使えればいいと言うわけではない。キャシィの度胸や医療知識は、衛生兵にとって必要不可欠なものであり、フララにとって足りないものだった。
(フララだって、キミの背中を見て尊敬し、学び取っているでしょう。キミは優秀だ)
リキラはそう心の中でキャシィにエールを送り、メガネをクイッと上げた。
「はわわ、やっぱりラヴィー先輩だけじゃ、どうしようもないですよぅ」
一方で、段々と水流の勢いが弱まってきたラヴィーに対してフララが震えた声を出す。衛生兵は肉体だけではなく、隊員を勇気づける役割も果たすため、常に気丈に振る舞っていなければならないのだが、こういう気弱な所がフララの弱点であった。
しかしそんな気弱なフララの意見にガリウスも同調した。
「そうッスよ! ラヴィーだけじゃ、限界あるっス! リキラさん、早く次の指示を!」
「……そうですね」
リキラは少し呼吸を落ち着けた。
そして、思い出した。さっきからずっと、隅っこの方で『ブス』と呼ばれて落ち込んでいた愉快な副隊長の存在を。
「アウラ。キミの得意な軽口で副隊長の機嫌を直してきてください」
「……ええ。俺、そんな軽口得意だっけ」
「この中じゃ一番口先が回るのは貴方です。お願いしますよ」
「……はいはーい」
アウラは不満そうにしながらどんよりと沈むリューの元へと歩いていった。
そして、リキラは次にガリウスとネネリートに指示を出した。
「ガリウスとネネリートはラヴィーの限界が来たら即効で突っ込んでください。あんまり期待はしてませんけど、なるべく多く殲滅してください」
だが、ネネリートはその言い草が気に食わなかったようだ。
本性を隠さずに不満を漏らす。
「それが人に物頼む時の態度かよ……」
「本性出てんぞ腹黒兎」
ジャッカーを回収し、一通りの手当てを済ませたキャシィがネネリートを嗜めた。ついでにキャシィはフララに回復魔法を頼んでおく。フララは詠唱を紡ぎ始めた。
しかし、ネネリートは本性が露わになっている事を歯牙にもかけようとはしなかった。
「ケッ。よく考えたらこのメンバーの中じゃ今更じゃねーかよアタシの本性なんて。それになんでアタシがガリウスなんかと」
辛辣なネネリートの言葉に、ガリウスは瞳の縁を涙で濡らした。
「うう……俺なんか……」
「そんな事ありませんよガリウス先輩っ」
「フララちゃん……ありがとうっス」
傷心のガリウスをフララが慰めた。
それを見てキャシィは彼女の成長を感じとり、小さく笑う。
リキラは鬱陶しそうにしながら、語気を少し強めた。
「いいから、参謀の私の言う事は聞いてください。ボーナス多めにしますから」
「っしゃ、やるぞガリウス!」
ボーナスの昇給――それを聞いた途端、ネネリートの体に活力が漲った。
そんなネネリートを見て、ガリウスは半眼で笑う。
「単純ッスねぇ……」
「何か言ったか」
「いえ別に?」
何やら言い争いを始めた彼らを他所に、リキラは次にミューに話しかけた。
「ミュー。今、弾倉に込めた弾は鎮静弾ですか?」
「うん。そだね」
「ならば、それでガリウス達を援護してください。鎮静弾はどこか体の部位の一部に当たるだけでも効果がありますから、通常弾よりもそちらの方がサポートになる」
「けど、ガリウス達に当たっちゃったらどうするの」
「そこはキミの腕の見せ所です。キミなら出来ますよ」
「……全く、無茶言ってくれるね、リキラ」
そう言いながらも、ミューは不敵に笑っていた。
リキラもそれに笑い返す。
すると、アウラの声が聞こえてきた。
「はい、副隊長の機嫌直してきたよリキラ」
「なら、貴方とリューもガリウス達と共にあの軍勢に突っ込んでください。リューには全力で行け、と伝言お願いします」
「オッケー」
……これで、準備は整った。
そして、ラヴィーの水流が完全に勢いをなくし、鬼人形の軍勢がこちらへ突っ込んでくる。
だが、それと同時にガリウス、ネネリート、アウラ、リューの四人が立ち向かっていく。ミューもそれを援護した。
「ご、ごめん、もう無理」
こちらに戻ってきて早々、掠れた声でこちらに謝罪するラヴィーに、しかしリキラは頼もしさを覚えた。
こんなにも頼れる仲間達がいる……負ける気がしない。
「いえ、上出来です。貴方のおかげで、対策は練れた」
「対策って、どんなの?」
「……まぁ、端的に言えばゴリ押しですね」
「何それ」
「我々バーン隊らしいでしょう?」
「……まぁね」
そう言うとラヴィーは笑った。
そんなラヴィーの喉を、キャシィがスプレー型の薬で癒す。
「あんま無理すんなよマーメイド」
「キャシィもね」
互いにクスリと笑い合う。
そして、リューの元気な声が轟いた。
「エンジン――フルバースト! っでありますッ!」
****
【小噺】〜アウラの説得〜
「副隊長。どうしてそんなに落ち込んでるんですか」
「うう……ブスって言われたであります。傷ついたであります」
「……はぁ。それはアレですよ、照れ隠し」
「……照れ隠し?」
「年頃の男ってのは、どうしても女の子に対して素直になれないものです。ジャッカーも多分それでしょ」
「そっ、そうなんでありますか!?」
「うんそーそー」
「なら、ライトくんがいつもつれない態度なのも、年頃だから!?」
「うんそーそー」
「うおっしゃ、なんかやる気出てきたであります!」
「じゃあ戻ってリキラの指示聞こっか」
「了解であります! 暴れるでありますよ〜〜〜〜!」




